第2話序
夜。
全天には星。
雲ひとつない空に零れ落ちそうなほどの星が散りばめられていた。
月はその星のせいか目立たない。。
「平和だ」と呟くのは山の麓にある一軒の武家屋敷でお茶をすする二十代の青年だった。
整った顔に涼しげな雰囲気。
彼は空を見上げ、今度はため息をついた。
「また、無茶を」彼は心配そうに言う。その声の先には1つの影があった。
フラフラと浮かんでいる影だ。
「ヨルのやつまた出来もしない事をしようとしているな」
青年の位置から五百メートル。
上空にして約七十メートルの位置に青年の顔を曇らせる原因がいた。
黒いローブに大きな三角帽子、竹ぼうきに腰をかけた少女。
彼女はその名をヨルと言う。
年は十三。
生まれた時から修練を積んでいる魔女見習いである。
「うおっと」とフラフラと空を上下する彼女は今日も日課の空の散歩をしている最中だった。
彼女の家は”空を飛ぶ”という異能力を代々継承する魔法使いの一族でこの地方一帯の魔法使いたちの大親分でもある。
ヨルは能力がまだ低いのでこうして敷地内でしか飛行魔法を使えないが同年代でも力の強い人間たちはもう中央に仕事をしに行くらしい。
そんな話を聞かされているのでヨルは焦燥を抱えていた。
だが、自棄にはなっていない。
地道に修練を積んで能力を制御できれば、と自分に言い聞かせて、今日も空で無茶をする。
それくらいしか憂さ晴らしの方法がないのだ。
「う、わぉおお」出力調整が難しい。力を出し過ぎると上がりすぎるし、足りないと落ちる。
上に向かう力と下に向かう力の両方を意識してバランスを取らないと空をうまく飛べない。
鳥のように飛ぶなんてまだまだできそうにない。
でも、と思う。
私は期待されている。
それが漠然とわかる。
兄さまも言っていた。
「ヨルはいつか誰よりも深い空を潜れる」と。
だから自棄にならない。
だから、諦めない。
今は届かなくても。
いつか。
必ず。
今はまだ百メートルしか飛べないけど。
と、考え事をしながら飛んでいる時異変を感じた。
「???」空気が変わった。
一瞬、自分がどこを飛んでいたのか分からなくなる。
空。
全天は星。
しかし、雲ひとつなかった空には厚い雲が浮かんでいる。
すぐに「ここ」が「そこ」でない事に気付いた。
空気が違う。
これは。
「異界?」
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