100 退魔腕2-8


 喫茶店を出て、二人はぶらぶらと歩く。


 シャッターで軒を連ねるアーケード商店街を抜けて、公園まで。腑卵第二公園がある。第二公園は学校近くの第一公園とは違い、それなりの広さの公園だ。その中心には池があり、休日限定で手こぎボートを楽しめる。今日はあいにくと休みだが。


 二人はその公園で今日の一日――デートを終えようとしてた。


 午前中に降っていた小雨はやんでいた。


「あんなに食べて大丈夫?」


「まあな。甘い物はどれだけ食べても良い」


 公園には先程の喫茶店から流れてきたのかカップルの姿もちらほらとある。ヨシカゲと委員長もその中の一組に見えているだろうか。


 とはいえ、こんな日でもヨシカゲは退魔刀を手放さない。一種異様な刀はヨシカゲと委員長を隔てるように、ヨシカゲの腰に佩かれている。


「そういえばさ、麻倉くん知ってる?」


 委員長はスキップするように前に出る。


「何をだ?」


「この公園にデートに来たカップルって別れるんだってさ。そういう都市伝説があるの」


「聞いたことはあるな」


「ほら、見て。あの人たち。きっと別れるわ」


「そんなの所詮都市伝説さ」


 その存在事態が都市伝説のようなヨシカゲが言うものだから、委員長はおかしくなって笑ってしまった。それを見てなんだよ、とヨシカゲは不思議そうな顔をする。


「なんだか嬉しいな」


「なにがだ?」


「こうして春休みだってのに麻倉くんと会えるのが」


 それは、委員長ができる最大限の告白だった。


 だが鈍感さに定評のあるヨシカゲは何も思わない。それどころか、


 ――委員長、俺と会って楽しいってことは友達がいないのかな?


 なんて思っている。


「キッくんに感謝だわ」


「木戸タカヨシか」


 名前はちゃんと覚えている。顔は――バカそうだったという事しか覚えていなかった。


「頭は悪いけどね、人は悪くないの。もしかしたら麻倉くんとも友達になれるかもしれないわよ」


「そうかな」


 二人は何のあてもなく歩く。委員長が乗る電車の時間までの暇つぶしだった。池にかかる橋にヨシカゲは登りたくなってそちらに歩を進める。委員長は従順についてくる。


 変にきまずい無言になった。


「ね、ねえヨシカゲくん……」


 委員長は突然、ヨシカゲのことを名前で呼んだ。おかしいな、と思いながら「なんだ?」とヨシカゲは聞く。


「今日は楽しかったわ」


「そりゃあ良かった」


「よ、ヨシカゲくんは?」


「楽しかったよ」


 食べたかった巨大パフェが食べられたからだ。


 ヨシカゲと委員長は見つめ合う。


 そして、委員長がおもむろに目を閉じた。


 夕日が沈む。


 3月中旬の腑卵町、日照時間は短い。


 いったい委員長はなにを求めているのだろうか、ヨシカゲには分からない? 


 ――はて?


 長い、長い沈黙。


 しびれを切らしたように委員長がヨシカゲに一歩詰め寄った。いきなりだったので思わずヨシカゲは委員長の肩を抱くような形となった。そうしなければ委員長は転けていただろうから。


 委員長が唇を突き出してくる。


 どうすれば良いのか分からず、無言なヨシカゲ。


 だが、そのヨシカゲに対してある意味助け舟とも言える怒声が聞こえた。



「っこらぁてめえ! ユイになにしてんだあぁぁぁあああっ!」



 声の方を向く。


 すると、そこにはリサがいた。


 リサ、だ。


 しかもめかし込んでいる。いつものエセメイド姿ではなく、彼女がお気に入りにしているきちんとしたゴスロリドレスを着ていた。黒を基調として白いフリルやレースがついている。化粧は、かなり濃い。


 しかしこのゴスロリ女も驚いた顔をしている。どうやら思わず出てきてしまっただけのようだ。それもタイミング悪く。


 そのリサの後ろには、髪をとさかのようにツンツンに上げた不良が一人。


「こらぁああぁ!」と、巻き舌で叫んでいる。


 木戸タカヨシだった。


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