星が消えた夜 

坂本 由海

序章 星と少年


満天の星が浮かぶ夜空。


見上げるだけで、自然とその日の出来事が走馬灯のように思い出される。


明日はどんな日になるか、既に答えを知っているような気配すら感じる。


そんな夜空に散りばめられている数多もの星たち。


小さく光るもの、大きく自分が一番だと言い張るように光るもの。


まるで人間のように、個性を感じる。



スタリ村の小高い丘で、そんな夜空を見上げる少年がいた。


少年の名は、ルゥ。


ルゥはスタリ村の村長・ファーレンの一人息子として生まれた。


村長の家系は代々「夜空の旅人」と呼ばれている。


スタリ村に古くから伝わる「ソフィアの書」の一節に次のような記述がある。


「村を守りし者、夜空の旅人となりて、村の永続、繁栄、平和をもたらすべし」



丘の上で、星空を見上げるルゥの真っ直ぐとした横顔は月明かりに照らされ、青白く光っていた。


彼がこの丘に着いた時には左手に見えていた月が、今は頭上で光り輝いている。


ルゥは肩から下げたカバンの中から、空き瓶を一つ取り出す。


そして、すっと右手を大きな夜空へかざす。


すると、青白く光る星がひとつ、ルゥの方へゆっくりと舞い降りてきた。


ルゥは、それを両手で優しく包み込み、瓶の中に入れ、蓋をした。


瓶の中で燦々と輝く星は、彼の顔をより一層青白く照らしていた。


瓶を入れたカバンをしっかりと胸に抱え、ルゥは星空を背に丘を駆け下りていく。


その時、ルゥは知らなかった。もう直ぐこの夜空を見ることができなくなることを。

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星が消えた夜  坂本 由海 @nanaurara

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