第4話『戦う妖精乙女プリティキュート!』後編

 一生の思い出と黒歴史をまとめて量産してしまった感のあるノゾミたちだったが、撮影も終わったため、名残惜しいが元の服に着替えることになる。


 「あれ?」

 しかし、あの狭い試着スペースで再度着替えをする段になって、ノゾミは微妙な違和感に襲われていた。

 「今日、着てきた服って、こんなのだっけ?」


 白いハーフトップと、イヌーピーのワンポイントが入ったピンクの女児用ショーツ。

 クリームイエローのブラウスと、デニムのキュロットスカート。

 足元は赤白ストライプのニーソックス&ミントグリーンのスニーカーだ。


 「──うん、“特におかしいところはない”よね。気のせいかな」

 (5年生にもなって、ブラが必要ないくらい胸がペッタンコなのは、正直、ちょっと悔しいけど……)

 まるで膨らみの見えない胸元に視線を落として溜め息をつきながら、ノゾミはスニーカーの紐を結び直した。

 「お母さん、お待たせ」

 “背中まで伸びた黒髪”をさらりとなびかせながら、ノゾミは更衣スペースを出た。

 「──い~え~、これくらいいいのよ。“かわいい娘”のためだもの♪」

 一瞬、軽く目をみはった眞子だったが、すぐに満面の笑顔になってノゾミを迎えてくれた。

 「あ、うん、ありがと」

 その反応が微妙に気になったものの、“母の調子がいいのはいつものこと”だと受け流して、ノゾミは“妹”と手をつなぐ。

 「じゃあ、真菜ちゃん、次はどこに行こっか」

 「マナね、プリキューグッズショップに行きたい!」

 「うーん、お姉ちゃんも行きたいけど、買い物すると荷物になっちゃうから、先に他のところ回ろうよ」

 「じゃあねぇ、映画コーナー!」

 「あ、いいね。ほらほら、お母さんも行こ?」

 「はいはい」


 (あらあら、こんなに早く“進行”するなんて、ちょっと予想外だわ)

 手をつないで歩きだす“姉妹”のあとをゆっくり追いかけながら、眞子は“何かおもしろいことに出食わした”かのようにアルカイックな笑みを浮かべるのだった。

 (珍しいケースだから、しばらく経過を観察したいわねぇ。あとで“本物”の希美ちゃんと要相談かしら)


 * * *


 「えーと、あ! あれかしら」

 “プリティキュートワールドスタジオ”と通り挟んでちょうど斜め向かいにある大型ブックセンター内を、キョロキョロと見まわした女性──西条眞子は、ちょっと迷ったものの、すぐに目当ての人物を発見する。

 「ちょっと、いいかしら、のぞみ……ううん、「ノゾム」くん」

 眞子に声をかけられ、雑誌コーナーで男性ファッション誌を手にとり、目を通していた「少年」は振り返る。

 「ん? かあさ…いや、眞子さんか。ずいぶん早いけど、もう終わったの?」

 「いいえ、今、あの子たちは映画上映会を観てるから、ちょっと抜け出してきたのよ──相談したいこともあったし」


……

…………

………………


 「で、相談したいことって、何?」

 ブックセンター内の一角に設けられた喫茶コーナーで、向かい合って腰を下ろしたのち、「少年」……いや、本当は11歳の少女・希美である「かすかべ のぞむ」は、実の母であるはずの女性に問うた。

 「えぇと、その前に、「ノゾム」くん、貴方、自分の変化に気づいてる? たとえば服とか……」

 そう指摘されて自分の服装に視線を落とす「ノゾム」。

 「ああ、言われてみれば確かに変わってるね」

 黒い開襟シャツとアッシュブラウンのジャケットにダークグレイのスリムジーンズというコーディネイト。

 足元はブラックレザーの編み上げブーツで、さらに真鍮のチェーンチョーカーとゴツいアナログウォッチという組み合わせは、いわゆるメ●ナク風というヤツだろうか。

 つい1時間ほど前にプリキュースタジオで別れた時とは、似てもにつかないファッションだった。

 「へぇ、意外にイイ線いってるんじゃないかな」

 もっとも、元々男勝りな性格だった本人のお気には召したようだが。


 「買って着替えた、ってワケじゃないのよね?」

 「さすがにそこまではしてないよ。お金もないし。それで、相談って、この変化と関係あるの?」

 自分の身に起こった異変に動じていないのは、さすがは魔女の子と言うべきか、あるいは単に「彼」本人の肝がすわっているのか。

 「ええ。単刀直入に言うわ。例の名札の効果が私の予想外…というか、予想以上の効果を発揮しているの。そのヘンを見極めたいから、この立場交換をしばらく継続してもらえないかしら?」

 実の娘に人体実験に協力しろと言っているようなものだ。客観的に見れば、随分と勝手な言い草のはずだが……。

 「うん、いいよ」

 言った眞子の方が拍子抜けするほど、ノゾムの方はあっさりその提案を受け入れた。

 「い、いいの?」

 「いや、だって、眞子さん、知ってるでしょ。オレ、どっちかって言うと男に生まれたかったクチだって」

 確かに、それは眞子も母として薄々察してはいた。

 いかにも女の子女の子している妹の真菜と異なり、希美は幼少時から、あまり女らしい遊びや服に興味を示さないタチだった。

 幼稚園や低学年の頃ならともかく、5年生になった今でも友達は女より男の方が圧倒的に多く、放課後は彼らに混じってサッカーしているような子なのだ。


 「立場だけとはいえ、男、それも大学に入ってひとり暮らし始めたばかりの男性になれるなんて、むしろコッチから継続をお願いしたいくらいだよ」

 「それならいいけど──あ、知識の方は大丈夫?」

 「うん、多分ね。「春日部のぞむ」が通う大学とか、住んでるアパートとかの情報は、ちゃんとわかるみたいだし。大学の講義は……まぁ、聞いてノートとるだけなら平気じゃないかな」

 「そう。それなら、十分なデータがとれたら連絡するから、当分そのままでお願いしていいかしら?」

 「了解──なんなら、ずっとこのままでもいいよ?」

 「フフッ、考えておくわ♪」

 無論、その時は、ふたりとも冗談のつもりだった。


 しかし──迂闊なことに、この時、ふたりは電話番号やメアドなどを交換するのを失念していたのだ。

 そのため、半月あまりが過ぎ、「かすかべ のぞむだった少年」が完全に「さいじょう のぞみ」としての立場に染まりきり、本来の希美以上に「11歳の女子小学生」らしくなったのを確認できた時、眞子はそろそろ名札の効果を解除しようと思ったのだが……。

 間抜けなことに、その時初めて、彼女は自分が「かすかべ のぞむ」の連絡先を知らないことに気付いた。

 せめてノゾムの方から元の家に連絡してくれれば手の打ちようもあったのだろうが、男子大学生の気ままなひとり暮らしを堪能しているノゾムが、ワザワザそんなことをするはずもない。


 それでも、魔女としての力を駆使して、根気良く魔力の痕跡をサーチするなどの手段をとれば、ノゾムの居場所を突きとめることは不可能ではなかったろう。

 けれど……。



*エピローグ*


 「──エクス・ターリア・スアン・ウー・クルーエル・トランス……」

 白と紺色を基調にしたフレンチメイドのような可愛らしい服を着た少女が、自分の身長ほどの長さの木製のロッドを手に、呪文を詠唱する。

 「レオーラ!」

 最後の一節とともに、杖の先からゴルフボールほどの大きさの光の弾丸が発射され、10メートルほど先に置かれた的(といっても単に粘土をこねて人型に固めただけの代物)を貫き、粉々に破壊した。


 「…………ふぅ。お母さん、どうでしょう?」

 杖を下ろし、肩の力を抜いた少女が、傍らで見守る、魔術の師であり、母でもある女性に問い掛ける。

 「素晴らしいわ! ウチの家系でも、若くしてこれだけ高度な魔法を駆使できる人なんて、ひぃおばぁさま以来じゃないかしら」

 “娘”の才能と技量を絶賛する眞子。

 「そ、そんな……買い被り過ぎです。

 それに、これもご先祖様からの蓄積があってのこと。わたくしも、もっともっと研鑽を積みませんと」

 「あらあら、相変わらず、真面目でいい子ね、望美は」

 そう、予想外なことに、眞子の「娘」となった「彼女」には魔女としての高い適性があったのだ。

 あるいは、そんな資質があったからこそ、春日部望は男でありながら魔法少女アニメに無意識に強く惹かれ、また今の立場になったときも馴染むのが異様に早かったのかもしれない。


 「お姉ちゃん、すごいね! 本物のプリキューみたい!!」

 「ふふっ、ありがとう、真菜ちゃん。さ、次は貴女の番よ」

 「うん、ガンバる!」


 「望美」が西条家の「長女」になって、はや5年。

 あのテーマパークで出会った当初から妹の真菜とはとても仲の良い姉妹だし、父(眞子の夫)である信哉も、「以前」よりずっと女の子らしくなった「娘」を溺愛している。

 さらに、対外的な立場だけでなく、望美の身体も「11歳の健康な女の子」に相応しい肉体へと徐々に変貌を始め、名札交換から3ヵ月が過ぎる頃にはついに初潮を迎えている。

 それと前後してツルペタだった胸も膨らみ始めたため、ようやく本人のコンプレックスも解消されることとなった。「16歳」の現在は、むしろ周囲のクラスメイトの平均よりは大きめなくらいだ。


 本人ですら「以前」のことを気しなくなった現在、唯一「事情」を認識しているのは眞子だけだが、彼女としても、5年も一緒に暮らせば「愛娘」に情が湧くし、魔女の後継者としても非常に優秀なので手放したくはない。

 加えて、中学の時から私立涼南女学院という近くのお嬢様学校に進学したこともあって、「西条望美」は、今時珍しいくらい淑やかで品の良い「良家のお嬢さん」とでも言うべき子に育った、西条夫妻自慢の娘なのだ。

 お姉ちゃん大好きっ子の真菜の方も、その影響で同じ涼女を目指しているし、望美の魔法の鮮やかさに魅せられて、家伝の魔法に興味を示してくれるようになった……という余禄もある。


 (まぁ、本人も喜んでいるようだし、これはこれでいいのかしらね)

 実際、望美本人も、女子高生と見習魔女の二足のわらじ生活を、それなりにエンジョイしているようだし、このままでもとりたてて問題はないのだろう。


 最大の懸念事項は、「本物の娘」だった存在ノゾムの行方だったが……。

 「まさか、タレントとして有名になるなんてね」

 コンビニで買ったテレビ雑誌の表紙で微笑む、甘いマスクのイケメン(にしか見えない人物)を見て、つくづく人生というのは分からないものだと溜め息をつく眞子。

 なんでも、大学時代に男性ファッション誌のモデルとしてスカウトされ、人気が出てからは俳優としても活動を開始し、やや童顔ながら美少年タイプのアクターとして、順調にファンを増やしているらしい。


 (まあ、元気にやってるなら、いいわ)

 雑誌をマガジンラックに放り込み、眞子は、もうすぐ学校から帰ってくるだろうかわいい娘達のための夕飯作りに専念していくのだった。



*Appendix.葛藤と選択*


 私立涼南女学院は、俗にいうお嬢様学校である。

 大学進学面ではたいして目立つ面はないが、明治時代に設立された古い歴史を持ち、平成の今の世でさえ「良妻賢母な女性」を送り出すことを理念とし、それにふさわしい校風と教育カリキュラムを持つ。

 ──が。

 「(校風に反しない限り)生徒の自主性を重んじる」という建前のおかげで、それなりに(むしろ公立校よりもある意味)リベラルな面も多々あり、クラブ活動もそのひとつだ。

 クラブ自体は校則で全員参加となっているが、逆にその分、ユニークなクラブや同好会も多数存在している。

 彼女が所属する“現代服飾文化研究会”(と言う名のコスプレサークル)もそのひとつだった。


 ──パシャパシャッ!


 「うんうん、エエよ~、西条さん! ほら、ここで何か決め台詞!」

 一眼レフのデジカメで目の前の少女を激写しながら、部活の先輩である清香が注文をつける。

 「え!? えーと……」

 モデルの少女は一瞬戸惑っていたものの、ふっと目を閉じたかと思うと、瞬時にして気持ちを切り替え、凛とした空気をまとってその“台詞”を言い放つ。

 「じゃあ──『貴方に守られるだけじゃなく、貴方を守れる強い私でいさせて!』」

 「「「…………」」」

 少女の放つ真摯な迫力プレッシャーに気おされたかのように、カメラマンの少女や他のふたりのモデルたちも動きを止めた。


 「え!? あ、あれ? 何かおかしかったですか?」

 “少女”が素に戻った途端、その呪縛も解ける。


 「ううん、逆よ逆。すっごくよかった!」

 「うんうん、いつもながら西条さんの演技、引き込まれるわぁ」

 「ホントほんと。アニメのセツナが現実化したかと思っちゃった」

 口々に賞賛する部活仲間たち。

 「もぅ、皆さん、おおげさですよー」

 褒められた少女は羞恥に頬を染めているが、まんざらではないようだ。


 「ただいま~、アイス買ってきたよ」

 「あれ? どうしたのみんな?」

 買い出しに行っていたふたりが部室に戻ってくる。


 「いやね、西条さんの演技力がスゴいなって話」

 「へぇ~、あ、それが望美ちゃんの新コスだね。完成したんだ」

 「は、はい。『マギまぎ』の“またたきセツナ”の魔法少女服です。なんとか完成しました」

 「あたしの“瀬戸まぎわ”とお揃いなんですよー。どうですか、片瀬先輩?」

 白と紫と黒で構成された、どちらかと言うとシャープな印象のコスチュームをまとった望美と、ピンクの甘ロリ風の衣装に身を包んだ少女──望美の同級生で部活仲間の中里ヒカルの姿を、素早く検分する部長の片瀬睦月。

 「うん、イイ感じだね。西条さんはセッちゃんのクールな感じがよく出てるし、中里さんのまぎっちもあのフリフリ服の特徴をよくつかんでる。でも、もうちょっとパニエのボリューム持たせてスカート膨らませた方がいいかな」

 「ふたりともすっごくかわいいよ~」

 副部長の早坂由希がニコニコしながら称賛する。

 「最初は、おとなしくて礼儀正しい西条さんに、あのクールで迫力満点な“セツナ”役が勤まるかと思ったけど、取り越し苦労だったみたいやね」

 もうひとりの3年生で、撮影にいそしんでいた尾崎清香が、感心したように言う。

 「あはは……恐縮です」

 苦笑しつつ望美は頭を下げる。


 3年生のおごりのアイスキャンディを皆で堪能したのち、次の夏コミュに出る際のコスプレ用衣装の話で盛り上がる部員たち。

 そんな騒がしくも楽しい日常生活を過ごした後、西条望美は、学院から自宅へと帰り、自室で制服から私服に着替え……ようとしたのだが、ふと些細な違和感を感じて姿見の前に立った。


 鏡の中には、私立涼南女学院高等部の制服──白の半袖ブラウスに矢絣模様のリボンタイ、ボトムは葡萄色のボックスプリーツスカートという格好が板についた、16歳の少女がたたずんでいた。

 腰近くまで伸ばしたロングヘアは、今どきの女子高生には珍しく(と言っても涼女ならそれなりにいるが)染色も脱色もパーマも施していないストレートな黒髪で、肌の色白さとあいまって日本人形のような印象を与えている。

 ブラウスの胸元は──さすがにギャルゲーや萌えイラストの女の子のような“乳袋”仕様ではないものの──年相応以上の盛り上がりを見せており、小学生時代の望美のまな板コンプレックスはほぼ完全に払拭されていた。

 胸だけでなく、日ごろからの食事に気をつけているだけあってウェストの細さも合格点だし、スラリとした形のいい脚線については自分でもチャームポイントのひとつだと思っている。

 プロポーションの良さに比べると顔だちは──まぁ、凡庸な域を出ないだろうが、それだって10段階評価で7ぐらいはもらえるレベルで、決してドブスと面罵されるような代物ではないだろう。

 家庭環境もそこそこ裕福で、両親や妹にもこれといった不満はなく、中学から通っている今の学校や友人知人も、望美は至極気に入っている。


 それなのに。

 「どうして僕はここにいるんだろう」

 思わず自らの口から洩れたその言葉を聞いた瞬間、望美は頭の中でカチリと音がしたような気がした。

 すっかり忘れていた──忘れていたかった記憶の数々。

 自分の本来の名前と立場、そして5年前の姿。

 それらが脳裏で渦巻き、望美の意識を翻弄する。

 「ぃ……ゃ……な…に、こ……れ…………」

 目まいに似た感覚に真っ直ぐ立っていられず、ガクリと膝をつく望美の目の前の姿見に、自分とよく似た顔の、けれど服装や体格などがまったく異なる“青年”の姿が、鏡に“今の自分”と二重写しになって浮かび上がる。

 直感的に、彼女、いや“彼”は、それが本来の道を歩んだ際の自分の姿だとわかった。

 「い、いやぁっ!」

 だから──拒んだ。

 美形とも長身とも言い難い、地味な恰好をした20代前半の冴えない青年が本来の自分だと受け入れることは、16歳の少女のメンタリティを持つ今の“望”、いや望美にとっては耐え難いことだったのだ。

 あるいは、これが溌剌としたセンスのいいイケメンなら、また結果は異なったのかもしれないが……。

 「わ、私は、西条…望美です。カスカベノゾムなんて人のことは知りません!」

 声に出して、そう望美がそう叫んだ瞬間、彼女を襲う眩視感は唐突に収まる。

 「え!?」

 つい先ほどまでの不調が嘘のように、体調が普段通りに回復──いや、むしろ好調にさえ思えてくる。無論、鏡に映る自分も、見慣れた女学院の制服姿だ。


 「のぞみー、どうかしたのー?」

 叫び声が聞こえたのか、階下から母の心配げな声が聞こえてくる。

 「あ……いえ、なんでもありません、私は大丈夫です」

 そう答える望美の目には、しかしながらいささか複雑な光が宿っていた。

 おそらくは、心身が成長し、かつ母に習った魔法の技量が上がったことにより、他者の魔法に対する抵抗力が増したことが原因なのだろう。

 今の彼女は、自分が元は異なる存在であったことを思い出していたのだ。そして、現状が母──西条眞子から、あの日にもらった魔法の名札がもたらした結果であろうことも。

 同時に、先ほどの“異変”がおそらく魔法を打ち破って元の立場に戻る“最後の機会”だったろうと言うことも、本能的に理解していた。

 望美は千載一遇のチャンスを自ら拒絶してしまったのだ。


 その事自体には、実はあまり未練や後悔はない。

 涼南女学院に通う高校1年生にしてコスプレサークルの一員、西条家の長女であり、密かに家伝の魔法を継承中の見習い魔女──という今の自分の立場に、望美は十分満足していたからだ。


 ただ……悩みがあるにはあった。というか、できた。


 (記憶が戻ってしまいましたが、家族やお友達への態度が、ぎこちなくならないようにしないといけませんね。それに、なまじ男だったことを思い出した以上、ガサツな振る舞いなどしてしまわないよう、注意しませんと)


 もっとも、左頬に手を当てて小首を傾げつつ、「ふぅ」と物憂げに溜息をつくその姿は、どこからどう見ても「良家のお嬢さんな可愛らしい少女」そのもので、彼女の心配を母の眞子あたりが知ったら「あー、うん、心配無用だと思うわよ」と言ったであろう。


~fin~

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