第3話『召喚契約にご用心』後編

 もっとも、ダンジョン挑戦の初日は、さすがにふたりも気を使った。

 なにせ、この冒険行は、パートナー契約を結んだばかりのふたりのコンビネーションを試す……と、同時に立場に伴って変化した各自の身体能力やスキルを試行錯誤するための場でもあったのだから。


 「とは言え、勘だけど何とかなりそうな気がするんだよなぁ」

 丈夫な布地2枚の間に緩衝材となる綿をはさんでキルティング(指し縫い)したキルト生地で作られた布製鎧(キルテッドアーマー)を着た「ガンドル」──ガンドーラが、迷宮入口前で軽く屈伸運動しながら呟く。

 学院生御用達のローブではなくこんな格好をしているのは、無論、状況によっては近接戦闘を行うことも視野に入れているからだ。

 立場交換の結果、今の自分は魔法学院の優等生として初歩的な魔法を広く身に着けている──という自覚は「彼」にもあったが、そのメンタルまでが完全に変わったわけではない。

 「いざ戦いの場ともなれば、直情径行気味な己の性格からして、見習い魔術師という立場を忘れて敵に殴り掛かりかねない」と、むしろある意味冷静に自己分析していたくらいだ。

 それを裏付けるように「ガンドル」の持つ杖は、長杖スタッフというよりロッドと言うほうが適切な形状と材質(ミスリル芯の通った樫木製)で、両端部には鋼の輪をいくつも嵌めて重さと殺傷力を強化してある。


 「言いたいことはわかりますけど、あまり気は抜かないでくださいね」

 昨晩と同様の白いドレスと白銀の小手&腰鎧という装備に加えて、さらに自前の魔力で作り出した白銀の胸甲を身に着けた「エイラ」──エイルが、釘を指す。

 油断なく槍を構えながら迷宮の扉に手をかけ、慎重に中の様子をうかがいつつ、重い鉄製の扉を苦も無く開ける様子は、誠に冒険者パーティの前衛にふさわしく頼もしい。

 この「娘」が昨日までは、気弱で同年代の中で体力的にも劣っていた見習い魔術師の少年だったとは、誰も信じないだろう。


 (正直、元のオレなんかより、よっぽど“戦乙女”のイメージにふさわしいよなぁ)

 冒険のセオリーに従い、後方にいくらか注意を払いつつ、「彼女」の後に続いて迷宮に足を踏み入れた「ガンドル」は、心の中で肩をすくめる。

 誰しも生まれる境遇や才能は選べないものだが、ヴァルキリーとしてのガンドーラは、正直落ちこぼれの半歩手前、いや片足くらいは突っ込んでいたと言ってよいだろう。


 このアールハインに於いて、妖精とは“物理的な肉体に縛られることのないエネルギー体を本体として天界や妖精界などの異界で暮らしつつ、必要に応じて現世で実体化することもできる知性体”を指す。

 普段は実体を持たないという点では精霊と近いが、精霊がある種の群体的存在であり、明確な自我を有しないのに対して、妖精にはやや希薄ながらも自我それがあり、特に高位妖精ともなれば、成長するに従い、人とほとんど遜色のない自我を持つに至る。

 だが、自我エゴを持つということは、個性と欲望を持つこととも同義であり、それはヴァルキリーについても例外ではない。無論、天神直属配下として天界に集うヴァルキリーは、一般的に見て(それこそ、勇者ジークのパートナーの戦乙女ヒルダに代表されるように)“善良で誇り高い”種族ではあるが、だからといって、各自が優越感や驕り、あるいは嫉妬や劣等感といったマイナス感情をまったく抱かないわけでもない。

 その意味では、ガンドーラは、いろいろな劣等感コンプレックスの塊りでもあった。

 バイキングとも見まがう大柄で武骨な容姿。腕力一辺倒で技巧性に欠ける武術の腕前(槍ではなく戦棍を得物にしているあたりからもそれは窺えるだろう)。魔法に関してもあまり得意とは言えず、さらに妖精王フェアリーロードたちに次ぐ高位妖精でありながら雅さや気品ともとんと縁がない。

 本人は「そんなの関係ねぇ! アタシはアタシだ!!」と気丈に振る舞ってはいたが、やはり内心は気にしていたらしい。

 自分が妖精なんかではなくただの人間で、一介の冒険者などであれば、こんなこと気にしなくてもいいのに……などと、考えたことも一度や二度ではない。


 そんな彼女が(相手が半人前の魔術師とはいえ)「ヴァルキリーとして召喚され、使い魔となることを求められた」のだ。

 召喚された時のガンドーラは気風のいい鷹揚な姐御を装ってはいたものの、内心では「キターーーーーッ!!!」と小躍りせんばかりに高揚していたのだ。

 しかも、一時的な召喚ではなく、術師と一生をともにするための使い魔契約を結ぶためと聞いて、さらに喜びと誇らしさが増した。

 召喚者は未だ若い──幼いと言ってさえよい年頃の少年だが、逆に言えばここで彼と契約すればあと50年ほどは現世に留まることができる。

 妖精には寿命はあってなきがごときもので、その分、成長もゆっくりだ。そもそも実体を持たないままふわふわした異界にいても、己れをロクに鍛えることなどできない。

 その点、50年も現世にいて地道に鍛錬すれば、ガンドーラとて立派なヴァルキリー……は難しくとも一端の実力と風格を持つ戦士となれるだろう。

 そういう打算もあって、ガンドーラはエイルとの契約を受け入れたのだが──ここで予想外の事故ハプニングが起きた。

 昨夜の召喚契約の儀式のミスによって、ガンドーラは「ガンドルという名の人間の少年」に、エイルは「エイラという名の戦乙女」に立場を取り替えられてしまったのだ。

 人間というのは、素の能力的には神々はおろか使徒や高位魔族には到底及ばない生き物だが、真面目に研鑽を積むことによってめきめき成長し、時によっては神に迫る実力さえ得たりする。

 戦乙女として天界で暮らしているままではまず巡り合わないだろう、貴重な成長の機会を得られたのだと考えれば、この異常事態イレギュラーもある意味、好機と言えるだろう。


 そして──嬉しい誤算と言うべきか、自分と立場が入れ替わった召喚主マスター(まぁ、今は自分の方がその「マスター」なのだが)は、元が男とは信じられないほど、戦乙女ヴァルキリー立場イメージに、外見も能力もピッタリなのだ!

 今の召喚主コレを見たら、ヒルダを筆頭とする「九姉妹」(戦乙女の頂点に立つ9人だ)さえ、にっこり笑って“彼女”を十番目の“妹”として天界に迎え入れるのではないだろうか。

 え? 「かつてのガンドーラは?」……察しろ。


 また、今の「少年ガンドル」の目から見て「戦乙女エイラ」がこの上なく(それこそ嫉妬する気さえ起らないほど)好ましい存在であるのと同様、「エイラ」にとっても「ガンドル」は非常に頼もしい存在だった。

 その「頼もしさ」の成分には、召喚主に対するパートナーとしての好意以外にも、頼りがいのある“男”に対する“女”としての感情が少なからず(というか半分近く)混じっていることに、この段階では本人は気づいていなかったが。


 ともあれ、そんな互いに好感を抱き、かつ昨日までより自分に自信が持てるようになったふたりがダンジョンに挑んだことは、結果的にプラスの方向に作用した。

 (立場交換によって)新たに身に着けたそれぞれの能力や特技を、慎重に、時に大胆に試行錯誤しつつもフルに活かしてダンジョンを進む。

 迷宮内に用意された疑似モンスターたちとの戦いはもちろん、探索そのものにおいてもふたりは様々な面でバランスのとれた良き相方であった。

 強気でやや強引なガンドルにエイラが注意を促しつつ、慎重過ぎる“彼女”を時にはガンドルが押し切る。

 運が悪いと険悪になりかねない関係であるが、さすが見習いなのに戦乙女召喚を引き当てた側と引き当てられた側だけあってか心理的相性がピッタリで、互いの言いたいことが誤解なくわかるため、こじれようがないのだ。


 そして……。

 諸々の条件が奇跡的にかみ合った結果、期限の一週間から3日も余裕のある僅か4日間で、ふたりは課題を達成することに成功したのだった。


 * * * 


 「ふたりともご苦労様。見事に試練を達成できたようですね」

 「ガンドル」の(本来はエイルの)指導教官であるクリステラは、穏やかな笑みを浮かべて迷宮から帰還したふたりを見つめる。

 4日前、課題を言い渡した際のふたりはどこか他人行儀で物理的にも心理的にも距離が感じられたが、今、目の前に立つ「少年と少女」は、寄り添って立つことがごく自然な感じに雰囲気が大きく変化している。

 (ふむ……課題を出した時はぎこちなさが見てとれましたが、この4日間、互いの命を預けて共に戦っただけあって、強い絆が感じられるようになりましたね)

 無論、学生の訓練の場だけあって、迷宮に出現するモンスターの大半が疑似生物で、侵入者にトドメはささないよう調整してあるが、即死でなくても毒や出血で死に至ったり、罠などで事故死する確率は0ではない。

 念の為に係の教官が人造迷宮を監視してはいるものの、再起不能な重傷を負うようなケースも、毎年数例ある。実戦ほどではなくとも死が身近にある環境で、ふたりきりで支え合って冒険していれば、当然のことながら絆は深まる。

 そして、それこそが学校側の狙いだった。運良く強いパートナーを召喚した学生は、その力に溺れて慢心したり、逆に劣等感から相方に隔意を持ったりするケースがままあるが、それを防ぐために、難しめの課題に協力して当たらせているのだ。

 「ええ、オレもエイラも、得難い経験が積めたと思います」

 学生の立場になっている「ガンドル」が、珍しく殊勝な態度で語り、傍らの「エイラ」を促す。

 「これが、地下3階の宝箱の中味です──これで良かったんでしょうか?」

 「エイラ」がクリステラに渡したのは、掌に載るくらいの大きさの宝石箱のようなものだった。

 「はい、確かに──中味は見ていないのですね?」

 「オレは開けようとしたんですが、「エイラ」に止められまして……」

 ポリポリと頭を掻く「少年魔術師」と不安げな「戦乙女の少女」の間に視線を走らせつつ、「つくづく良いコンビになったものだ」と感心するクリステラ。

 「それで正解です。この箱を不用意に開けようとすれば、レベル3クラスの感電(スタン)の呪文をくらったでしょうからね」

 「ぐぇ、エゲツねぇ」と呟く「ガンドル」に「まだまだですね」と微笑みつつ、クリステラはキーワードを唱えて宝石箱を開け、中から取り出した「ある物」を「愛弟子」へと渡す。

 「これは……指輪?」

 「ええ。「繋がりの指輪」と呼ばれるマジックアイテムです。貴方から、パートナーのエイラさんに嵌めてあげなさい」

 そうすれば、その機能もわかるはずですよ、という師の言葉に促されて、なんとなく気恥ずかしい想いを堪えつつ「エイラ」の左手をとる「ガンドル」。「エイラ」の方はあからさまに頬が上気している。

 初々しいふたりの様子を「若いっていいわね~」とクリステラが生暖かい目で見守るなか、一瞬の躊躇の後、「少年」は「少女」の薬指に「繋がりの指輪」を嵌める。

 「!」

 ハッと息を呑んだものの、「少女」の方も抵抗する気配はなく、むしろ嬉しそうだ。


 『──な、なんだか、婚約指輪みたいですね』

 

 「え!? いまの、エイラか?」

 「え? え?」

 「ガンドルくん、彼女の声が「聞こえ」ましたか?」

 クリステラいわく、繋がりの指輪は、嵌められた者の心の中の言葉を嵌めた者へと届けるための魔法がかかっているらしい。

 「召喚者とパートナーの間では、召喚者側からは離れていても呼び掛けることができますが、逆は不可能ですからね。それを補うためのものです」

 「じゃ、じゃあ、これを着けてる限り、私の心の声がガンドルに全部筒抜けになっちゃうんですか!?」

 「大丈夫、慣れれば接続のオンオフはできるようになりますよ」

 「な、ならいいんですけど……」

 ただし、強い思念はオフにしててても幾らか伝わっちゃいますけど……とはあえて補足しないあたり、クリステラもなかなかいい性格をしているようだ。

 「難しい試練をこんなに速くクリアーしたご褒美です。その指輪は貴方達に差し上げます」


 * * * 


 本来は、試練達成で進級が正式に決まった段階で、パートナー契約時のミスについて師に打ち明けて相談するはずだったのだが、指輪をもらった「エイラ」が妙に浮かれていたこともあって、その場はいったん寮の部屋に戻ることにする。

 元々ガンドーラは野宿に慣れ、多少入浴などせずとも平気なタチだったが、「ガンドル」が魔術学校の生徒という立場のせいか、ひと風呂浴びて小ざっぱりしてから、ベッドでぐっすり眠りたいという欲求を感じていた。

 幸いにしてデダナン魔法学院は国営教育機関だけあって、各種生活設備は王家の離宮並に整っている。寮の1階には男女別の大浴場がある。

 「それって、私も入っていいんでしょうか?」

 「別に構わんだろ。召喚契約を結んだパートナーは生徒に準じる扱いを受けるって聞くし。まぁ、さすがに肌を粘液に覆われたギルマンとかなら、入浴は遠慮しろって言われそうだけどな」

 そう「エイラ」に答える「ガンドル」だったが──本来、その事を知っているはずに「彼女」に「彼」が説明していることの不自然さには気付いていない。

 どうやら、迷宮に潜っていた4日間で、現在の立場に対する「最適化」が一層進んだようだ。その証拠に……。

 「じゃ、オレはこっちだから。もし先に出たなら、ここで待たずに部屋に帰ってていいぞ」

 「いえ、ガンドルがよほど長風好きでない限り、この髪を洗わないといけない私より後になるとは思えないのですけれど……」

 「それもそうか。じゃ、先に部屋帰ってるから、オレのことは気にせず、ゆっくり入ってくれ」

 そんな言葉を交わしながら、それぞれ男湯、女湯に別れて入る「ガンドル」と「エイラ」。己が本来どちらに入るべき存在かということを疑問に思わないあたり、完全に現在の立場に染まっていると言うべきか。

 風呂場には何人か先客がいたのだが、とくに照れることもなく普通にスッポンポンになって(一応申し訳程度に腰にタオルを巻いて)、男湯に飛び込む「ガンドル」。

 筋肉質で脂肪の少ない身体つきのせいで余り乳房の大きな方ではないが、それでも一応裸体なら膨らみが視認できるはずなのに、本人は元より周囲もまったく気にしていない。

 一方、女湯に向かった「エイラ」の方は、慎ましげに体をタオルで隠しながら湯船に浸かっているが、これは性格的なものであろう。反面、「初めて人間界の風呂に入る」ことへの戸惑いは多少見られても、周囲に同世代の女性がいることは気にしていない。

 もし、これが堅物で異性に免疫のないエイルのままなら、真っ赤にのぼせて鼻血を噴き出していただろう。

 しかし、今、鼻歌を歌いながら、慣れた手つきで腰まである見事な銀髪を、備えつけの薬草シャンプーで洗っている「彼女」の様子は、背中から見ると(体は男のままのはずなのに)妙に艶めかしい。

 いや、仮に前からでも、座り方の加減で股間が見えないせいもあって、「ちょっと胸が貧しいけど、容貌や髪、肌の白さなどは極上の美少女の洗髪風景」にしか思えまい。それこそ、同世代の男子連中なら鼻血を出して食い入るように視姦したに違いない。


 「はぁ~、いいお湯でしたー」

 「おぅ、お疲れ、エイラ」

 「あ、待っててくれたんですか、ガンドル」

 「んー、まぁ、ちょっとした気まぐれでな」

 そんな会話を交わしながら、バスローブ姿で部屋に戻るふたりの姿は、目にした大多数の学生達に憧憬と嫉妬の念を抱かせるに十分な「甘々カップル」っぷりを発散している。


 もっとも、それは当人たちも例外ではなく……。

 (はわわ……いつものワイルドなガンドルもカッコイイけど、こんな風にさっぱりした彼も素敵……)

 (ぅっ……ヤバイ。コイツ、元から可愛いのはわかってたけど……風呂上がりだと、なんだか凄く色っぽいぞ)

 口には出さないものの、ふたりともかなりテンパっている。

 そして、そんな状態の年頃の少年少女が、ベッドがひとつしかない部屋に帰れば、こうなるのも当り前の成り行きであった。


 「ちょ、ガンドル、どこを触って……」

 「エイラのここ、すごく濡れて……ぬるぬるしてる………」

 「あぁ、いや…は、恥かしいよぉ」

 「へぇ、結構感じやすいんだな。じゃあ、ここは……」

 「ひんっ! そ、そんなに指を動かさ…ああっ


……

…………

………………


 「え、エイラ。オレ、もう………」

 「──ぃいですよ、私の初めてを貴方に……」

 「本当にいいのか?」

 「ええ、貴方だから」

 「エイラ……」

 「ガンドル♪」


……

…………

………………


 「あ、ああああっ……い、イクぅぅぅっ!!」 

 「うっ、オレも!」

 ──ビクンビクン


 * * * 


 そんなこんなで、勢い余って「男女の深い仲」になってしまった(いや、この場合「女男の仲」というべきか)ふたりだったが、翌朝、同じベッドで目が覚めた時は、流石にもう少し冷静に話し合うことができた。

 その結果、どういう過程を経てか「せっかく巧くいってるんだから、急いで元に戻す必要はないよね」という結論に至る。

 これは、野卑な自分に引け目を感じていたガンドーラ、魔術師ではなく本当は魔法戦士になりたかったエイルにとって、立場交換に伴い手に入れた現在の状況が、非常に好ましいものだったことが第一に挙げられる。

 前者にとって、現在の「知性と力を兼ね備えた少年魔術師」という姿は、ヴァルキリーでありながら魔法が下手で、ほかの同族達のような優雅さにも欠けているというコンプレックスを解消してくれるものだった。

 後者については、長年の憧れの対象であった戦乙女に自分自身が今なっているのだ。ある意味、これほど理想を体現した存在はない。

 また、なまじ体を重ねて恋人と呼ぶべき関係になったが故に、元の立場に戻った時も、今と同じように相手のことを愛せるのか、という躊躇いも、理由のひとつだろう。

 そして──ふたりは自覚していないが、この頃から、さらにそれぞれの女性化・男性化が急速に進み、1ヵ月も経たないうちに外見的にも内面的にも(さらに言えば肉体構造的な意味でも)、完全にガンドルは男性、エイラは女性へと変化してしまう。


 もっとも、そのことで何か不都合があったかと言えば、特になく、せいぜい半年くらい経って……。


 「あ、今更だけど、オレって本来女じゃなかったっけ?(←朝勃ちした自分の股間を見つつ)」

 「! そう言えば、私も、元は男の子じゃありませんでしたか?(←ギリBカップぐらいに成長した胸を見下ろしつつ)」

 「……」「……」

 「「ま、別に問題ないか!」」


 ──という、何とも間抜けなやりとりがあったくらいで、さらりと流されてしまった(まぁ、既にふたりとも数ヵ月間「男子学院生」と「その相方の戦乙女」として普通に暮らしているのだから、無理もないだろう)。


 結局、ふたりは一年後の「ガンドル」の卒業まで、そのままの関係を押しとおした。

 卒業直後に一応指導教官のクリステラに相談はしたのだが「そんな事が起こるなんて、奇跡的な確率でしかあり得ないし、仮にその本当にそういう事があったとしても、これだけ時間が経ったら、新しい立場が完全に定着してしまっている」と告げられる。

 無論、「彼」と「彼女」もそのことは気付いていた。

 時間が経つにつれ、「ガンドル」は魔術師として大成し、逆に「エイラ」の方は戦乙女としての戦い方や知識などを自然に身に着けていったからだ。


 あるいは、学長やその知り合いの高位術師などであれば、何とかすることもできるのかもしれないが……。


 「別にこのままでいいよな? どの道、これからもオレたちはずっとふたり一緒にいるわけだし」

 「ええ、「死がふたりを分かつまで」──いえ、貴方が死んだら、私がその魂を天界に導きますから、死んだあとも、ですね♪」

 「ははっ、違いない。さて、一応、「里帰り」は済ませたわけだし、今度はどこに行くかねぇ。竜退治とかも、いっぺん挑戦すべきかな」

 「それなら、南の地方で3つ首の亜竜が暴れてる──という噂を聞きましたけど」


 その後、「焔の勇者の再来」の甥とその相棒が、英雄として叙事詩サーガに謳われる存在となったかは、ご想像にお任せしよう。



-おしまい?-

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