第30話 危険!取り扱い注意!

「じゃあ、行ってきます。」


 俺たちは今日から旅に出る。

 世界転移によって各地に飛ばされたクラスメートを探す旅だ。


「うむ、必ず帰ってくるのじゃぞ。」

「もちろんです。」


 思い出す。最初の頃に、俺はノア師匠と約束をした。

 必ず生きて帰ってくるのだと、例え腕を失おうとも足が無くなろうとも、ここに笑って帰って来ると、そう約束をした。


「なら良い。これは選別じゃ。」


 そう言ってノア師匠はあるものを手渡してきた。


「これは…籠手?」

「うむ、お主たちの腕を守るものじゃ。」


 そう、受け取ったものは籠手だった。籠手は腕を守る防具で、俺たちのような拳で戦う為のものは別名ナックルガードと呼ばれる。


「マジか!ノア爺、ありがとう!」


「ほっほ、ただの籠手じゃ無いぞよ。メイアの籠手にはカルマイト鉱石を使用しておる、その為魔力を込める事で膨張するのじゃ。」


「こうか?」


 ノア師匠の説明を聞き、メイアねぇさんが魔力を込めたかと思うと、籠手が大きくなった。そのままあっという間に1メートルほどの大きさに達した。


「うはっ!すげぇ!?でも重くなったりしないのな?」


 どうやら重さは変わらないらしい。だがこれでメイアねぇさんは広範囲を攻撃できるだろう。


「重くなったら動けんじゃろう…まぁ良い。海斗よ、お前さんは魔力が無いからの、籠手は普通のものじゃ。代わりにこれを。」

「ローブ?」


 呆れ顔のノア師匠は俺に茶色いローブを渡してきた。


「うむ、それは防魔のローブ。魔法に強いリグリーという魔物の皮を用い、さらにハニカム構造なる構造で編み込む事で、面での攻撃と魔法に対する耐性を持つローブじゃ。」


 ハニカム構造!?転生者だろうな…

 それよりもこのローブ、とんでもない代物だ。


「これほどの物を…師匠!ありがとうございます!」

「うむ、2人とも儂自慢の弟子じゃ。それでもこの世界には辛いことが多くある、同時に楽しいことも、素晴らしい経験をしてきなさい。儂は帰ってきた2人を見るのが楽しみじゃ。頑張りなさい。」


 ノア師匠…俺はあなたに出会えて本当に良かった。


「「はい!」」


 返事は自然と口を揃えて出た。


「行ってきます!」

「ノア爺!行って来る!」

「うむ、行ってらっしゃい。」


 そうして、俺たちは村の出入り口に向かった。




 〜〜〜〜〜




 村の出入り口には先客が2人いた。

 火野さんと翔太だ。旅はこの4人でする。


「ごめんごめん、待った?」

「やめてよ!ま、まるで恋人の挨拶みたいじゃない…」

「待って、僕もいるんだけど?まさか僕も海斗の恋人役?それは草ww。」

「気色悪いわ!それより2人は準備出来たんだな?」


 まぁ、先にいるのだから出来ているとは思うが…


「当たり前じゃない。」

「もちろん出来てるよ。出発する?」


 案の定、準備は終わっているみたいだ。


「よし!行くか!」


「「「おー!」」」


 俺たちの旅の第一歩を踏み出ーー


 ゴスゥッ!


「…あ、悪い。村の出入り口には防衛用のトラップがあるんだった。」


 足を踏み出した途端、横から丸太に弾き飛ばされた。


「メイアねぇさん…言うの遅いよ…」


 危なかった、防魔のローブが無ければ死んでいたかもしれない…



 幸先は悪くも、俺たちは出発した。





 〜〜〜〜〜




 暇だ。暇すぎる。暇で暇で死にそうだ…


「暇だぁー」

「やめろよ、言ってもどうしようもない。」


 最初の頃は楽しかった、見た事も無い植物、魔物、景色。だが、何度も同じものを見てると流石に飽きてくる。


「あ〜、腹減った…昼飯まだぁ?」

「まだだ。ていうかさっき朝食食ったばっかりだろ!」


 メイアねぇさんに怒られた。だが旅に出て早3日、森が続く景色にも飽きてきて、楽しみといえばメイアねぇさんの作る料理くらいなものだ。


 そういえば最近火野さんが暗い、どうしたんだ?


「火野さん?どうしたん?なんか最近暗くね?」

「え!?な、何でもないわよ。…ねぇ、海斗君はメイアさんのことどう思ってる?」

「メイアねぇさん?あの人は何つーか凄い人だよ?料理も出来て、自分で戦える。ぶっちゃけ俺よりも強いし…まぁ、いいお嫁さんになるんじゃないかな?」

「そう…やっぱり海斗君もそう思うのね。突然ごめんなさい。」


 そう言ってメイアねぇさんのところに走って行ってしまった。


 何を悩んでんのか聞き出すのは、難しいかな?


 仕方がないので翔太の元へ行く。


「あれ?海斗、どうしたん?」

「いや、あっちは女子だけだしこっちは男子で話そうかなぁと。」

「話すことなんて何も…あ、そうだ。俺たちってどこ向かってんの?海斗についてきてるけども…」

「え…いや、えーと、この先にある国にね、用事があるんだよ!」


 ヤッベェ、どこ行くかなんて考えてなかった…


 翔太がジト目で俺を見つめてくる。


「な、何だよ?男がジト目しても可愛くねぇぞ?」

「海斗、お前マジでふざけんなよ?」

「待って!待ってよ!旅は道連れ世は情けってな?」

「…はぁ、絶対意味違うだろ…」

「まぁ、歩いていればいつかは何処かの国にたどり着くさ。」


 そう言って翔太から逃げるように離れる。


 危なかった…あのままだったら殴られてたかもしれない。


「あ!おい見ろよ海斗!」


 メイアねぇさんに突然呼ばれた。


「ん?何メイアねぇさん。」

「この花、結構珍しいやつで酒乱草しゅらんそうって言うんだ。」


 シュランソウ?なんだかよく分からないが綺麗な花なので匂いを嗅いでみる。


「あ!おい待て!この花はーー」


 あれ?なんだか…頭が…クラクラ…す…る…


「…フ、フフフフ、フハハハハハ!」

「…この花は嗅ぐとまるで酒に酔ったみてぇになっちまう花なんだ…」

「綺麗な花では無いか。蒼縁、まさしくその言葉が相応しい美しい花だ…だがそれよりも、この花より貴方の方が美しいな。メイアねぇさん。」

「は、はぁ!?待て!落ち着け!」

「なに、恥ずかしがることは無い。が唇で、貴方を女にして見せよう。」


 そう言ってはメイアねぇさんの顎に指を添え、の顔を向くようにさせる。

 このままキスができる体勢だ。


「あ…うぁ…」


 メイアねぇさんの顔は真っ赤に染まっている。


 やはりメイアねぇさんは美しい。

 に相応しい人だ。


 とメイアねぇさんの顔が近づいていく。

 そのままキスをーー


「待ちなさい!あ、あんた何やってんのよ!?突然キスをするなんて!?」

「ふむ、このタイミングで止めるとは…組織の者か?」

「何馬鹿なこと言ってんのよ!?正気に戻りなさい!」

を馬鹿だと?組織の者ならば決して言わんな。…そうか、貴様、に惚れているようだな?」

「は…何…を、馬鹿なこと…言ってんじゃ無い…わよ…」


 段々と火野さんの声が尻すぼみになり、顔を俯かせる。

 やはりか。は確信した。


「瞬身。」


 瞬身を使い、火野さんの前まで移動した。

 そして背後の木に手を叩きつける。

 いわゆる壁ドンと言う状態だ。


「お前も綺麗だな。…我は2人とも愛そう。安心せよ、このがお前を満足させてやる。」

「あ、あんた。おかしいんじゃ無いの!?後で後悔するわよ!」


 後悔?は後悔などしはしない。

 今はただ、が魅力を見せつけてやるだけだ。


 そしては力の入っていない抵抗をする火野さんの唇をーー


 ドスッ!


「がぁ!?」


 奪う前に、横からの拳がの顔を撃ち抜いた。


「テンメェ!なんかの見てっとイライラすんじゃねぇか!?」


 少し涙目のメイアねぇさんが殴ってきたようだ。


 倒れたは立ち上がる。体に力が入らぬな。


「見事だ…この混沌の王たるに一撃加えるとは…

 だがは不滅なり!いつかまた、貴様らの前に現れ、そしてその身と心を頂こう!」


 そう言い残し、は封印を受け入れた。





 〜〜〜〜〜





「ぅ、うぅん………」


 目が覚めた、何故だか顔が痛い。


「あれ?俺はなんで寝てたんだ?なんか顔痛ぇし…」

「あ、目覚めたのね…良かったわ…」

「よ、良かった。目覚めたか…」


 何故か2人が顔を逸らしている。


「なぁ、翔太。なんかあったのか?」

「知らぬが仏って奴だよ、海斗。」


 なんだってんだ?


 結局分からぬまま旅は再開された。





「………なんか、霧が濃くね?」


 霧が出てきたと思ったら異様に濃くなってきた。


 前にもこんな事があったな…


 とりあえずマジックハンドを発動し、手を振る。案の定、霧は吹き飛ばされていく。


 あぁ、全く。相変わらず女子2人はなんかよそよそしいし、また魔法の霧だし…

 ほんと、めんどくせぇ状況だな…

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