意識しちゃって困ります

「舞子ー、今日も合コンだぜ、気合い入ってる?!」


 同僚の坂井にパーンと肩を叩かれる。坂井は私の婚活仲間だ。

 思わず辺りを見渡す。なんとなく、三上に聞かれたらマズいような気がして。


「えー、あー」

「珍しくやる気なさそうだね。今日は私がイケメンゲットするね」

「いつも坂井がみんな持っていくだろ」


 そう、坂井はとにかく見境がない。婚活仲間とは違うような気がしてきた。坂井は狩場で食い散らかしているだけだ。私は残り物すら手に入らない。坂井が通った後はただの荒野が広がるだけ。

 そう考えると、三上との結婚はかなり私の理想に近いのではないか?顔はいいし、家事能力が抜群に高いことも知っているし、一緒にいて気が楽だし、給料も悪くない。三上レベルの男は狩場でもなかなか見かけない。それに、三上は坂井に食われる心配もないし。


「今日はやめようかな……」


 まず、三上の真意を確かめるのもいいのではないか。坂井は目を見開いたまましばらく動かなかった。私が婚活に積極的でないのがそんなに珍しいか。


***


「お疲れー……」

「おう。どうしたこんな遅くまで」


 会社のエントランスで三上を待ち伏せした。三上はいつもこんな夜遅くまで会社に残って仕事をしているのか。

 それにしても、三上は普通だ。私は今日のプロポーズが頭から離れなくていつも集中できない仕事に更に時間がかかってしまったというのに。


「いや、ちょっと話しないかなぁと思って……」

「ああ、今日の昼の話?つーか今日は合コンないの?」

「うっ、うん、断った……」

「ふーん。じゃあ、飯でも食いに行く?」

「それもいいけど、また三上のオムライス食べたいなぁ」

「じゃあ俺の家だな」


 三上はそう言って歩きだした。三上の家久しぶりだなぁ。前は何で行ったんだっけ。三上の家綺麗だったなぁ。三上の家……三上の、家?突然意識してしまった私は、歩く時に手と足が一緒に出ていることにすら気付いていなかったのだった。

 車に乗り込むと、出すよ、と三上は言って車を発進させた。三上の車の助手席には何度も乗ったことがあるし、今まで何にも思ってなかったんだけど、今日は妙に意識してしまう。思ってたより近いなとか、三上運転上手だなとか、ハンドルを握る指の長さとか。


「合コンよかったの?」

「えっ、あ、うん。どうせ坂井と一緒だとハイエナにもなれないし」

「まあそうだな。肉食獣どころじゃない、バケモノだもんな」


 それにしても、三上は私にプロポーズしたということは私のことが好きなのか?……ないない、だって私がポンコツなのはよく知られているし、好きになってもらう要素がない。それに好きならこんなに普通に合コンや婚活の話だってしないだろうし。


「ちょっとスーパー寄るから」

「なんかごめんね」

「何が」

「いや、仕事で疲れてるのにご飯作ってとか言っちゃって」

「どうせ自分の分作るんだから平気だっつの。遠慮とか気持ち悪ぃ。ほれ行くぞ」


 これから君をイケメンと呼んでいいかな。スーパーに着き、先に車を降りた三上を慌てて追いかけた。

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