第9話 帰還

「はああああああああァ!」


 村長が【エアランス】と唱えると、空気が圧縮され村長の周りに二本の槍が出現した。

 その槍が勢いよくゴブリンの心臓めがけて飛んでいく。

 その結果、ゴブリンの胸からは真っ赤な液体が勢いよく溢れだす。


「なっ……」


 アレンは|呆然(ぼうぜん)と目を見張って、その光景を眺めていた。

 急に村長の声が聞こえてきたと思えば、ゴブリンが血を吹き出して倒れている。そんなありえない光景に驚嘆しているようだ。


「な、何で村長がこんなところに」


 どうにか気を取り直した様子で、アレンが問いかける。村長は怒りを隠そうともせずに、


「それはこっちの|台詞(せりふ)じゃ、この馬鹿たれ!」


「うっ」


「あれほど森の奥には行ってはならんと言ったじゃろう。|儂(わし)があと一歩遅ければ、お前はゴブリンの餌になってたのじゃぞ!」


「そ、それは──」


 アレンが物言いたげに口ごもる。村長も詳しく事情を理解しているわけではないが、色々あったのだろうということは想像できた。

 村長はゴブリンを一撃で倒せるほどの実力の持ち主であるが、空を飛ぶ魔法は使えないし、もちろん一瞬で移動できるような高度な魔法なども使えない。アレンのいる場所まで全力疾走で駆けるのはきつかった。

 村長がようやくたどり着いたときには、アレンはうずくまっており、ゴブリンの食糧と化す寸前であったのだ。


「まぁ、説教はあとじゃ。立て……そうにはないの。回復魔法は使えんから応急処置で我慢しとくれ」


 村長はそう言うと、近くにあった太くて丈夫そうな木の枝を風の刃で切り落とし、円柱になるように綺麗に枝の周りを削ぎ落とした。

 その棒をアレンの右足に当て、村長の服の端を破り巻きつけ固定する。


「これで……よしと」


「ありがとうございます……! ミーナちゃんたちはどうなったんですか?」


 応急処置を済ませたアレンは村長に逃げていったミーナたちの安否を問う。


「安心せい、無事じゃよ。あの子らがお主のことを教えてくれたんじゃ」


 村長の言葉を聞くと、アレンは力尽きたようにぐったりと倒れる。安心して眠っているようだ。

 村長はぐっすりと眠っているアレンに微笑みながら、傷だらけのアレンの身体を見渡した。

 すり傷や流血といたるところがボロボロである。

 ゴブリンを倒すには大の男三人がかりでようやく倒せるといわれている。そのゴブリンを小さな少年が相手をしたのである。それも二体同時に。普通なら殺されていてもおかしくない状況だ。

 村長は、よく無事でいてくれた、と思いながらもう一度アレンの寝顔に目を戻す。アレンはまるで全てをやりきったかのようなすっきりとした表情で眠っている。


「さて、皆も心配しとるだろうし戻るとするかの」


 村長はぐっすりと眠っているアレンを背負い、皆が待っている集合場所へと歩を進めた。

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