救命処置は不要です

韮崎旭

救命処置は不要です

 止血だけなら死体でもいいね。8ミリフィルムの花畑で頭蓋を叩き割って死んでいる。朝日に照らされてタタキというか酒盗のような脳などがまるで宝石のように美しく輝いている。もう朝とかは来なければいいのに、不眠症が日に日に悪くなるから、需要を満たせない出来損ないは早々に破棄しておくべきだった……。ごみの様な人間性にも最近では拍車がかかっている。


「救命処置は不要です。」とどこかにわかるように書いておこうと思った。雑踏の中で倒れたりして頭部を強打などした際に、即座に死亡しなかった場合などに、または運悪く首が飛んだり肉片へと轢断されたりしたりせず、誰の目にも死んでいることが明らかにならなかった場合などに、この表明は役に立つことだろう。


 実際その状態で、つまりほとんど肉片同然の状態で救命されても、救急隊員が迷惑するだけで、誰の役にも何の役に立たない。絶対、放置して焼却するべき。人間がまず速やかに償却後は失われるべき。だが私はそれらの債権者ではないし、知ったことではないから早く公有地で野垂れ死にしておけばよかったのに。残念でならない。どうして、鉄道の軌道敷内のような、極めて私有財産であるような場所で死ぬ必要があるのか? 

 明白に確実に何かが間違っている。この世界は間違えてばかりだ。それはつまり私が間違いだということだ。間違いは死ぬこともできないのだ。間違いだから。悲惨だ。

 悲惨だから悲惨な死がふさわしい。

 しかしながら死は悲惨ではない。

 だから間違えない。

 なんという悲惨だ。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

救命処置は不要です 韮崎旭 @nakaimaizumi

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ