三分以内で読めるバー『K』での出来事を淡々と

I田㊙/あいだまるひ

バー『K』の話

 そのバーは、どうやら繁華街ではないどこかの町にあるらしい。


 マスターは、恰幅かっぷくのいいお酒が強そうな容姿をしている。あとちょっとキレっぱやそうな性格をしている。年は確か50前後。

 柔道で国体に出て大学を卒業し、そして銀座や大阪のバーで修業。

 家業は元々飲食店だったが、バーではなかったそうだ。

 父親が店を息子に譲った後、彼は奥さんと共にそのお店を続けていたが、バーに改装した。

 現在の店員は、マスターと奥さんとアルバイトの男の子が2人。


 お店の柱には黒い猫のシールが貼ってある。

 マスターも奥さんも大の猫好き。

 それに、お酒と猫は切っても切れない間柄。


『いいウイスキーを作る醸造所には猫がいる』し、本場イギリスのパブには猫がいるお店があるし。


 どうやらそれに、『いいカクテルを作るお店には猫がいる』ということなのだろう。

 でも日本じゃ本物の猫をバーに出したらダメな場合が多いと言うことで、シール。

 日本の招き猫もそうだが、猫ってやっぱりお客さんを招くのか、バー『K』は平日でもわりと繁盛している。

 そりゃマスターの腕がいいというのが前提に必要だが。


 カウンターの席はL字になっており、10席ほどと奥にボックス席が3つ。

 棚にずらりとお酒が並んでいるのはちろんの事、そのお酒は通うとどれも少しずつ減っていっているのが分かる。

 お酒がしっかりと回転している。


 あと、初心者の『私』は知らなかったのだけれど、カウンターにあるお酒は触ってはいけないそうだ。


 バーテンダーからボトルを差し出されて初めて見てもいいらしい。

だから、気になったらすこーしだけ好きな飲み方で飲んでみて、ボトルを見せてもらうのがスマートだろうか。

 そのお酒が高いかどうかは…ちょっと運次第なところはあるけれど。



『バーってなんか入りにくい。ドレスコードとか』

 そうです、そうなんです。


 でもね、どうやら『K』のマスターはとりあえずツナギやらジャージやらじゃなければ誰でもウェルカムだそう。

 ツナギやジャージって『いい大人』が、お店に行く恰好かっこうではないというだけ。

 ちょっといい外食店に、ツナギやジャージでいったらおかしいでしょ? ということ。

 『いい大人』が『いい雰囲気』で飲む、『いいお酒』。

 結局それも、お店とお客さんを守るためのルール。

 大人のたしなみとはそういうもの。

 『いい大人』への第一歩ではないかなと、確かに思います。

 『私』はそうして嗜んで(いるつもりで)、大人になったなあという自己満足に浸っています。



 そこのマスターも奥さんも割とおしゃべりをしてくれます。

 『K』はそういうお店です。


 別の一流のお店ですと、おしゃべりはひそひそ声でも聞こえるんだとか。

 どういうお店かは入るまでわからないので、入って合わないと思ったらもちろん一杯で出ていいそう。

 結局星の数ほどバーはあって、自分に合うのがどれかは入ってみないと分からないですもんね。


 『K』はそんなお店だから、割と周りの話が漏れ聞こえてきます。

 ええ、『私』分かってはいるんです。

 聞き耳を立てるのが『いい大人』がすることじゃないってことくらい。



 だから、バー『K』での出来事やお話はフィクションです。


 よろしくどうぞ。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る