第8話 アレンの命運
魔の森・奥地、そこで三つの影が対峙していた。
三つの内の二つは魔の森に潜む魔物の影。
名をゴブリン。全身の肌が緑で覆われており、腰周りには何かの動物の毛皮が巻かれている。全長は幼い子供と同じぐらいだろうか。それほど高くはない。
残りの一つは少年の影。
名をアレン。歳は三つ。身長はゴブリンよりも少し低く、全身傷だらけであった。
そんな状態でゴブリン二体を前にしているにもかかわらず、アレンの顔からは恐怖というよりも困惑している様子が感じられる。
(おかしい、なんで俺がやられてるんだ)
アレンが一歩退くと、それに応じてゴブリンらは一歩踏み出す。全身傷だらけの上に武器もないアレンに対して、ゴブリンにはかすり傷すら見受けられない。数もゴブリンの方が優勢である。|端(はた)から見れば、この勝負の行方は一目瞭然だ。アレンが殺されゴブリンらの食糧と化す未来しか想像できない。
アレンがさらにもう一歩退くと、ゴブリンらはアレンへ向かって距離を詰める。小柄な体格に相応しい速度で駆けるゴブリンは、鉄砲の弾が飛んでいくようにも見えた。
ゴブリンはその速度のままアレンの腹部へ向けて両足で蹴り込む。
「うっ」
勢いよく蹴り飛ばされたアレン。起き上がり前方を見渡すが一体しかゴブリンの姿がない──もう一体はアレンの背後にいた。
アレンが蹴り飛ばされても足を緩めることなく走りアレンの背後に回ったのだ。
ゴブリンの姿を見失ったアレンの右足めがけ、ゴブリンは蹴りを繰り出す。
鈍い音と共にアレンが悲鳴をあげた。声にならない声が魔の森・奥地に鳴り響く。
(痛い、痛い、何で俺がこんな目に……。ゴブリンって言えば最弱のはずだろ)
その場でうずくまり逃げる手段を失ったアレン。ゴブリンらはお互いの目を合わせ合図でも取ったかのように同時にアレンに噛みつこうとする。
「しまっ──」
アレンの表情が凍りついた。
ゴブリンに前後を挟まれ、右足は曲がるはずのない方向に曲がっている。這いつくばりながら移動してもすぐに追いつかれるだろう。アレンを待っているのは確実な死。見た目は幼い子供でも、その中身は高校生であるがゆえにその結末を一瞬で理解した。
最後に一瞬だけ、見知った子供たちの姿が脳裏をよぎった。ほんの数時間前に出会ったばかりのアレンより二つ年上の男の子たち。そしてアレンと同い年の小さな女の子の面影が。
「俺が死ねばカイルたちどう思うかな。ミーナちゃんはきっと悲しむだろうな」
と、そんな事を考えていると、絶対死にたくない、とアレンは強く思った。そして、
「【エアランスゥ──────!】」
思いがけないほど近い距離から、村長の声が聞こえてきた。
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