ドキドキはほどほどに

「ぱっぱと作っちゃうからちょっとまってて」


 家に着くと、三上はキッチンに入り手際よく料理を始めた。それにしても相変わらず綺麗な部屋だ。こんなに遅くに帰ってきて、自炊もしてるみたいだし、いつ掃除をしているのだろう。


「三上、ちゃんと寝てる……?」

「何急に」

「こんなに忙しくて家事もしっかりしてるみたいだから……」

「汚れたらその都度綺麗にするんだよ。そしたら掃除に時間なんてかかんないよ」


 あっあー、なるほど。私みたいにカップラーメンのゴミ散らかしっぱなしで寝たり洗濯物部屋の隅に積み上げたりしなければいいんですねわかります。


「な、何か手伝おうか?」

「んー、じゃあビール出したりしといて」

「了解しました!」


 冷蔵庫からビールを取り出す。くーっ、早く飲みたい!

 それからしばらくしてオムライスが出来上がった。トロトロ卵に包まれた絶品のチキンライス。最高かよ。


「お、おいひい……」

「そんなにいい顔してくれると作り甲斐あるわ」

「あっちゃん結婚して……」

「いいよ」


 その答えにドキンと胸が鳴る。そうだった、今日なんかめちゃくちゃ軽いプロポーズされたんだった。私はその真意を聞きに来て……


「わ、私処女だけどっ」

「それもう聞いたけど」

「な、なんでそんな普通なの?ぷ、プロポーズってもっと緊張したり……」

「ちゃんとプロポーズって伝わってるみたいでよかった」


 三上がフッと微笑む。私を見て。な、何だよイケメンじゃないか。ドキドキするじゃないか。


「その顔はズルいよね!」

「使えるもんは何でも使う」

「顔がいい自覚あんのが腹立つ」

「まぁ、今までの人生でそれとなく?」

「わ、私とは真逆の人生を歩んで来た真のリア充だな!」

「仕方ねーじゃん。それでも俺はお前と結婚したいんだから」


 何だよ。何だよ何だよ。さっきから三上にドキドキさせられて心臓爆発しそうだよ。三上のくせに。三上のくせに!


「わ、わわ、私のこと好きなんだ?!」


 ちょっとは焦ればいいと思って、言った言葉が。


「知らないのお前だけだと思う」


 まさかの爆弾で返ってきて。


「い、いつから?!どこが?!なんで?!」


 パニックになった頭はどうにもならない。目が回りそう。だって私、告白されたの中学生以来だもん。


「知らねーよ。世話焼いてるうちにいつのまにか。なんか知らねーけど可愛く見えるんだから仕方ねーじゃん」

「ひっ!!」


 可愛い可愛い可愛い可愛い……。親と祖父母以外に言われたことないよそんな言葉!!


「わ、私はですね、三上くんのこと同期のめっちゃいい奴としか思ってなくてですね、その、今まで婚活とか合コンとか行きまくってすみませんでした」

「別に。付き合ってたわけじゃないし謝ることない。まぁ、上手く行かなくて安心してたけど」


 なんかもう私そのうち三上に心臓握りつぶされそうな気がするぅ……。


「とにかく、お試しで付き合って。それで俺のこと好きになったら結婚して」

「わ、私でいいのでしょうか、その、処女ですし……」

「そればっか気にすんな。むしろ好都合なんだけど。今まで誰にも触らせたことないんだろ?」

「ええ、まあ」

「俺結構嫉妬するほうだから。お前に関しては」


 フッと笑った三上に私はあまり意味が分かっていないけれど、とにかく人生初の彼氏ができたことだけは理解した。何故告白した側の三上が余裕で、された側の私がパニックを通り越しているのか。その理由は多分、恋愛経験の差。私は三上についていけるのだろうか。そのうち心臓を握り潰されないだろうか。かなり心配である。

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