第15話 メグルと泳ぎ名人

 僕は魔物の死体から魔臓を取り出していく。

 魔臓とは魔物が魔力をためる部位で、ほとんどの魔物が有しているのだ。


 その豊富な魔力のおかげで腐敗しにくく、ほかの肉が腐り落ちても原形をとどめたまま残るので、魔力を感じ取ることのできない僕でも見分けることができた。

 そういう意味では腐敗が進行していて運がよかったのかもしれない。


 取り出した魔臓はどんどんとつるで縛っていき、体に巻き付けられるようにしていく。


 魔臓として残る部位は様々だ。

 眼球や耳、臓器や肉塊等はまだわかりやすい方で、角や牙、骨などは元々腐らないので分かりにくい。

 

 まぁ現在、手っ取り早く判断することはできないので手当たり次第、臓器の袋に詰めていくしかないのだが。


 散らばる魔臓を回収し終えるころには湖の向こうからレトが帰ってきた。


 この辺りから発生する毒は水によく溶け、体内に取り込まない限り、強い毒性も発揮されない。

 雨水で氾濫している今は毒が水に十分溶け、気化しない。その為、湖に浸かっても問題ないようだった。

 …勿論、水に毒は含まれているのでケガなどをしていたり、水を飲んでしまえば危険な事に変わりないけどね。


 しかし、こちらの姿が見えるようになると、レトは時折水中に潜っては沈んでいる死体を貪り始めた。


 そんな事をして目や口から水が入らない訳が無いので、レトはこの毒にある程度耐性があるのかもしれない。

 泳ぎも他の兄弟より、数段上手い…。まさか、投げられ慣れている?


 いや、でも考えてみれば毒への耐性は当たり前か。だってその水で濡れている魔臓を皆、貪っているのだから。毒を摂取しない訳がない。


 レトはたまに見せつけるように大きな魔臓を掲げてくるので、もう食事を終えた皆が少し苛立っている。

 如何やら皆も流石にこの毒沼には入りたくないらしい。


 確かに臭いもすごいし、体に悪そうだもんね…。

 そういう意味での罰ゲームなのだろうが、この泳ぎのうまさから察するに、毎回投げられているであろうレトは一周回って吹っ切れたというところだろうか。


 可哀想に…。

 いや、あのにくたらしいどや顔を見るとそうでもないか。


 レトが岸につくのを待つことなく、皆がきびすを返すと森に向かって歩き始めた。

 僕も姉さんにくわえられその場を後にする。


 レトは慌てるように着いてきたが、皆がぐんぐんと速度を上げていき、その内レトは見えなくなってしまった。


 水の中で威張ったバツだ。

 …それとちょっと臭すぎる…。


 その瞬間だけは兄弟皆の声がしっかり聞こえた気がした。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る