第12話 出立しました
『
金より高価で重量は鉄の十倍。ほんの少し混ぜ込むだけでその素材は強度を大幅に増す神秘の金属。
鋼材への混入ではなく、全てそれで武器を作るというのは狂気の沙汰とも言える行為であった。
確かに興味はあったし、作成できる財力もあった。そして、神が背中を押した。
商店現当主兼工房長は当主の権限と神の啓示を盾に周りを黙らせ、不眠不休で
神の加護なのか
普段だったら絶対に認めないようなデザインになったが気にしなかった。何も考えずに一心に打ち続け、ただひたすらに素材の声に耳を傾けて出来た
出来上がった
仕上がりのテストとして戦斧で思いっきり何度も殴りつけたが、かすり傷の一つもつけられないまま戦斧の方が壊れた。
その仕上がりに満足すると不眠不休の疲労が押し寄せ、そのまましばしの眠りについた。
◇ ◇ ◇ ◇
お城に戻ってきたヒカルは割り当てられた客室でマジカルステッキを試していた。
マジカルステッキを突き出し、風をイメージして『力』を送り込んで見る。
ふわっ!
ささやかな風が起きてユキの毛を揺らす。
やはりマジカルステッキはヒカルの『力』、改造によって神から与えられた『神力』と相性が良いようだ。
常人にとっては振り回すことが困難な重量も『神力』を持つヒカルにとってはナイフ程度の重さにしか感じられない。そして、通常では変身しないと具現化できない力も僅かにではあるが行使できる。
余談だが、マジカルステッキの試しを行う姿は『年頃の女性が女児向け玩具で遊んでいる』ようにしか見えず、それを見ていた侍女がヒカルに気付かれる前に去っていったのだが、ヒカルにとってそれは幸か不幸か・・・・・・
◇ ◇ ◇ ◇
旅立ちを前に、ヒカルとユキは謁見の間に招待されていた。
「我が国の紋章を受け取って頂きたい」
目の前に差し出されたトレイに乗った物を手に取る。
鎖がついた両掌に乗るぐらいの銀のプレートには鮮やかな赤色で聖コルマヨット王国の紋章が刻まれている。
ユキの方に視線を移すと、同様の物が付いた革の首輪を付けられている。
「その紋章を贈るということは、聖コルマヨット王国国王の名のもとにそなたらの身元を保証して保護するという意味であり、その紋章を持つ者を害する事は我ら王家に弓引くと同意である。
よほどの愚か者でない限りそなたらに手出ししてくることはないだろう」
「ありがとうございます」
ヒカルは特定の勢力や集団に付くことは避けたほうが良いという考えであった。しかし、この世界にたどり着いてから幾度となく感じた『神が仕込んだ布石』の一つと判断してこれを受け取ることにした。
「そなたらの旅に役立てばと思い、広域の地図を用意した。
精度は低いが目安にはなるだろう」
「ありがとうございます」
トレイに乗った巻き物を受け取り、広げてみる。
急いで作ったと言う感じが滲み出るシロモノではあったが、水神の里を含めた4つの『世界の要』の場所や各国家と主要都市の名前など必要な情報は一揃い得られる内容になっている。
位置的に次の目標となる場所は『風の島』かと考えていると国王から話題を切り出してきた。
「この街から風の島に向かうとすればサーブルク伯領を通ることになるが、最近盗賊の活動が活発化して深刻な被害が出ているとのことだ。
それで救援要請を受けていたのだが、昨日の報告と合わせると気になる事が出てきた。
昨日の報告にあった『火薬』を盗賊が使っているらしいのだ」
「え?」
この世界では火薬の製法は一握りの錬金術師に秘伝として伝わるのみで、火薬の流通は殆ど無い。
「被害拡大の主な要因は盗賊団の集結と『爆発する玉』と聞いておる。
この『爆発する玉』とは報告にあった『火薬』ではないのか?
だが、盗賊団に火薬の製造を行えるとは思えぬ。そして、時期や地理的な近さからも水神の里の件と共通の存在が背後にあるとワシは睨んでおる」
「・・・・・・」
国王の言葉にヒカルは考え込む。水神の里の問題は解決できたが何者の仕業だったのかなどの手掛かりは一切得られていない。
「サーブルク伯領の地図と紹介状を用意させよう。立ち寄って話を聞くなどすると良い」
「お心遣い、ありがたく思います。それではひとまず失礼させていただきます」
ヒカルが一礼するとそれを真似るようにユキも頭を下げ、二人は謁見の間を後にした。
謁見の間を出たヒカルは旅立ちの準備にはいる。
市場に出て食料を仕入れ、市場の人が使ってた
さらに手袋とマントも購入し、マントは異次元ポケットにしまい込む。
城の戻ると地図と紹介状の用意が出来ていたのでそれを受け取り、最後に見本として貸し出していた服の回収して準備が整う。
「ヒカル様、どうかご無事で」
「ありがとうございます、リリア様」
リリアに見送られヒカルは城を出た。
街を通り抜け、城門の外に出ると背を向けてユキはしゃがみこんだ。
「え、ユキ? 乗れってこと?」
「わうっ!」
「ん、じゃあ、遠慮なく」
ヒカルはユキに跨がると、その背中にしっかりと掴まる。
「じゃ、行こうか」
「わうっ!」
ヒカルを乗せてユキは駆け出した。この世界のどんな乗り物よりも速く、野を抜ける風のように。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます