第56話

「ええ、それはすごい努力ですね!」

「毎日いろんな番組でクイズをやっているのでそれを見て誰よりも早く答えるっていうのをずーっとやってましたね」

「それは成果がありそうだ。それでここにいるんですね」

「えーっと海野さんはクイズはどうやって練習しましたか?やっぱりテレビ?」

「テレビとか、あとは彼女に問題を出してもらってそれに答えるって練習もしてました」

「おお、彼女さんですか、それはいいですね。とても楽しそうだ」


森田はにこやかに微笑んだ。少しくたびれた顔に皺が刻まれる。

「うちの妻なんかは私のクイズ愛には無関心でね。よくクイズ番組に向かって答えてると煩そうに見てますよ」

はは、と笑う森田は少し寂しそうに見えた。俺と加奈子がこんなに熱心にクイズを練習したのは勿論クイズ愛ではなく、能力の検証という別の理由があったのだが、そのことについては隠しておいた。これから戦う相手だ、どんなに優しそうに見えても手の内は明かしてはならない。明かしたところで信じてもらえる方が稀だと思うが。


控え室は集まった出演者同士の会話でがやがやとしていた。これから戦う相手の実力調査も兼ねているのかもしれないが、結局はただの一般人の素人なので、闘争心を剥き出し、ということはなく、とても穏やかに歓談している様子だった。


「準備ができましたので出演者の皆さんはお集まりください!」


控え室の入り口から声がかかる。森田と顔を見合わせて、頑張りましょう、と声を掛け合う。係に案内されて会場に入る。中には解答席にそれぞれの名札がついており、浩二は2段目の中央あたりに名前が書かれていた。全員が座席に座り説明が始まる。


問題は四択クイズで問題が読み上げられたら選択肢が4つ画面に現れる。それを見て早押しで解答ボタンを押し、早かった人から順に答えていく。解答権は1回で、ミスしたらその問題の解答はもうできなくなる。10問先取で一番はやく10問正解した人が優勝となる。


説明が終わるとカメラがこちらを向き始め、奥の方から司会進行役と思われる人が入ってきた。何度かテレビでみたことのある芸人さんだった。


「それでは始めます!」


声がかかり、カメラが回り始める。カメラの奥の小さな観覧席を見るとパイプ椅子に加奈子が座っているのが見えた。目が合って、微笑みかける。加奈子が手を振って応えた。頑張るぞ、と心の中で念じる。少しの高揚感が浩二の身を包んだ。じわりと体が熱くなる。

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