体育系高校の教師
望月 臨
少年の疾走 1
「またお前かー!!!」
後ろで男が叫ぶが気にせず走る。
捕まらないように避けた。門を潜る。
時間は少し。しかしアレが鳴ってなければ問題ない。
靴は履き替える必要はない。俺はこれがこの施設で2番目に感謝している事だ。
階段を登り三階へ、後は教室への直線。時間は後10秒。
俺の体力はギリギリだ。
(間に合え〜!!!)
最後の力を振り絞り、教室へと到達する。
ー5ー
教室は静かになり始めている。
ー4ー
俺はドアを開ける。
ー3ー
ふと、違和感を感じた。
(あ、あれ?)
ー2ー
思いっきり開けようとする。
(なんだ……? おかしいぞ。)
ー1ー
そして気づく。
(誰だよ……?! こんな時に)
「鍵かけたのはああぁぁぁぁぁああ??!!!!」
ー0ー
[♪〜♪〜〜♪〜♪〜〜]
『ガチャリ』
チャイムがなり終わると同時にドアが開く。
「誰だ! 鍵かけたやつは!」
クラス内は今日も遅刻した俺を見て笑っていたが、俺の叫び声を聞いて一瞬で静まり返った。
よく見ると皆顔が青い。まるで絶対強者の怒りを目の当たりにしたような顔を……
そしてふと、目線が自分の方を向いていない事に気付いた。
(え? 何故みんな教卓……、っげぇ!?)
そこには1人の鬼婆、もとい1人の女教師の姿があった。
「鍵をかけたのは私だが……死にたいらしいなあ、坂本?」
「す、すす須賀先生!? なんでここにいるんですか! 担当は隣の教室でしょうが!!?」
須賀 優子 人生経験値31……訂正26.5
授業は剣道や柔道を担当。
元格闘選手で、国内外構わず数々の大会で優勝。
23歳で身体の限界を理由に引退。今は俺の通う体育高校で教師をしている。
生徒からの評判はいいが、部活では剣道の師範代をしている。
故に学校では『生まれる時代を間違えた戦闘狂』と呼ばれ、校長が
[須賀先生を怒らせてはならない]
という校則を作るか真面目に検討する程危険な存在である。
(てかいつも思うんだがこの人最近筋力が衰えている噂があるが嘘だろ? 全然衰えてる気配がねえじゃねーか!!?)
「ここにいる理由か? 懲りずにお前がまた遅刻したからだろうが? 後な、お前以外には伝えたが今日綱海先生急用で休みなんだよ」
その言葉を聞いて悟った。
「ま、まさか……」
「でな、その代わりにこの馬鹿クラスを誰が見る? ってなってな、丁度いいから性根を叩き直してやろうと進言したんだ。隣は今吉本先生が担当しているよ」
冷や汗が止まらない。逃げろと本能が訴える。
しかし、もはや遅い。何故なら背後には……
「よお、坂本、今日もいい逃げっぷりだったじゃねえかよ」
経験値40越えの筋肉だるまがいた。
「あら志倉先生、校門見なくて大丈夫なんですか?」
「それは大丈夫です。生徒の名前と顔は覚えてるのでコイツだけ来てなかってんですよ」
「そうだったんですか、私もさっき暴言を吐かれたので指導室へ連れて行こうかと思ってたんです」
会話の声音は近所のおばちゃんのように穏やかだが、話している内容がヤバい!
片や何処からか竹刀を片手に、片や拳を鳴らしながら近ずいてくる。
クラスの皆は……廊下へと逃げていた。
約束は!? 痛みや苦しみを分かち合おうって約束したのに見捨てやがった!!!
「「さて、覚悟はいいか?」」
何故かハモる2人にせめてもの抵抗を!
「これ体罰でしょ!」
(ハハハっ、これは教師にとってやってはならぬ事! これで逃げ)
「それは大丈夫よ。校則と国からの許可得てるから」
……ハァ?
「「と、言うわけで殴られ(しばかれ)ろ!」
「ギャァァァァア!!!」
今日はいつもより大きく叫び声が聞こえたという。
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