アッパラパーな珪素生命体が悪意無く現地民をぶっ殺したり交流したりするおはなし
隱 🐸蓮秾
前編 惑星の現地民を消滅させるおはなし
<よいしょっ。>
襲い来る原生生物の脚をもぎりながら、ワタシはその個体をスキャンします。
炭素基系の内骨格生物、四脚の前傾した二足歩行で、体色は紫色、背中には不透明な皮膜のある翼を持っています。頭部に突出した骨格部と情報処理臓器を持つ、この星ではよく見られる生物です。
「ギャアアアアアアア!!」
<うーん、これも一緒ですね。えいっ。>
「ぐぴっ……。」
ワタシはもぎった脚を迫る他の原生生物に、ぽいっと投げました。すると、脚の当たった頭部と胴体を繋ぐ部分が後ろの方に倒れ、その原生生物は活動停止します。内骨格生物はかなり脆いと外宇宙生物図鑑に書いてありましたが、想像以上に脆いです。
<うーん……これってホントに生物なんでしょか?####よりもヤワヤワですね。>
情報処理臓器の体積は大きめですが、発声体が一つしかありません。
外宇宙生物図鑑でよく見る発声器が一つの原生生物は大抵が低知能なので、彼らもそうなのでしょう。このコロニーのような場所に目立った建造物がない事もそれを裏付けています。
「クソッ、なんだあの化け物は!!? 人間でもゴーレムでもない?!」
「無闇に手を出すな! 遠距離からの魔法か、集団で一気に攻撃するんだ!」
あちらの方では、形の微妙に違う原生生物が1つに纏まり突っ込んできます。
<群れを作って自分達を大きく見せたり生存率を高めるのは母星の生物にも見られますが、攻撃してくると言うのは珍しいですねー。>
別方向からは発火した球体や扁平な真空の空間が飛んできます。数百体の原生生物をスキャンしましたが、彼らにそのようなものを産み出す器官は備わっていません。謎に満ちた体です。
<しかし、数が多すぎますねー。>
彼らのコロニーを脅かしたのはワタシですが、脆弱なれど32898(元は40000ほどでしたが鬱陶しいのでちょっと潰しました)匹の同じ体格の生き物が迫ってくるのはあまり気持ちの良いことではありません。
それに、原生生物の中には外敵の情報をコロニーで共有し、痕跡をたどって排除しに来る生物もいます。この好戦的な仕草を見るに、ここである程度廃滅しておかないと、今後の活動に支障が出そうです。
<初っぱなから使いたくなかったのですが……。>
突っ込んできた小さい群れを脚で蹴って潰しつつ、ワタシは仮想次元袋からスイッチタイプのそれを取り出します。
<炭素基系物崩壊装置……ノンセレンタイプで外殼にも優しいって書いてますけど、どうなんでしょ。>
だいいち、こういう売り文句は信用できません。この前だって、セレンの発生を抑え無害!を謳っていながら、我々珪素基系生物に有害な物を発生させていて、外殼荒れを起こした商品がリコール対象になっていました。
<久々の母星外活動(アウトスフィア)だし、始めてくる惑星なので、行き掛けに買ってきましたけど……一度で使いきりなのも勿体ない気が、うーん。>
これ使って降りてすぐなのに外殼荒れしたらやだなーと思って使うのを躊躇っていると、他の個体より大きめの個体が突っ込んできました。
「魔将様!」
「ここは我が引き留める! 貴様らは逃げて魔王様に報告しろ!」
<うわっ。>
うおおおと鳴き声を上げて迫ってくるその姿にびくついて、ワタシはスイッチを押してしまいます。
<あー。>
ちょっと後悔しますが後の祭り。ワタシを囲って敵対していた炭素基系原生生物たちや、そこらに生えていた緑の不動型炭素生物たちは、半径1200小単位の範囲で炭素を体から引っこ抜かれ、塵と一酸化水素になって風に流されていきました。
※
装置の効果範囲外にいた原生生物は30匹程いましたが、すべて逃げていったようです。良かった良かった。
<折角装置で拭われても、残りが襲ってきたらまた体液がついちゃいますもん。>
独り言を言いながら、ワタシは彼らの体液から分解された一酸化水素を拭います。どうやら外殼荒れはしてないようです。パッケージはどうやら偽りがなかったようです。
<また来るときに買って来ましょうかねー。>
ワタシは仮想次元袋からアウトスフィア用の重力固定椅子を取り出して腰かけます。更地になった地表は見晴らしがよく、まだ補給時間出はないのですが、ここで軽食を補給すれば良い気分になれそうだな、と思いました。
この惑星は我が母星より光航機で母星周期半日ほどと比較的近くにある未開惑星のひとつです。自転周期が母星の123分の1程と速く、公転周期も自転364回と少しと、かなりせっかちな惑星です。
窒素が主な大気に包まれ、平均気温は公転周期1単位平均で272ケルビン程。ワタシの住んでいた地方が夏場で40 ケルビン程の暑さなので、この惑星は星全体が南国模様の気候ですね。
さて、ワタシがこの惑星に来た理由ですが、それは母星周期で五日前に遡ります。
ワタシは実家を離れ上級学府に通っていたのですが、夏期休暇を利用し里帰りしていました。学府での専攻は外宇宙生物学です。
実家に帰ってもやることはなく、SNSを漁るか図鑑を観てごろごろしてるワタシを、扶養母体は<普段はあんなせっかちなのに>と苦笑していました。
そりゃ、せっかちに遺伝子操作された38基幹体だってのんびりしますよ、失礼な!
そんな夏のある日、昼に扶養母体と冷えた※※※※を啜っていたワタシは、偶然観てた公営放送局でとあるドキュメンタリーを目にします。
銀河ドラマチック~炭素基系知的生物との交流~
内容としては至極単純で、科学者兼探検家のレポーターが炭素基系生物と知的交流を図ると言うもの。外宇宙生物学を専攻しているワタシとしてはとても興味深く、つい興奮してSNSで密に実況し、投稿規制を喰らってしまいました。
そして番組が終わった後、こう思いました。
<ワタシも炭素生物と交流したい!>と。
思い立ったらワタシは止まれません<38基幹系にしてもせっかちすぎるよなあ?>と扶養父体に頭を傾げられるほどの行動力を発揮し、次の朝には愛船の中古光航機に荷物を詰め込んでいました。
学徒であるとはいえ成熟機にもなって父体候補の一人も捕まえずフラフラしてるので、扶養両親には特になにも言われませんでした(ちょっとかなしい)が、あまり心配させるのもあれなので、すぐに帰ってこれる距離の惑星に降りてみたのです。
衛星軌道から気候なんかを調べつつ、手始めに一酸化水素の海から外気に露出した場所に着陸してみたのですが、なんと言うか、失敗したな、と言う感じです。
ワタシの母星より重力がないので、低知能生物でもある程度は肥大化出来るのでしょうが、このコロニーの生命体は好戦的が過ぎました。
<今度は知的生命体じゃないにしても、温厚な動物がいいですねー。>
別の陸地があったので、次はそちらにいきましょう。そこがダメなら、海のなかにでも潜ってみましょうか。
時刻を確認してみると、母星の時間でおやつ時位でした。ワタシは間食をとらないのですが、件のドキュメンタリーでやっていたことを真似したくなりました。衛星軌道の光航機からベッドチェアをテレポートさせ、その上に寝転びます。
<適度にカットされた宇宙線の中で大気浴~♪>
はい、結構影響されやすい質です、ワタシ。これだから、《頭は良いけどバカ(発声器1つでアップ・ァップェァ・ラプェァの発音)》何て言われるんでしょうね。
しかし、見よう見まねでやってみたら存外気持ち良くってついワタシはうたた寝をしてしまいました。
※
我ら魔族の侵攻軍5万を襲った謎の襲撃者。突如天空から降ってきたそれは、どんな魔法や攻撃も通用しなかった。数十名を残して周囲の森諸とも一瞬にして灰にした後、それは活動を停止した。命からがら帰還した者達の報告を受け、一帯はすぐさま封鎖され、調査隊が送られた。
それはヒト型をしてはいるが、間接に継ぎ目があり、特徴的には人形やゴーレムのようでもある。果敢な調査隊の一人が身体を触ってみると、それは弾力があり柔らかく、ヒト肌のようであった。
しかし、強い衝撃を受けるとミスリルやオリハルコンのように硬化し、どんな攻撃や極大魔法でも傷一つつけられなかった。
今の状態は休眠状態であると判断した調査隊は先代魔王に封印を進言。これにより、『天災の人形』と名付けられたそれは10年をかけて地中深くに埋められ、二度とそれが災害を及ぼすことがないよう強固な結界を構築し、その上に地下迷宮と神殿を建てた。
しかし、魔族が『天災の人形』に気をとられている隙に、人間の国が侵攻を始める。境に近かったその地域は瞬く間に占領され、人間の支配域となった。魔王が代替わりし、付近に人の街が形成された今、魔族は手出しすることができない。
災厄の日を知る魔族は日々夜の星に請う。
願わくば、人形が起きないことを。
人形が起きてしまったのなら、どうか、魔族ではなく、人間どもに災害をもたらしてくれることを。
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