第34話 リリーとトラウマ

 お姉ちゃん、どうしてるかな…。


 私は二階の網戸あみどから少しだけ顔をのぞかせて村を見下ろす。


 しかし、お祭りでにぎわう通りからお姉ちゃんを見つけ出せるわけもなく、村人の一人と視線が合った私は怖くなってすぐに家の中に引き返してしまった。


 外が怖い。人が怖い。

 なんでも危険なわけじゃないし、みんながみんな悪い人じゃないってことも分かってる。

 それでも怖いのだ。


 最初は男の人と女の人が私をいじめた。

 そんな私をお姉ちゃんは必死にかばってくれた。

 最後には私を外の世界へと連れだして、救ってくれたのである。


 その内、私とお姉ちゃんは見覚えのない場所にいて、色々なところを回った。


 怖い人がいっぱいいた。危ない事がいっぱいあった。それでもお姉ちゃんは私を守ってくれて…最後にやっとカクタスさんと出会った。


 カクタスさんは強くて、優しくて、私達を守ってくれた。愛してくれた。


 守られる事に不慣れなお姉ちゃんは戸惑って突き放すような態度を取るけど、父さんはそれも分かっているようで、しつこいぐらいにからむのだ。


 その内お姉ちゃんは怒っていなくなってしまうのだけれど、お姉ちゃんがあそこまで感情を表に出す所を私は見た事がない。

 それはきっと父さんに心を許している証拠だと思って微笑ほほえましく見守っている。


「ただいま」


 一階からお姉ちゃんの声が聞こえてきた。

 しかし足音は三人分。一人は多分コランさん。もう一人は分からなかった。


 私は小さな声で「おかえりなさい」と言う。

 この距離では聞こえていないかもしれないがこれが私の精一杯だった。


 私は下の階に降りることなく、姉さんの友人たちが帰るのを待つ。


 待つと言ってもしている事はいつも通り、わらんだり、綺麗な石や羽ばたく者の羽根で装飾品を作ったり、小物を作るだけだ。

 まぁ、姉さんの順番待ちをしている意味ではあながち間違いではないのかもしれない。


 いつも通り静かに工作を始めると、足音が階段を上ってくる音が聞こえた。

 それも三人分だ。


 姉さんだけが上がってくるのは分かる。でも三人はおかしい。

 しかもその中に聞きなれない足音が混ざっているとなれば私はパニックになってしまった。


 散らばしたものはそのまま、急いで布団にもぐると足音が去るのを待った。


 布団にもぐってみれば思いの外、落ち着いて、姉さんの部屋に向かうのではないかと言う予想が立った。

 そうだ、そうに決まっている。


 しかし予想に反して足音はどんどんと私の部屋に近づいてきて…。


 心臓がバクバクする。

 呼吸が早くなって止まらなかった。それなのにまだ息苦しい。


 私は必死にもがく。男の人に首をめられた時と同じ感覚だ。

 あの時もお姉ちゃんが男の足をって助けてくれた。


 お姉ちゃん!助けて!息が、息ができなっ…。


 そこで私の意識は闇の底に沈んだ。

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