第3話 俺の名は
(知らない天井だ)
定番ともいえる|台詞(せりふ)を心の中で呟き、起き上がろうとするが、立ち上がれないことに気がつく。
和人は自分の小さくて可愛らしいぷにぷにした手足見て転生した事を思い出す。
(そうか、無事に転生できたのか。ここはどこだろう。にしても、さっきからギャーギャーうるさいな)
「あら、アレン起きたのね。お腹でも空いちゃったのかしら?」
和人がそんな事を考えていると、部屋の扉から金髪の若い女性が入ってきた。
顔は綺麗に整っており優しそうな雰囲気が漂っている。
(この人が俺の母親なのだろうか。にしても、何て言ってるんだろ)
彼女が使用している言語は日本語ではなく、和人が耳にしたことのない言語であった。
恐らく異世界の言語だろうと当たりを付ける和人。
(動けそうにないし先に異世界語を習得するしかないな。けど、加護の力でわかるようにしてくれてもいいのに)
女神・フルティアにそう愚痴をこぼしながらも今後の方針を決めていると、先ほどの女性に持ち上げられ、胸元まで引き寄せられる。
(ご飯の時間なのだろうか、上手に出来るといいのだが)
◆◇◆◇◆◇
半年の月日が流れた。
半年もずっと異世界語を聴いていると、中身は高校生なだけはあり、だいたい理解出来るようになった和人。
言語の他にも和人が分かったのがこの世界での和人の名前がアレンであること、この家の生活水準、それに両親の顔と名前である。
和人は木で作られた家に住んでおり、両親の着ている服がやや汚れた布地のものであることから裕福な家庭でないことが窺える。
(俺ってこんなに天才だったか。それとも、加護の力で言語の習得速度が速くなっているのかな)
そんな事を考えていると二人の男女が入ってきた。
「ねえ、あなた。アレンったら、夜泣きどころか最近全く泣かないのよ。どうしちゃったのかしら」
「なに心配いらないさ、エレン。男がいつまでも泣いてるようじゃいかん!」
若い男が高らかに笑いながら答える。
「まだ生まれて半年なのよ? それに、あなたの顔を見ても泣かないなんて」
「ひどいな、俺の顔が怖いみたいじゃないか」
和人の母親エレンは綺麗な顔立ちだが、父親アイクは|強面(こわもて)ではあるが笑うと優しそうな顔になる。
(泣かなくて心配されるとはな。気をつけるとするか)
◆◇◆◇◆◇
さらに一年の月日が流れた。
生まれて一年半も経つとなんとか歩けるようになった。
動けるようになり行動範囲が広がったことで様々な情報が集まった。
パナップ王国のガルシア領にある小さな村にいることが分かった。アレンの両親はこの村出身であり、アレンは彼らの長男にあたる。
パナップ王国は、三大国の一つと言われる程大きな勢力を維持している。過去に何度か戦争を仕掛けられたり、仕掛けたこともあったが今は落ち着いている。
毎晩、母親のエレンが寝る前に読んでくれる絵本にエルフやドワーフ、獣人に精霊などが登場しており、実在することもエレンから聞いているので、アレンは会ってみたいと心を躍らせた。
村人は将来、農夫となるか、軍に入るか、商会に登録し商人になるか、ギルドに登録して冒険者になることが多いようだ。
「冒険者一択だよな」
そう心に決めたアレンであった。
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