第24話 ミランと愛

 私は村の人からカーネちゃんと娘が遊んでいたとの話を聞いてここまで来た。


 しかしカーネちゃんは本当に娘と遊んでいただけのようで「昼間遊んでいるときに森に行こうと誘われた」と聞いた時には頭が真っ白になった。


 遊んだ後は家の畑にある納屋の前で解散した為、その後の事は知らないのだと言う。


 カーネちゃんが「私も一緒に探しましょうか?」と言ってくれたが、それは流石に頼めないと断って、急いで納屋に向かった。


「…ない」


 案の定。手入れをして立て掛けて置いたはずの薙刀がそこにはなかった。


 娘にあの薙刀が使えるとは思えない。

 が、万が一にも私の娘だ、あの力を目覚めさせてしまったら制御できるわけがない。


 あの薙刀は遺物なのだ。

 遠い昔に名工が作り、世界各地にばら撒いたとされるうちの一本。

 元貴族の娘だった私が家から奪って逃げだした名刀で、私の相棒だった。


 一般の人間が持てば美しく、切れ味が良いだけのただの薙刀。


 しかし持つ人が持てばその気力と引き換えに感覚をまし、身体能力を向上させ、切れ味さえも数段上げる。

 原理すらも分かっていない遺物なのだ。


 ただそれは制御できていればの事。

 そうでなければ唯々、気力を吸い上げられ、意識を失ってしまう。

 この場で娘が意識を失っていればと思ったのだが、この様子だと中途半端にあつかえてしまったらしい。


 だが訓練もしていない娘だ。

 いくらすじが良くても、薙刀を使えばもう既に動けなくなっている可能性が高い。


 夜の森で動けなくなったら…。それは死を意味するだろう。

 いや、動けていたとしても生きている保証はない。


 でなければ当の昔に私が森で食料を調達していただろう。

 それほど今の森は危険なのだ。


 私は納屋を出ると森に向かって駆け出した。


 皆に助けは求められない。

 もし手伝ってくれる人がいても無駄な死人を増やすだけだ。


 こんなことを言ってはいけないのだろうが、正直娘が生きている可能性は限りなく低い。

 冒険者をしていた私のかんに狂いがないのは、私がここまで生き延びてきた事で証明できるだろう。


 それでも足が止まらないのはきっと愛だ。


 愛を知った冒険者は使い物にならなくなる。

 そう言っていた元冒険者がいた。


 あぁ、確かに使い物にならない。

 それを薄々気が付いていたが為に、私たちも冒険者を辞めた訳だが。


 しかし、こうも非合理的な行動をとるとは。

 こんな様子の私を見たら、冒険者の頃の自分は笑い転げるだろう。


 それでも私は行かなければいけない。

 そうしなければきっと私の心は死んでしまうから。

 そう、これは娘の為じゃない。自分の為なのだ。


 私は自己満足の快楽かいらくに酔いしれて、心の底から娘の無事をいのった。

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