第57話

「それでは◯◯主催、第一回クイズ大会を開催したいと思います!本日の解答者達がこちら!では、順番に簡単に自己紹介していただきましょう。では一番右下の赤い男性からどうぞ」


それぞれが名前と意気込みを表明していく。中にはハンドルネームの人もいた。仮面で顔を隠していて中の表情は読めない。恥ずかしがり屋なのだろうか、人に見られることに無頓着な浩二には名前や顔を隠す人たちの気持ちを理解することは出来なかった。

緊張して声の震えている人もいた。こういう時、浩二は自分が緊張するタイプでなかったことを安堵した。緊張しては頭が真っ白になって解ける問題も解けなくなるかもしれない。せっかく能力があるのに、それをうまく使いこなせないのだけは避けたかった。

やがて浩二の自己紹介する番になる。


「海野です。今日は優勝できるように頑張ります」


簡素で当たり障りのない挨拶だったが、このくらいが充分だった。全員の挨拶が終わり、さっそく問題が始まる。

瞬間あたりの空気が一変し、ぴりりと緊張が走るのを感じた。ただの早押し問題だ、いつも通りにしていれば確実に解ける問題に違いない。あとは反応速度だ。ボタンを押すのはレジ打ちで慣れていたが、できるだけ早く答えを見つけ、ボタンを押さなければならない。浩二はごくりと唾を飲んだ。


「問題です。この絵の作者は誰?」


いきなりの画像問題。浩二が課題としているところだった。画像を素早く見て、頭の中をフル回転させる。


ピンポン!とボタンを鳴らし札が上がったのは浩二ではなかった。数秒差で出遅れる。


「a!」

「正解ですー!」


あとちょっとだった。浩二は悔しさを噛みしめる。と同時に自分よりも素早く答えることのできる頭の回転の速さの人がいる、ということに驚いていた。こちらはパソコンのようなものだ、人間の処理速度に負けることは難しい。しかしそれを上回る回転力の人がいるということは侮ってはいけないことたった。たまたま得意問題だったのかもしれないがよく注意しなければいけない。次からは答えを見つけるよりも、問題が出たら出来るだけ早く押してそこから答えるようにしよう、と決めた。


「次の問題です。円周率の小数点第53位はどれ?」


これはもらったと思った。普通の人なら計算するのに少しは必要だろう。すかさずボタンを押し、解答権を得る。


「cです!」

「正解!」


やった!と思わず声を上げた。あまりの集中と高揚に心拍数がドキドキと上がっているのを感じた。一問でも獲得出来たことに嬉しさを感じる。この調子で行くぞ、と浩二は意気込んだ。

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