第13話 メグルと空飛ぶレト

 結局兄弟全員が到着したのはそれから10分程後だった。

 皆は離れることなく集団でこの場まで来たようで、同着ではあったが、レトだけが息を切らしていたのが意外だった。


 ステリアからだらしないと言ったような視線を送られるレト。

 くやしそうに歯を食いしばってはいるが、反論はできないようで、目をらしている。


 ハウンドがまぁまぁと言った風にステリアの背中に前足を置くと、それだけでステリアの機嫌は直ったのか、ハウンドに頭を擦り付けていた。


 その時のハウンドの何とも言えない表情と言ったら、笑いがこらえられなかった。

 セッタ姉さんをしきりに気にしているのがまるわかりだ。


 しかし、姉さんはそんなことを気にもしていないように欠伸をすると、丸めていた体を起こし、背伸びをした。

 それから短く「わぅ」と吠えると、兄弟たちがしゃきっとする。


 姉さんはゆっくりとした足取りで皆の方に向かうと、あからさまにレトが目を逸らした。

 そんなレトの目の前に姉さんは向かうと、首元を子猫を持ち運ぶように咥え、大きく振りかぶって…。投げたぁ~!


 大きく空を飛んだレトはホームランボールのように夜闇の中に消えていく。

 ばしゃ~ん!と大きな音がしたので湖の中に落ちたのだろうが、全く展開が読めない。


 あまりの出来事に僕が困惑していると、ハウンドがステリアの時と同様に僕の背中に前足を僕の背中にポンと置いた。


 なぐさめられてる?!もしかして僕もあれを?!

 …いやいや!死んじゃうって!


 そんな僕の内情を知ってか知らずか、セッタ姉さんがゆっくりとこちらにやってくる。


 その様は白い体と光る眼も相まってまるで幽鬼ゆうきのようだった。そして僕の首元をパクリ。


 背筋がこおる。

 あんなに飛んだら着地地点が水でも衝撃でバラバラだ。


 姉さん?冗談だよね?


 姉さんに視線を向けるが、何も答えてはくれない。

 そして僕の体を振りかぶると!


 ポンと、自分の背中にのっけた。


 振りかぶられた瞬間意識が真っ白になった。

 洞窟から出る時にされた行為と同じなはずなのに、シチュエーションが違うだけで腰が立たなくなってしまう。


 姉さんの悪戯いたずっぽい横顔を見るに、ワザとだろう。

 皆も面白い物を見た、と言った風な顔をしている。


 特にハウンド兄さん!いい気味だって顔してやがったな!

 兄さんだからって調子に乗るなよ!姉さんといい感じの時にステリアをけしかけてやるからな!


 僕は恥ずかしくなってステリアのモフモフに顔をうずめる。

 獣臭いのはもう慣れたので大丈夫だ。


 一行は湖へと向かって足を進め始めた。僕は相変わらず顔をうずめたままだが。

 …だって生暖かい視線をそこかしこから感じるんだもん!


 …しかしあれだね、暖かい感じの空気で終わったけど、冷静になると…レト大丈夫かな?


 少し熱が冷めた僕は顔を上げ、湖の向こうを見渡した。

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