第3話
「なに、今の女の悲鳴?」
「ちょっと怖い。早く行こうよ」
どうやら何かの演出だと思われたらしい。ちょっとほっとしながらも、直人をちらちらと見つめる。私のそばにいたって。じゃあ、直人が亡くなって号泣したことも知ってるんだよね。そんなのってなんか恥ずかしいじゃん。思わず顔が、かーっと熱くなった。
「ちょっと幽霊だけでなくストーカーみたいなこともしないでよ」
「そんなこと言ったてしょうがないだろ。あさみのことが気になるんだから」
そう言われて、どきっとした。生きてる時にそんなこと一度も言われたことないのに。気がつくと、直人がうるんだ目で私を見つめている。ちょっと照れた笑いを浮かべながら、生きていたら、息がかかってしまうぐらいの距離まで直人は近づいてきた。
「だって暗いところ一人で歩けなくて、いっつも俺が付き添っていただろ。なんだか心配で」
なんだそっちの方の心配か。少し安堵しながらも、なぜか裏切られたような気分になった。あんなに泣いたのに。そのことについては触れないのかな。恥ずかしい反面、きくにきけないでいると、直人が言った。
「俺がお化け役やってやるよ」
「えっ、でも」
「いいから、いいから。だって本家本元のお化けがやるんだから、いいだろ。少しはあさみの役に立ちたいんだ」
「けど」
「ちょっと行ってくる」
私の声も聞かないうちに、直人は暗幕の向こう側に行ってしまった。それからしばらくして、教室内に設置されたこのお化け屋敷は騒然となった。あっちこっちから、悲鳴が上がり、どよめく声が四方八方から聞こえてきた。
「で、でったあああ! さ、笹木の幽霊がでた」
「きゃあ、今の見た白い人影が動いた」
「物がひとりでに転がっていたぞ」
「ラップ音がすごいんだけど、ここ。どうなってるんだよ」
女子生徒も男子生徒も、皆一様に怖がり、教室の外へとダッシュで逃げて行く音が聞こえる。私はなんだか不安になった。暗闇のお化け屋敷内なんて、入りたくなかったけど、でも直人のことが心配で、いても立ってもいられなかった。
暗幕の裏側から中に入ると、お化け屋敷の中は真っ暗だった。ラジカセを使った効果音が流れて、おどろおどろしい雰囲気が通路に漂っている。
「きゃあああ!」
近くで悲鳴があがって、心臓が跳びあがりそうになる。相手は直人の幽霊なのは分かっているけど、それでもこの暗闇を見ていると、もっと他の幽霊がいたりするんじゃないかと勝手な想像力が働いていく。よくあるじゃん。幽霊が一人いると、他の幽霊も寄ってくるって。そんなことを考えると怖さがよけいつのって、足が立ちすくんでいく。
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