第5話 急転

 今日も兄弟が公園に来ていないことを確認し、僕は最低なほど鬱々とした気持ちになった。子供と会えない現実がここまで厳しいとは今まで感じたことはなかった。


 やはり傷の手当てがマズかったに違いない。


 家に帰ると、別居している兄が来ていた。見たことのない女性が一緒だ。


 聞けば婚約し結婚後は実家に同居するというのだ。女性は柔和な印象の美人で今時に珍しい器量の良さを感じた。


 女性は両親や弟とはもう面識があり、会ったことがないのは僕だけだったようだ。僕の知らないところで家族の縁談が進行していた。つまるところ僕の家族内での位置づけはその程度と言うことだ。


 兄と婚約者が帰った後、父が僕を呼んだ。


 ある程度資金を負担してやるから別居してほしいと、父はそう言った。


 当然の成り行きだ、相手の親と同居するのに義理の弟までいては婚約者の女性の負担が大きすぎる。


 僕は敷地の隅にプレハブで建てられた離れに住んでいたが、それでも無職の大の男が隠居のように居座っていては、夫婦生活の影になるだろう。


 もっとも、この事態は願ってもなかった。僕は兄妹を誘拐したら、その離れで育てるつもりでいたのだが、別居はさらに好都合だった。


 僕は二つ返事で快諾し、引っ越し先はとある家賃三万円の格安アパートを指定した。


 父が家賃を少し補助してやるからもっとマシな物件はどうかと言ったが、今の収入で自立したいと心にも無いことを言って辞退した。


 それはなぜか。


 誘拐を決意した初期に兄妹を尾行し、住んでいるアパートを確認していたからだ。


 そして兄妹が入っていった扉の隣の部屋は、確かに空き部屋だった。

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