第52話 次の日
その日は取り敢えず休んで次の日になる。寝床は建て直した村長宅だ。
時刻は山の核3時を示している。
「ふぁ〜〜〜あ、よく寝た。」
ボサボサの髪をかきながらベットから這い出す。
「腹減った…ご飯…」
空いたお腹を撫でながら部屋を出る。
ギシギシと音を立てながら下の階へ降りて行った。
ガチャ
「ん?海斗か。おはよ〜。」
「おはよ。他のみんなは?」
リビングのドアを開けると先に起きてきていた翔太が居た。だが他のみんなの姿が見えない。
「メイアさんは身体強化の修行、僕も食べたら一緒にやる。火野さんは村長さんに詠唱魔法について聞きに行った。サーラちゃんはそこにいる。」
「ん?呼んだ?」
リビングのキッチンの所からサーラが顔を出す。手に包丁を持っている事から料理をしているのだろうと当たりをつけた。
因みにこの包丁だが、昨日焼けた村長宅からいくつか使える物を回収した時に持ってきた物だ。
「取り敢えず朝飯食うか…」
置いておいた鞄を漁り、中から干し肉とソースを取り出す。
「海斗またそれか、物好きだね。」
「良いんだよ、美味いんだから。」
俺個人としては結構気に入っている。干し肉の塩辛さをこのソースがピリッとした辛さへと変え、ピリ辛の肉になる。この味が好きなのだ。
「ほんと、よくそんなしょっぱ辛いもの食うなぁ…、ングングゴクン。ふぅ、ご馳走様でした。じゃあ僕行くから。」
「ほーい、行ってら〜。」
「行ってき〜。」
ガチャ
朝食を食べ終わった翔太が部屋を出て行く。出て行ったのを確認してから俺は干し肉にソースをかけようとした。
「待って。」
だがそれをサーラに止められる。
「ん?どうして?」
「こ、これ。作ったから食べて…」
そしてサーラはその手に持った料理を俺に渡す。
「え!?え、えっと…ありがと…」
え?ちょっと待って?これってつまりそういう事!?
女の子、手料理、自分だけ、そういう状況が揃い、俺の灰色の脳細胞がトップギアで答えを導き出す。
すなわちーー
この娘、俺の事好きなんじゃねぇ?
である。
しかしそれと同時に考える。そんな事は本当にあり得るのかと。
古来より男は女に弄ばれる生き物だ。そしてその状況に幾多もの男が、特に童貞が泣かされてきた。
ならば童貞の俺もまた弄ばれているのでは?と考えるのは必然であった。
故に考える、どうすればそれが分かるのか、と。
「食べて良い?俺腹減っててさー。」
「ん、どうぞ、召し上がれ。」
考えた末、俺は童貞奥義、顔色を伺うを使った。
サーラの顔は俺の言葉に少しの笑顔を見せた。
これはーーマジな方か!?
だがまだそんな事は分からない。取り敢えず一口、食べてみることにした。
スプーンで汁を一口すくい、そして飲み込む。
ビシャァァァァァ!!!
その瞬間、電撃が走った。
理解した、この娘は自分の料理を食べた事が無いのだと。
驚いた、まさか比喩でもなんでもなく、自分の体に電撃が走る様な料理を出されるとは思わなかった。
「ど、どう?美味しい?後でみんなにも食べてもらおうかなって。」
「っ!?いや、それは駄目!………俺が全部一人で食べたいかなぁって…」
さらにサーラはみんなにも食べされる気だ。それに焦り俺はつい口走る。
「そ、そう?まだまだいっぱいあるから、たくさん食べて?」
口元を引きつらせた俺は、一言。
「わ、わーい。嬉しいなぁ…」
これしか言えなかった。
〜〜〜〜〜〜
ビクッ、パリパリッ
痺れながらもなんとか気合いで乗り切り、サーラの料理を食べきった俺は机に伏していた。
「流石は異世界…料理音痴も下手すりゃ死人出るな、これ。」
「ん?何か言った?」
「いえいえなんでも無いです!そ、それよりもサーラ、この後って暇?」
早口で捲し立て話を濁した俺は、サーラにこの後の予定を聞く。
「ん〜、暇じゃ無いけど、でもなんで?」
「闘気操作の練習をしたかったんだ。」
「…………じゃあ、私の方を手伝って欲しい。終わったらつきっきりで教えてあげるから。」
サーラの用事がどれくらいかかるかが気になるところだが、どのみち俺は他の用事が無い。ここは提案に乗るべきだろう。
「じゃあそれで頼むよ。っと、ご馳走様でした。」
使った食器を片付け、出かける準備をする。
「それじゃあ私は先に外で待ってる。準備終わったら来て。」
「ほいよ。」
どういう原理か水が通っている洗面台で顔を洗い、歯を磨く。必要な道具を持って身だしなみを軽く整え、俺はようやく仮村長宅を出た。
「準備出来たんだ、それじゃあ乗って。」
元村長宅に比べて大分小さい仮村長宅をサーラの樹木魔法で降りていく。
ギシギシィ
しばらく後地面に降り立ったサーラはある方向を指差す。
その方向とは元村長宅の方向だ。
「これから元のおうちへ帰って使える道具を運び出すから。それの手伝いをお願いしたいんだけど…」
どうやら手伝いとは昨日の続きらしい。
実は昨日もあの後やったのだが、流石に色々あったせいもあって少ししか終わらなかったのだ。
「任しとけ!すぐ終わらせてやっからよ!」
〜〜〜〜〜
その後俺は、作業をひたすら黙々とやり、三時間程掛けて手伝いを終えた。
「ふぅ、このくらいかな?手伝ってくれてありがとう。」
「ま、この後の修行に付き合って貰うんだからこんくらいはやんないとね。」
「ん、でもそんなに教えられる様な事は無いよ?」
「そうかもしれないけど、翔太やメイアねぇさん、もしかしたら火野さんまで身体強化の魔技を体得しちまったら差がどんどん開いていっちまうからな。」
「ん?海斗何言ってる?もうみんな体得してるよ?」
「…え?」
どういう事か分からない。一体いつ身体強化を使っていたんだ?
「そもそもこの世界に来て身体能力が大分上がってたりしないの?」
「してるけど…でもそれってラノベよろしく体の改変的な何かがあったんじゃ…」
「ラノベが何かは知らないけれど、そんな事はあり得ない。体の改変なんて大魔法を異世界からの召喚っていう大魔法に合わせる事は出来ない。そんな事をすればどんな魔法使いでも魔力が足ら無くなる。」
…………じゃあもしかして、王国から逃げ出した時のみんなの身体能力って、火事場の馬鹿力じゃなくて身体強化の魔技を使ったからだったのか?
俺はそういう結論に至った。だがもう一つ疑問が出来た。
じゃあ、俺は一体どうしてこんな身体能力を……?
両手を見つめてみたが、何も分からない。
結局その日も闘気の操作に進展は無く、俺の体の謎は深まるばかりだった。
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