第7話

ゲーム内容は簡単だ。頭の中に1から100までのなかで好きな数字を思い浮かべるだけだ。それを悠人が当てる。極めて不可能なゲームに思えた。しかし結果は悠人の思い描いていた通りとなる。


「71だろ?」

「なんで分かったんだ!?これでもう10問連続正解だぞ!まぐれなんかじゃありえない。トリックがないんだとすればお前はエスパーだ!」


森岡が興奮気味に鼻を鳴らした。手元のコーヒーはとっくに尽きていたが二人は白熱し、席を立つ流れにはならなかった。森岡が楽しそうに顔を綻ばせ、悠人にどうやってるんだ?と詰め寄った。


「だから本当に人の心が読める力を手に入れたんだって」

「冗談だろ、と言いたいところだけどこれは信じざるを得ないな。」

森岡が腕組みをしてうんうんと呻る。悠人に力があることを肯定する他ない事実に困惑していた。

「いつからなんだ?その力を手に入れたのは」

「多分お前と一緒に神社に行った時だと思う。その時に願ったんだ、人の心が知りたいって。あの神社、なんて名前だっけ?」

「禍台子神社だ。その願い事が叶ったっていうのか」

「タイミング的にも他に考えられない。お告げみたいな夢も見たんだ」


はっきりと覚えている恐ろしげな夢の記憶、情景を説明した。きっとあれがお告げだったに違いない。あの時神さまが夢に出て、願いを叶えてくれたんだ。


森岡と話すことで、さらに現実味を帯びた能力に悠人は少し怖くもあった。これから先どうやってこの力と向き合っていけばいいのか。悪用しようと思えばなんでも出来る気がした。


「どんな願いも叶えてくれるって評判だったけれど本当だったんだなぁ」

「本当、すごいよあの神社!お前は何を願ったんだ?お前の願いも叶ってるんじゃないか?」


あぁ、と返す森岡の顔は途端に暗くなった。聞いてはいけないことだったのかと不安にさせる。森岡は重い口を開くようにして声のトーンを下げた。


「実はさ、俺病気なんだ」

「え?」


唐突な告白に悠人は表情筋が固まった。耳から届いた言葉に、さぁっと全身の血が引いていく感じがした。さっきまでの興奮が嘘のように冷めていく。


「森岡、お前それ、結構重いのか?」

「今はまだそんなに日常生活に支障はないけど、難病ではある。治療があんまり確立されていないんだ」

「それで、お前は病気が治るように願ったってことか?」

「そうだ。検査しないことには分からないけど、治ってるといいんだけどなぁ」


森岡が少し笑う。悠人はそれに合わせることが出来なかった。友達が、難病。それだけでショッキングだった。返す言葉が見つからず、乾いた口でごくりと唾を飲み下す。そんな俺の状況に気付いた森岡は、そんなに気にするなって、と笑った。


「でもお前、治療があんまり確立されてないって…」

「あることはあるんだよ、ただめちゃくちゃ金がかかるだけで」

「それじゃあだめじゃないか」

「大丈夫、まだそんなに大事にはなってないし、平気だ。このままの状態が続けば大したことない」


それより、と森岡は手を打って場の空気をしめた。

「お前のその能力、どこまで出来るのが調べてみないか?何かの役に立つかもしれないし、気になるだろ」

「あ、あぁたしかに気になる。」

「よし、じゃあ試していこう」


手始めに、と森岡は近くにいた女の子を指差した。

「あの子が今何を考えてるかはわかるか?」


茶髪で黒いワンピースを着た女の子だ。一人で座ってスマホをいじっている。顔は後ろ姿で見えない、ごく普通の女の子だった。


やってみるよ、と言い、女性に集中する。視線を彼女の頭の一点に見据え、全身を落ち着かせるようにふぅと息を吐いた。びぃん、と耳鳴りが頭にノイズのように響く。


ーあぁ、拓也早く来ないかなぁ?お腹空いたし、暇だよ。


「拓也ってやつを待ってるみたいだ。お腹空いたって言ってる」

「じゃあ本当にその拓也ってやつが来たら正解だな」


しばらく待っていると女性の所に、たしかに男がやって来た。

「あ、拓也!もー遅いよ〜!お腹減った、はやくご飯行こ?」

「ごめんごめん!ちょっとサークルが長引いちゃって」


二人の会話を聞いた俺たちは、やった、と顔を見合わせた。


「これで、知り合いだけじゃなく知らない人の心の中も覗けることが分かったわけだ」


それから俺たちは色んなことを試した。どれだけ遠くの人まで心が覗けるのか、複数人同時に聞くことは出来るのか、子供や老人にも効くのか、テレビ画面などを通して出来るのか。

検証は二人をどうしようもなくわくわくさせた。一つ出来ることが増えるたび、二人で手を取り合って喜んだ。と、同時に計り知れない力の強大さに少したじろいでいた。こんなことまで出来ていいのか、と驚く。

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