第41話

拓哉は自分の行動が不思議だった。特に相田に用があった訳でもない、何か伝えたいことがあった訳でもないのに思わず呼び止めてしまった。サイン会の片付けをしながら拓哉は悶々と考え込んだ。なんであの時相田を呼び止めてしまったんだろう。うんうんと考え込む拓哉に、名取さんが声を掛けた。


「山岸くん、考え事?」


「え?あ、すみません、ちゃんとやります!」

「いいのいいの、おばさんの好奇心で聞いただけだから」

「はは、好奇心ですか」

「ちょっと、おばさんってとこは否定してよね!で、何か悩み事?良かったら教えてちょうだい、私なら解決出来るかも」


並べられたポールを一纏めにして奥の倉庫へしまう。その動作を二人してやっている中、拓哉はどう答えようかと逡巡した。名取さんなら大人だしいいアドバイスをくれるかもしれない。それに名取さんに隠し事をしても無駄な気がしたので拓哉は素直に話した。


「友達のことを何の用もないのに思わず呼び止めちゃって。何話そうか困ってるんです。きっと向こうも用がないって知ったら不思議がるだろうなって」


あら、と言って名取さんは口元に手を寄せた。にやけ顔で拓哉のほうを見る。


「それってもしかして相田ちゃんのことでしょ」

「えっ名取さん見てたんですか?」

「見てないけど分かるわよ〜大人の感舐めないでね」


名取さんは後ろで一纏めにした長い黒髪をふわりと揺らして胸を張った。相手がバレたことに急に恥ずかしくなる。拓哉は顔を赤くして、作業の手を早めた。


「自分でもよくわかんなくて。変なことしちゃったなぁってちょっと後悔してるんです。名取さんはどう思います?」


照れから早口で名取に尋ねる。名取はそうねぇ、と顎に手を当てて考え込むふりをした。

そしてにやりと笑い、拓哉の肩をぽんと叩く。


「恋の予感よ〜」


名取は嬉しそうにそういいながらスキップでもしそうな足取りで奥へと消えて行った。

恋?拓哉は頭上にはてなマークを浮かべる。そんなまさか相田に恋なんて、と思いかけて、はっきりと否定出来ない自分に気付いた。

これは恋なのか?いやそんなことはないはずだ。俺が好きなタイプは…。と考え、ふと根本のことが頭に浮かぶ。

なんで今根本が浮かんだんだ。それすらも謎だった。いやいや、違う、俺の好きなタイプは笑顔の可愛い純真な子だ。

相田も根本も、と考え、二人の笑顔が頭に浮かんだ。サイン会を前にして輝かんばかりの眩しい笑顔をする相田、パンケーキを頬張り嬉しそうに笑う根本。

あれ。拓哉は首を傾げた。

もしかして俺は二人ともタイプなのか?


拓哉は自分のことが分からなくなり、バイトが終わるまでずっと自分のタイプについて考え続けた。

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