ここは俺に任せて先に行け

佐世保 悟

1橋の下の少年

「あ、記憶喪失の少年を拾ってしまった」

裏切り者のではぐれもので、異世界召喚者つながりの貴族の首を帝都の中枢区に送り込んだ道すがら、アルドは貴族街から市民棟を結ぶ200メートルを超す石造りの皐月坂橋を渡った。

その時、鳴門大橋の歩道の路肩に捨てられていた一人の少年を拾ったのだ。橋の下には6年前、俺が誰かに召喚された時足元に敷かれていた魔法陣と同じ物が描かれていた。

しかも、この子は魔王因子がすごく高い。

恐らく、高レアスキルを保有している。

単騎で1国を滅ぼし、魔王を殺して姿を消した俺の親友くらいに。


龍神ジャックの社員食堂。そこの今にも壊れそうなぼろい木製の机で一息つく。

少年はアルドにつれられるままに隣に座らせられる。

「あぁ炎で燃えていたが竜の紋章を着けてた。こいつは、奴の息子さ。」

先に歩く同じギルド、龍神ジャックのメンバーのシノの顔が強張る。

「お前には帝国には向かう覚悟ができているのか?」

シノはニヤニヤしながら俺の首に腕を回した。

「オレの息子はさ、帝国に洗脳教育を受けられてるんだ。」

アルトは、軍服コートの内ポケットから電子煙草を取り出し口に運んだ。

「この前会いに行ったんだけど、俺のことなんか何も覚えてなかったよ」

肺いっぱい吸い込んだ空気を吐き出す。

「まるで上層部の命じるままに動く機械のような、冷たい目をしていたんだ。オレは…」

シノは眉間をひそめ声色を落とした。

「ま、今日は飲めよ。俺も、最近は少し帝国の政策には少し…」

後によく見るとシノの親指にしているダイヤモンドの輝きに興味を持ったようだ。

「あぁ、そいつのことか、だめだぞ!お前にはまだ魔王因子が毒になる」

シノは指からダイヤモンドを外し、主人公のてのひらにちょこんと乗せた。

「まぁ、大丈夫だろ。今のうちから慣れさせるのも立派な英才教育さ」

「はぁ、まったくお前はいつも甘いんだから。このおとぼけショートケーキ野郎」

すると、ギルド食堂の10歳の看板娘アトラがキッチンからグルートビールを運んでくるのが見えた。

グルートビールとは、新進気鋭の異世界召喚者達が現代に合うように試行錯誤して作り上げたジャクソン麦の麦芽を利用して作ったものだ。適度に甘く、さわやかなのど越しをしており、ドレッドバイソンのサーロインステーキとの相性が最高なのだ。

「やっぱり俺には無理だ。奴隷上がりの俺なんぞに子供は……」

アルトは、反射的にシノから目を反らす。シノは、

「またその話か。もう奴隷なんて制度されてから5年もたってんだぜ。今を生きろよ。アルト」

と言った。

「今を…生きる、か」

そうこうしているとアトラが机の前に来てくれた。

彼女が子樽型のジョッキを二つ持ってくるのを見ると、いつもより二倍はジョッキが大きく見える。

「ビールふたつ、ここおくよ!」

雷雨と大雨のせいでわずかに湿った木製の机にどすんとビールがおかれた。

泡がなみなみのビールジョッキの淵からは、わずかに泡がポロリと垂れている。

「じゃ、今回の任務の勝利に乾杯だ!」

「おう!」

シノはアルドのジョッキに自分のジョッキをかつんと当てた。直後、ピカッと光が走り、ほどなくして轟音が鳴り響いた。どうやらギルドの近くで雷が落ちたらしい。シノは片目を閉じ口を再び開く。

「俺はギルド、お前は宝石商。軍をやめても目指す場所は同じだ。」


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