第2話 人助けをしたら「伝説の聖女様ですね」と言われました
「ここが異世界・・・」
強化改造を終え、青空ヒカルは異世界の地に立っていた
青いブレザーに膝下スカート、ニーソックスとこの世界では浮きそうな自分の出で立ちが気になったが他のものは用意されなかったので仕方がない。
「この世界の神々の信仰を取り戻せばいいと言われたけど・・・」
ひひーん! がっしゃーん!
どこからともなく馬の嘶きと何かがぶつかる音が聞こえてきた。
「何だろう、とにかく行ってみよう」
◇ ◇ ◇ ◇
倒れた馬と馬車の傍らで傷付いた男たちが一人の女性を守るように剣を構えていた。
「悪いがアンタらには死んでもらうぜ」
「殺す前に少しぐらい楽しんだっていいよな?」
「ああ、かまわねえぜ。邪魔な男共を始末した後に生きてればな」
「こんくらい上玉なら
「ああ、ちげえねえな」
片刃の曲刀をもった男たちが下品に笑う。
「く、膝に矢を受けていなければ・・・」
護衛の一人が悔しそうにつぶやく
◇ ◇ ◇ ◇
「どう見ても悪党と被害者の状況だし、無視してやり過ごすという訳にはいかないよね」
物陰から様子を見ていたヒカルは呟いた。
「一対多数は武術の達人でも厳しいって言うし、ここは・・・」
彼女は屈み込んで小石をいくつか拾い上げる。
ひゅっん! ごがっ!
弾丸如く飛んだ小石が悪党の一人に命中する。
「おい! どうした!」
突然仲間の一人が倒れたことに驚く悪党達。
「一体、どんな事をすればこんなことに」
強化改造されたヒカルの投石はまさに弾丸のような威力で肋骨を砕き、抉れたような凹みを作り出していた。
「ぐがっぁ!」
倒れた仲間を見ていた一人が倒れる。
今度は背中に当たり、背骨を砕かれて肺も潰され即死。
「まさかあの女がか!」
ここでようやく、ヒカルの攻撃だと認識して悪党の意識がヒカルに向けられる。
ざしゅっ! ずしゅっ!
「ぐっ・・・」
「ぐぁっ!」
意識が自分たちから逸れた隙を突いて護衛の男たちが悪党に切りかかった。
「チクショウー! お前らはあの女をどうにかしろ! こっちはオレが抑える!」
リーダーらしき男が切られた傷を押さえながら叫ぶ。
「・・・・・・」
倒れた者たちの惨状を目の当たりにして足が竦んだのか男たちは動けかない。
「何してんだテメーら! さっさとしねえとお前たちも足元のヤツみてえになっちまうぞ!」
「!!!!!」
その言葉に怖気づいていた男たちが慌てて駆け出す。
「ぐはぁっ!」
「ぐぼっぉ!」
「がぁっ!」
だが全員が容赦ない投石の前に倒れる。
「ちっ、覚えてろよー!」
護衛達と対峙していた男は捨て台詞を吐いて逃げた。
護衛達は女性を守ることが優先とばかりに動かなかったし、ヒカルも離れていく相手に当てる自信はなく、だまって逃亡を見届けた。
「ありがとうございます、貴女には何度礼を言っても言い尽くせません」
護衛の一人がヒカルに深々と頭を下げる。
「私は聖コルマヨット王国第三王女リリアネット・アルメリー・コルマヨット
本来ならば相応の謝礼をお渡ししなければいけないところですが、急な帰還要請のために手持ちも少なく・・・」
「いえ、気にしないでください。ただ黙って見過ごすことができなかっただけですから」
「おい、しっかりするんだ!」
「申し訳ありません隊長、オレやアルフォンスを置いて帰還を急いで下さい、この足では付いていくことはできません」
「すまない、帰ったら早急に遣いを出す。それまで我慢してくれ」
「オレはともかく、アルフォンスはもう・・・。すまないアルフォンス、今楽に・・・」
膝に傷を受けた男は苦悶に満ちた表情で剣を抜いて構える。
「わーーーー!ちょっとまったぁぁぁぁぁ!」
それを見てヒカルは慌てて止めに入る。
「止めないでくれ!アルフォンスはもう二度と走れないんだ!馬としての命を失ってしまったんだ!」
「とにかく少しだけ待って!」
ヒカルはアルフォンスと呼ばれた馬を庇うように男に背を向けて屈み込む。
「できれば秘密にしておきたかったけど、見捨てることはできないからね」
ヒカルが手をかざすとアルフォンスの体を中心に周囲が淡い光に包まれる。
「一体、何が? ん、足が! 痛みが、傷がなくなってる!」
自身の身に起きた変化に男は驚きの声をあげ、次の瞬間歓喜の声をあげる。
「アルフォンス!」
ひどい骨折で二度と立てないと思っていた愛馬が立ち上がったのだ。
「アルフォンス!良かった!良かった!」
愛馬に抱き着き男は歓喜の涙を流す。
「奇跡だ・・・」
「まさかこの御方は・・・」
ぎゃあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!
突然の断末魔に驚く一行
断末魔の聞こえた方に振り向くと巨大な人型の魔物を従えたローブの男が佇み、そして魔物の手には断末魔の主と思われる男の死体があった。
「やれやれ、一人も始末できないどころか足を奪うことすらできないとは・・・・」
死体は先程捨て台詞を吐いて逃げた男だった。
「貴重な薬を節約したくて雇ったのに無駄な出費でしたね」
そう言うと男は魔物に何かを突き立てる。
ぐぅおおおおおおおおおおおおおおおおおお!
虚ろな表情だった魔物の目が赤く光り、長い腕を振り上げ雄叫びをあげる!
「姫、お下がり下さい!」
隊長がとっさに姫の前に出る。
ヒカルは顔に手を当て、魔物を観察する。
『
神様からもらったスキルの一つで、人差し指と中指の隙間を通して見た相手の情報を得ることが出来る。
─── トロール? ♂
─── ちから:300 ─── はやさ:85 ───
─── 再生能力極大 ー 無痛状態 ───
「まずい、こんなのと真っ向から対峙したら絶対死ぬ」
分かる情報は種族名と性別。?マークが付くのは通常の個体ではないという事。
表示される能力はヒカルの能力を基準値100としているため、目の前のトロールはヒカルの3倍の力を持ち、素早さもそれなりにある。
なお、護衛の男たちの平均値は【ちから:18】【はやさ:12】と全く話にならないレベルである。(フォローすれば、これでも一般兵の平均よりかなり上)
「これは本気で使いたくなかったけど・・・」
足を肩幅に開き、脇を締めて左腕を脇腹に当て、右手を天に伸ばす。
「変───」
右手を外回りで振り下ろしつつ左腕の様に脇腹に当て、左腕は逆に天に向かって突き上げる。
「───身! ウィンドフォーム!」
かっ! ばりぃぃっ!
閃光が閃き、周囲が光に飲まれヒカルの服がはじけ飛ぶ。
「うぉ! 眩し!」
「なんだこれは!」
「何も見えん!」
(見えたら困るんだよ・・・誰にも見えてないよね)
「太陽の使徒! サンブレイバー!」
光が収まるとそこには全身を異形の鎧で包み込んだヒカルの姿があった。
緑を主体とした関節以外を完全に覆うプロテクターと関節部を覆う黒い伸縮素材、風をモチーフにした飾りのついた靴や手甲、完全に顔を覆い隠し目の部分が発光する兜。
身も蓋もない言い方をすればご当地ヒーローにありそうなデザインの姿だった。
これこそが神様から最後にもらった彼女の最強の力。
変身の際にそのパワーで服が弾け飛ぶという欠点があるため出来れば使いたくない能力。
「なんだ、そのふざけたパフォーマンスは! ゆけ!改造トロール! 奴らを皆殺しにしろ!」
「
ひゅごおおぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!
凄まじい風がトロールの巨体をよろけさせ、後退させる。
「
ズバズバズバ!
風の刃がトロールの体を切り刻むが全く怯む様子もなく、切られた端から傷が次々と再生していく。
「この程度じゃだめか!」
ヒカルは踏み込み、トロールの懐に飛び込む。
「馬鹿め! そのまま捕まえて絞め殺せ!」
「
ぽおぉぉっん!
破裂音とともにトロールの両腕がはじけ飛ぶ!
「
トロールの体が風船のように膨らみ、よたよたと後退する。
ヒカルはトロールに背を向け、胸の前で右手を握りしめる。
「
ぱぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁん!
ヒカルの声と共にトロールの上半身が弾け飛び、その場に崩れ落ちる。
「ば、バカな! あの改造トロールがこうも容易く・・・キサマは一体何者だ!」
「それはこちらのセリフだ! なぜ我々を襲ったのか、洗いざらい吐いてもらうぞ」
ヒカルに気を取られている間にローブの男は護衛達に取り押さえられた。
「これで一段落かな・・・・!! みんな、そいつから離れて!」
「フハハハ!キサマらだけでも道連れだ!」
「なんだ・・・がっ!」
ヒカルのタックルを受けて護衛達がはじけ飛び、それと同時にローブの男が炎上する。
「・・・また、キサマか・・・どこまでも我らの・・・」
炎に包まれながら男はヒカルを睨みつけ、そして崩れ落ちる。
「また助けられてしまいましたな」
男が完全に死んでいることを確認しながら隊長はそう呟いた。
物陰に避難してた姫はヒカルに駆け寄ると目を輝かせながら言った。
「貴女は、伝説の聖女様ですね」
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