第121話 ブライダルベール of view

 「あの頃の俺は、まともじゃなかった…。愛する妻を、子どもを、腹も空いていないのに、襲おうとしたんだ……」

 エボニは、ただ、俯くだけ。

 しかし、決して、耳を塞いだり、喋りだした俺を止める事は、しなかった。

俺は、話を続ける。


「もう、自分が自分で、制御できなかった…。…だから、お前らを傷つける前に、逃げ出したんだ。全部を、ほっぽり出してな」

 エボニは、俯いたまま「いいって、言ったのに…」と、呟いた。


 「…それにな。俺は、正気に戻ってからも、ラッカの仲間を食ってる。ラッカの仲間以外にも、襲ってくる奴ら。無抵抗な奴ら。…極限状態では、同族も食らった事がある。……お前たちに、生きて会うためにな」

 俯いたまま、何も言わない、エボニ。


 「一生、その罪悪感は消えないぞ。エボニ。…今なら戻れる。ラッカなら、一人でも生きていける。…そうだろ?」

 俺は、エボニの答えを待つ。

 ラッカも、口を挟もうとはしなかった。


 「………」

 時間の流れが、遅く感じる。

 沈黙だけが流れて行く。


 …どれだけ経ったのだろうか、顔を上げたエボニ。

 その、苦しそうな、それでいて、純粋な瞳が、俺を射抜く。


 「……お父さんは…。お父さんは、今幸せ?」

 俺は、一瞬、息が止まった。

 初めて、エボニが、俺の事を、お父さんと呼んでくれた。


 今の本心を言っては、きっと、この子は出て行ってしまう。

 それでも、父親として、答えないと言う、選択肢はないだろう。


 「あぁ…。幸せだぞ……。家族に会えて、成長したお前に会えて、俺は幸せだ!」

 どうしても、声が震えてしまう。今の俺は…上手く笑えているだろうか。


 「そっか!」

 いや、今のエボニよりは、上手く笑えているに違いない。


 「……行こう。ラッカ」

 ラッカに声を掛ける、エボニ。


 「し、しかし…」

 狼狽えるように、俺と、頭の上のエボニを、交互に見つめる、ラッカ。


 「…何だ?俺の、可愛い息子が貰えないって言うのか?」

 「そうだよ、ラッカ。こんなチャンス二度とないよ?」

 食って掛かる俺と、素で言っているのではないか。と、感じるほど、純粋な瞳をしたエボニ。


 「……分かった。しかし、どうなっても知らぬぞ?」

 俺ではなく、エボニを見つめて、答える、ラッカ。


 「うん!」

 それに嬉しそうに、答えるエボニ。


 「あぁ~あ。親の前で、妬けるこってぇ~…」

 俺は、そう言いながら、布を紐で巻き付けた、石の欠片を、エボニに向かって投げる。


 エボニは、慌てて、それを受け取り、ラッカの頭の上から落ちそうになった。

 ラッカも慌てて、頭を動かし、エボニが落ちないようにバランスを取っている。


 「クハハハハハハッ!」

 その姿が、あまりにも滑稽で、笑いが込み上げて来る。


 「いやぁ!最後に良いもん見せてもらった!…んじゃ、ここらで、お別れと行きますか」

 再び、バランスを取り戻した二人を見つめる。


 「息子を頼んだぞ。化け物」

 「お主に言われとぉ、無いわ。化け物殺しの、化け物」

 これは一本取られたと、自身の頭を小突く俺。


 「…父さんも、皆を宜しくね」

 「お父さんの心配はなしか?!」

 「…まぁ、お父さんは、化け物より強いらしいしねぇ~」

 これまた、息子からも、手厳しい一手を貰った。

 この楽しい空気にいつまでも浸って居たい。


 「んじゃ。最後に。……お互いに、悔いはないな?」

 このままでは埒が明かないと、空気を改める。俺。


 「悔いしかないのぉ」

 「悔いだらけだね!」

 楽し気に、答える二人。


 「…最後の最後まで、締まんねぇ奴らだな!」

 「あー。やだやだ」と言いながら、俺は背を向け、閉じ込められている、皆の回収に向かう。


 「……行ってきます。父さん」

 背後で、遠ざかる声がした。


 「おうよ」

 俺は、紐を解きながら、届いているか、どうかも分からない返事を返す。


 ……そう言えば、この袋って…。

 中からは、満面の笑顔を湛えた、化け物かあさんが出てくる。


 「…はぁ、結局、最後まで、締まんねぇのかよ……」

 その日、化け物殺しの化け物は、更なる化け物の手によって、ボロ雑巾にされた後、毛玉街の天井から、吊るされる事となった。


=====

※後書き。


 皆様。お久しぶりです。おっさんです。


 遅ればせながら、長らく、当作品から、失踪していた事、お詫び申し上げます。


 復帰の主な切っ掛けは、当作品ページを覗いた時、未だに、お気に入りや、ブックマークの登録が、残っていた事です。

 しかし、登録を消し忘れただけで、更新しても、誰も見ないだろうな。と、思っていたのですが、しっかりと、追ってくれている方々がいて、とても励みになりました。


 さて、何故こんな話をしているかと言うと、募集キャラクター(エボニとラッカ)の物語を、区切りの良いところまで、進める事が出来たからです。

 皆様から見れば、大したことは、ないかもしれないですが、僕としては、ずっと、気がかりだったので……。

 キャラを応募してくれた皆様へも、この場を借りて、謝罪申し上げます。


 今後も、応援してくれる方々がいる限り、書き続けようと思いますので、宜しくお願い致します。


 また、読んで頂けるなら、より良い物にしていきたいと思います。

 展開が早い。遅い。文章がくどい。分かりにくい。ここってどういう意味なの?など、疑問や、ご指摘があれば、率直にお聞かせください。

 素人なので、どこまで反映できるかは、難しい課題ですが、常に、頭の片隅には置かしていただきます。

 加えて、感想なども、励みや、視野を広げる糧となるので、ちょっとした内容でも、送って頂けると幸いです。


 最後になりますが、長い後書きを書いてしまい、前述の件と合わせて、誠に申し訳ありませんでした。

 そして、ここまで付き合っていただいた皆様、ありがとうございます。

 

 これからも、仕事と、投稿、上手く両立させていきたいと思うので、宜しくお願い致します。

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