第15話
悠人は一人夜道を歩いていた。病室に眠る森岡は目覚めることはなく、ただ魔法をかけられたように眠ったままだった。ぴくりとも動かない彼が生きていることを証明するのは、ピッピッと規則的に鳴る心音とわずかに呼吸する胸の上下だけだった。顔色が特別悪いようには見えなく、彼が病気であること自体間違いなんじゃないかと疑いたくなった。しかし目覚めない彼がそれを証明する。容態は悪くなく、このままいけばいずれ必ず目は覚ますだろうと言われたが、心配でずっと側を離れなかった悠人は、森岡の家族が来るまでずっと付き添っていた。
一人の夜道を歩くのは少し寂しい。病院から駅までのわずかな道のりだが、夜遅いのもあって人通りはまばらだった。
こつこつと固く冷たいコンクリートに靴裏が当たる音がよく耳に届く。まだ生暖かい風がじわりと肌を撫でた。少し汗ばむような気温に喉が渇いてくる。
歩きながらも悠人は森岡への心配でいっぱいだった。
本当にあいつは大丈夫なんだろうか。医者はそこまで深刻ではなさそうな感じであったが、難病で治療には最先端の医療技術が必要で多額の費用がかかることは聞いていた。それ故に余計に心配になる。これ以上森岡が悪くなったら一体どうなるんだろうか。
果たして彼と彼の家族に治療をするだけの多額の金があるのか、分からなかった。
そこで悠人は思う。森岡と一緒に願った禍台子神社で森岡は病気の治癒を願っていた。人の心を知りたいなんて突拍子もなく傲慢な願いを叶えた神様は、何故森岡の願いを叶えないのだろう。人徳からいけば、俺より森岡のほうがよっぽど徳を積んでいるはずだ。それだけあいつはいいやつだと思う。なのに何故神は俺の願いを選び、彼の願いを選ばなかったのか。
そうだ。ふと思う。人の心を知れる能力を得た自分がいるなら、病気を治せる能力を得た人もいるかもしれない。同じように禍台子神社で祈って何かしらの特殊な能力を得た人がいてもおかしくないはずだ。悠人は思い立って心が浮かぶのを感じた。それがいい。もし他に能力を持っている人がいたならその人に頼めばいいんだ。悠人はすがるような思いでいるかもわからない人を探し始めた。
探すのは簡単なことだった。悠人は家に帰り、すぐにパソコンを立ち上げた。禍台子神社で検索し、何か呟いている人がいないか見渡す。そして「禍台子神社に願った人」という掲示板を見つけた。
1:名無しさん
禍台子神社お参り行ってきたわ
2:名無しさん
皆どんな事願った?俺はモテますようにって願ったわw
3:山田
あそこまじで願い叶うらしいな
他愛もない会話が綴られている。悠人はそれをざっと眺め、自分でも書き込むことにした。出来るだけ正確に、本当のことを書く。側から見れば冗談にしか聞こえない内容だが、同じ境遇の人がいたら食いついてくるはずだ。
30:坂下
禍台子神社で人の心が読めるようにと願いました。そしたら本当に人の心が読める能力を得ました。他に俺みたいに願いが叶った人いますか?
すぐに反応はあった。嘘乙やら、冗談面白くないぞ、と言った反応はほとんどだったが、その中でも気になる答えをしている人がいた。
35:スーパーネオ店員
俺も能力持ってるぞ。内容はここでは言いたくないがすごいやつだ。
38:権兵衛
>35 願っただけで叶いましたよね、急に。わかります、俺も能力ゲットしました。
二人も反応があったことに高揚感を感じた。体がかっと熱く火照る。もちろん適当に合わせた嘘かもしれないことは承知の上だったが、それでもわずかな可能性でも仲間がいることは心強かった。希望の糸を見出したことにごくりと唾を飲み下した。もしかしたら本当にあり得るかもしれない。その事実は悠人を元気付けるのに充分だった。
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