第3話 陰謀の気配に巻き込まれました
「貴女は、伝説の聖女様ですね」
「は?」
突然の事にヒカルは戸惑った。
神様からもらった情報に『伝説の聖女』などと言うものはない。
「聖コルマヨット王国に伝わる伝承にこうあります。
『人と神々の絆失われし時、異なる
まさに伝承の通りです」
「えーと、蒼き衣ぐらいしか合ってないような気がするんですけど・・・」
「いえ、そんなことありません!今のお姿や力なんてまさに『異なる理』そのものです!」
「うっ・・・・!(『異なる理』って多分『異世界』のことだと思うけど)」
「それに、先程見せた『癒やしの奇跡』
あれこそ、まさに聖女の力!」
「・・・(こっちは医者が当てにならないだろうから付けてもらっただけなんだよね・・・)」
「是非、その御力で父上をお救い下さい」
「・・・・。わかりました、でもその前に着替えたいので向こうを向いて頂きたいのですが・・・」
「あ、これは失礼しました!」
姫達が背を向けると、ヒカルは物陰に隠れた、そして。
「変身解除キャストオフ!」
ぴかっ!
発光と共に異形の鎧が消え去り、全裸になるヒカル。
「って、こっち見るな!」
光に驚いた護衛の男が振り向きそうになるのに気付いて思わず大きな声が出る。
「はっ!申し訳ありません!」
「申し訳ありません!後でよく言って聞かせます!」
隊長が背を向けたまま謝る。
「もう、気をつけてよね・・・」
そう言いながらヒカルは
『異次元ポケット』
無限の収納量を持つ異空間に荷物を収容するスキルだ。
着替えやその他の荷物が収容されており、ヒカルが出し入れをしたいと願えばその場所が出入り口となり、収容や取り出しを行うことが出来る。
なお変身で弾け飛んだ服も収容され、その場合は12時間掛けて新品同様の状態に再生される。
「おまたせしました」
ヒカルは着替えを済ませ、物陰から一行の元に戻る。
「えーと・・・、姫様」
「リリアネット、リリアで十分ですわ、聖女様」
「リリア様、その『聖女』呼びは出来れば控えて頂きたくて・・・」
「では、どうお呼びすればよろしいのでしょうか?」
「わたしの名前は『ヒカル・アオゾラ』なので『ヒカル』と呼んでいただければ・・・
(この世界の文法に合わせるとこれでいいんだよね?)」
「わかりましたわ、ヒカル様」
「姫様、さっきの事故で御車が・・・」
護衛の男が指し示す先では馬車というには小さく、
「この先は馬に同乗していただくことになるのですが、お二方ともそのお召し物では・・・・」
護衛の男はヒカルとリリアのスカートを見て困った顔をする。
ヒカルは膝下丈、リリアに至っては踝まであるスカートで馬に跨がるには適さない服装であった。
ヒカルは辺りを見回し少し考えた後、道の先を指差して尋ねた。
「目的地は向こうの城壁に囲まれた街でいいの?」
「ええ、確かに道の先の首都が目的地ですが?」
リリアは困惑して答えた。
方向は合ってるが、首都は目視出来るほど近くではない。だが、ヒカルの挙動は明らかに視認してのものだったからだ。
「この距離なら、わたしがリリア様を担いで走っても問題ないね」
「またまた、御冗談・・・きゃっ!」
ヒカルがリリアの言葉が終わるのを待たずにお姫様抱っこで抱え上げたのだ。
「じゃ、行くよ」
そう言ってヒカルは返事を待つこと無く走り出す。
「え、ちょっと待ってください二人共!」
護衛の男達は慌てて馬に乗り、二人を追いかけた。
◇ ◇ ◇ ◇
門番に視認される少し手前の場所で二人は待っていた。
「姫様、ご無事でしたか」
「なかなか珍しい体験をさせていただきましたわ、馬より早いのにほとんど揺れを感じなくて・・・」
そういうリリアの笑顔は少し引きつっていた。
「実行しないと冗談として流されると思ったからね」
「出来る出来ないはともかく、本当に実行するとは思いませんでしたわ」
「姫になにかあったら我々の首が飛ぶので焦りましたよ」
「あはは、すみません」
「本当に何かあったら物理的に首が飛んでましたよ」
「・・・。すみません、もう二度としません・・・」
「ここからは一緒に行動してもらいます」
「はい、そのつもりで待ってました」
四人は城門を通り抜け、大通りを通って城へとたどり着く。
「姫様、お待ちしておりました。早く陛下の元へ」
城の前で文官が一行を出迎える。
「ところで、そちらのお方はどなたでしょうか?」
ヒカルに気付いた文官が尋ねる。
「この御方、ヒカル様は道中で我々を助けてくださった恩人です。
異国の医術に通じており、その技術を見込んで同行を願いいたしました。決してご無礼の無いように」
ヒカルから『聖女』の件は伏せてほしいと言われたので一行は『治癒の奇跡』を『異国の医術』として通すことにした。
ヒカルとしては『聖女』の件が知れ渡れば、その力を取り込もうとするなど良からぬ事を企む輩が現れる事は必然なのであまり力を見せるような事はしたくはなかった。
だが、今回の件を断って権力と険悪になるのも悪手だったし、なによりも縋って来る相手を無碍に出来るような性格ではなかったので『聖女の件は内緒』という約束で引き受ける事にしていた。
『異国の医術』としたのは、この国の医術では全く解明出来ない王の病を治しても疑問に思われないための苦肉の策であった。
多分怪しまれるだろうが『異国の技術だから』で強引に押し通す予定だ。
◇ ◇ ◇ ◇
「父上、リリアネット只今帰還しました」
「・・・リリアよ、もっと近くで顔を見せてはくれぬか」
「はい」
リリアが近づくと国王は震える手でリリアの頬にそっと触れる。
「ああ、間に合ってくれてよかった。これで思い残すこともなく神の御下へ・・・」
「ちょっと待ってください!そんなに弱気にならないで! ヒカル様、お願いします!」
ヒカルはリリアの横に立つと、国王の胸に手を当てる。
ぴかっ!
ヒカルの手の平が光り、国王の全身が淡く発光する。
「リリアよ、これは一体・・・?」
リリアは少し迷った後、あえて真実を告げた。
「この御方は『癒やしの奇跡』の力を持つ、伝説の聖女ヒカル様です」
「なんと! まさか伝説の聖女様をお連れしたのか!」
「え、ちょっと!リリア様!」
突然約束を反故にされて困惑するヒカル。
「申し訳ありませんヒカル様。ですが、この状況を『異国の医術』と誤魔化すのは無理かと・・・」
「うーん、まあ、確かに・・・」
「ところで父上、お体の方はどうでしょうか?」
「おお、そういえばさっきまでの苦しさや手足のしびれが嘘のように消えている!」
光が収まり、国王は回復を確認するかのように体を捻り腕を降る。
だが、ヒカルは暗く沈んだ深刻な表情をしていた。
「・・・陛下、大変申し上げにくいのですが・・・、陛下の症状は病ではなく、毒によるものです」
「なんと!」
「なんですって!」
ヒカルの言葉に驚き固まる国王とリリア。
「リリア様はわたしが馬の怪我を治したときの事を覚えてますか?」
「たしか、ヒカル様が手をかざすとアルフォンスの体が光って・・・」
「今回は、陛下の体が光る前にわたしの手が光りましたよね」
「そういえば、アルフォンスの時と少し違いましたわね」
「あれは『浄化の力』が発動したからなのです。『浄化の力』はわたし自身を守る為に毒などに近づくとわたしの意思とは関係なく発動します。そしてさっきも陛下のお体に触れた瞬間、毒に反応して発動しました」
「つまり、何者かが父上の命を狙って毒を・・・」
「とりあえず、毒の摂取元を特定した方が良いですね。そうすれば犯人なども絞り込めると思いますし」
「リリア、すまぬが、水を取ってくれぬか」
通常ならば使用人にさせることだが、人払いをしている以上自分で取るか二人に頼むしかない。
「あ、これですか?」
ヒカルはリリアより先に水差しに気付き、手を伸ばす。
ぴかっ!
ヒカルが水差しに触れた瞬間、ヒカルの手が発光する。
「!!」
「まさか、この水が・・・」
「なんということだ・・・」
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