第38話
「ねぇ、ちょっといい?」
斎藤と二人で恋の話に没頭していた拓哉は突然のことにとても驚き椅子から落ちそうになった。慌てて声の方を振り返る。
「なんだ相田か」
「ちょっと山岸くん借りてもいいかな?」
相田は気にしない様子で斎藤に確認を取る。話を聞かれていたかもしれないとドギマギしたご、相田と分かって安心した。相田なら何も言わないし、そんなのを気にするタイプではないからだ。
「おお、いいよ持ってけ持ってけ」
「人を物みたいに言うなよー」
「じゃあ借りるね」
相田は拓哉の腕を掴んで引っ張り立ち上がらせる。おとなしい見た目とは裏腹に力が強い。運動神経はそこまででもなかったが、みょうな所で女子らしくない特徴を見せるのが相田だった。
黒く長い髪がふっくらと膨らんだ胸元の先まで届き、長めの前髪と眼鏡が相田の目元を隠す。華奢なわりに長身な体は拓哉を引っ張るには十分で、ずんずんと廊下を歩き人気の少ない階段の踊り場までやってきた。
「相田、相田ってば。何?」
「あんまり人に聞かれたくないから静かな所で話したかったの」
「どんな話?」
「別に大したことじゃないんだけどね」
「なんだよ早く言えよー」
「山岸くんってあそこの本屋さんでバイトしてるでしょ?バイトっていつ入ってる?」
「え?直近だと火曜日だけど」
「じゃあ火曜日、私と店長を会わせて欲しいの」
「店長ならいつも店にいるから話せばいいじゃん」
「そうじゃなくて、バイトの立場として私を店長に紹介して欲しいの」
「別にいいけど」
「ありがとう、お願いね」
相田が拓哉の手を握って微笑む。念を押されるようにしっかりと握手をされてから相田はじゃあね、と去って行った。
相田はいつも神出鬼没で得体の知れない所がある。側から見ればすこし地味目な落ち着いた女の子だが、見かけによらず気が強かったりはっきりと物を言うところがあって拓哉は嫌いじゃなかった。
女子からのお願い事を頼まれるのはこれで短い期間の中で根本に続き2回目だ。こんな短い期間で2回も女子に頼まれごとをされるのは拓哉の人生にとってなかなかないことだった。当然色々な疑問が浮かぶ。相田は一体何をもってこんな頼みをしてきたのか。俺の立場を利用しての願いのようだが、それで何をするのかは見当がつかなかった。
もともと小さい頃から女っ気があまりなかった拓哉は、女子の扱いに慣れていなかった。男とばかりつるんで遊んでいた拓哉にとって、女子がどのような思考で動いてるのかを知るのは難しいことだった。女子は男子よりませていて、思いもよらないようなことを考えている。女子の思考を覗くことは生粋の男子である拓哉にとっては無理に等しいことであった。
相田は何を考えてあんなこと言ってきたんだろう?考えても拓哉には分からなかった。根本の例があるように、思いもよらない思考で動いているのかもしれない。拓哉は二人の女子に翻弄されて頭を疑問符でいっぱいにするしか出来なかった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます