私たちはこの世界に取り残されました

@otibana81

プロローグ 手紙

 拝啓




 お母さん、お父さん、それに薫、そちらはどうでしょうか?

 元気に仲良くお過ごしでしょうか?

 お父さん、元気にお過ごしでしょうかと書いた手前だけど、お母さんや薫とはちゃんと出会えたかな。

 一応ね、こっちでもお父さんの会社とか行ってみたんだけど、お父さんの物は結局分からなかったんだ。

 ごめんね、お父さん。

 だから、そっちではちゃんとお母さんと薫がお父さんを見つけてくれていたのなら嬉しいな。

 それで、私達の近況報告。

 私たちは今能登半島を進んでいる最中ですが、真夏と言うこともあり耐えられないほどではないですが、とても暑いです。

 そちらが快適な温度で過ごしているならうらやましい限りです。

 ねぇ、お母さん。去年、彼のことを話したのは覚えてるかな?

 私は今も彼と一緒に全国回ってます。

 相変わらず、エアコンも壊れていて、のんびりとしか進まない車で、キャンピングトレイラーっているの牽引しているんだよ。

 薫が見たら、「すっげー!」とか興奮しそうだね。

 あ、それでね、彼は一年経ってもあまり変化はありません。

 変わったところと言えば、染めていた髪が色落ちしてきてプリン頭がほぼ黒くなっていることぐらいでしょうか。

 未練たらしく残しているため切りたくてしょうがないです。

 けど、彼は一向に切ろうとはしません。

 あんまり大きな変化って、一年ではあまりないんだね。

 学校に通っていた時は、一年経てば、学年も変わるし、先生も変わる。授業の内容も、先輩に後輩も、自分の立っているところもたくさんのものが変わっていたように感じる。

 けど、こうして人がいなくなった世界を毎日のんびりと二人で過ごしているとそんな大きな変化はあまり感じられない。

 それはちょっとだけ寂しい、かな。




 世界からはどんどん人がいなくなっています。

 去年から知り合っている人を除いて、今年出会った人は片手で足りるぐらい。

 去年会えた人では、数人会えなかった人もいました。

 多分、会えなくなった人たちは、お母さんたちと同じ場所に行ってしまったのでしょう。

 また、私達の世界から人が消えて、ちょっとだけ寂しいです。

 そういえば、最近ね、考えるの。

 お父さん、お母さんや薫、それに友達のみんな、先に行ってしまって私たちはこの地球に取り残されているわけじゃないって。

 最初は私達だけなんで、ここに取り残されてたんだろう。早く私もみんなと同じ場所に行きたいなって考えてた。

 けど、今はちょっとだけ違う。

 私はここで生きていきたい。

 彼の隣で、彼と一緒に、ここで生きていきたいって思ってきてる……ううん、思ってる。

 私達のどちらかが消えるまで、私達のどちらかが死ぬまで、私はここにいたい。

 我儘で、いつまでもお母さんたちがいるところに行かないような不良娘になって、ごめんね。

 まだしばらくはそちらに行けそうにありません。違うよね、しばらくは行きません。

 また来年、彼とここに来ますね。

 その時まで、みんなと元気でいてね。

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