思考という毒薬

@pnag

遺書

 本当にやりたいことってなんだ?・・・ありがちな小説みたいに、僕はそう考える。決して生活に不満はなかった。凶悪犯罪者は大嫌いだ。犯罪が「やりたいこと」だった人たちに明日はない。そう考えていた。

ありがちな人生を生きる僕は、多少の相違はあれど及第点の少し上ぐらいの生活を送っていた。小説・漫画は割によく読むほうだ。「良書を読むことは、その時代の賢人と会話するのと同じだ。」確かこんな言葉があった。僕はそれを疑っていない。・・・でも、僕は会話をしているだけで俺自身は何者でもないのだ。僕はなんだ?他人の経験から得られるものはしょせん贋物に過ぎない。僕自身が経験したことでなければ意味はないのだ。あれ、これやっぱり本で読んだな・・・。

僕の完全オリジナルな考えはもう存在しないのだろうか?

僕のこの生きている実感なんかも本当はないんじゃないか?

コピーでしかない、おれは死ぬことすらも模倣になってしまう。死ぬことも影響を受けたからか。

それでも死ぬしかないんだろうな、その日は近い。


幼馴染が死んだ。遺書を読ませてもらった、でも理解できなかった。あんなことを普段から考えていたのだろうか?・・・俺は何も気づけなかった。いや、気にかけていなかったのか。親と恋人と両親を置いてあいつは死んだ。なにを考えていたんだ?

それよりもっと不思議な事は、あいつの死に方だ。警察の話によると、異例の若さで心臓麻痺を起こしていたらしい。なぜ・・・?

あいつの自殺に学校はテンプレなお悔やみと短い黙祷で応えた。クラスの輪にぽっかりと穴が開いて、すぐに埋まった、あいつは人気があった。でも人間は忘れる生物だ、ひと月もすると話題にも上がらなくなった。あいつが死んでから何かがおかしい、変だ。俺だけだろうか・・・?


しばらくの間線香をあげに行っていたが、八回目の合掌の時、両親があいつの自殺を忘れようとしていることに気づいた。俺があいつを忘れたらあいつの存在証明は誰がするんだ?

遺書をもう一度読ませてもらった。不思議と前よりあいつの考えていることが理解できた気がした。


・・・あいつが死んでついに一年がたった。あの遺書が頭から離れない。俺の人生は幻か?そんなわけがない、よな・・・。


俺はあいつだ。あいつは俺になる。・・・そんな、訳の分からない夢を見た。なんでこんなに引きずっているんだ?あいつの人生には深い闇が漂っていたんだろうか?世の中の娯楽はすべてくだらない、あいつはそう言いたかったのか?最近、とりとめのない思考が止まらない、忘れなければ。


 「お父さん、お母さん、先に死んでしまう僕を赦してください。僕はこの世の中に本当に存在しているものなんて無いって、知ってしまいました。僕ができる精いっぱいの抵抗は、こうやって死ぬことだけです。

 さようなら。ごめんなさい。さようなら」





「友人の死による後追い自殺・・・か。」

「よっぽど仲が良かったんですかね?」

「分からない。ただ、そいつの友達によると、先に死んだやつの遺書の内容が問題らしい。」

「それって、あの短い、よくわからない遺書ですよね?」

「確か・・・本当に存在するものはない、とか何とか言ってた。」


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