030 完全なる世界 間章
最近、どうも面倒だ。
周りがうるさい。
私は
私の事を追っている人間がいる。それも一人ではない。どうすれば良いかと考えて、真っ先に思い浮かぶ解決策は殺せば良いという実に安直なものだった。
別に記憶を無くすだけでも良いが、殺す。殺したいから殺す。
私は自分が異常だと知っている。だが、その異常さは神に許された異常さなのだ。私には特別な力がある。私の力は神から与えられたものだ。私はこれまで、この力を使って様々なことをしてきた。
――お金を手に入れた。
――愛を手に入れた。
――家族を手に入れた。
だが、その全てを手に入れたも虚しいだけだった。何もかもが私のものになって、何もかもが自由自在。私は飽きてしまったのだ。
だから私は、他人が私に献上できる、最上級の物を欲しがった。
それは、その人間の人生だ。
今まで生きてきた経験を奪い、命を奪い、そして未来を奪う。
私はその事に快楽を覚えた。私に殺された人間は、私のために生まれてきたのだ。そう思ったその瞬間、この世の全てが確かに私のものであると確信した。
その素晴らしい世界に混入された遺物は、早急に排除されるべきである。
とにかく目の上のタンコブは退魔師だ。おいおいどうにかするとしても、面倒な存在だ。この町に来たのだって、そもそもは私の事が知られ、妙なやつらに追われるようになったからだ。
なんでも『JFC』だとかいう略称の、胡散臭い団体だ。
だが、それも大したことはない。昨日なんて傑作だった。意気揚々と私のところへ来たは良いが、すぐに私の力を使って記憶を改ざんしてやった。面白そうだから退魔師にけしかけるように記憶を操作したが……まあ、あの迂闊な様子では返り討ちだろう。
偽物の記憶には、存在しない妹の事を入れ込んだ。
ふふ、どうだろうか? 退魔師はあの男をまさか殺しはしないだろう。あの男はこれからの人生、ずっと偽物の記憶にだけ存在する妹の事を思い過ごしていくのだ。その事を考えるだけで、私は自分の骨髄に電流が走るほどの快感を覚える。
他人の人生を一つ、無茶苦茶に操った。それだけで私は楽しいのだ。
あの男がこれまで積み上げてきたものが、私の気まぐれで台無しになる。それを拒否する権利は男にはない。
あの男のこれから先の人生を全て、私が奪い取ったのだ!
その価値が、あの男にはあった。きっと退魔師にもあるだろう。もしもその価値がなければ殺せば良いだけだ。それはそれで、面白いし、大好きだ。
それにしても――と、私は広く綺麗な部屋を見渡す。
ここはまるでお城だ。昔住んでいたあばら家とは大違いだ。いつかこんな大きな家に住みたいと思っていた。その願いを、気まぐれに叶えてみた。
良いものだ。
私はこの場所にただ独りでいる。
私の目につく範囲全てが、私の世界だった。
――私の、完璧な世界。
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