第2話
みんなには、直人の彼女だなんてからかわれたけど、そんなんじゃないと思ってた。幼なじみとして友達として、私は直人と一緒にいるんだと思ってた。それなのに彼が突然この世にいなくなって、私の心は混乱した。悲しい、寂しい、つらい。止まらない涙の向こう側で、私は直人のやさしい笑顔を思い出していた。好きだったのかな……。思わず心の中でつぶやいてしまう。
気がつくと、暗幕の裏側で、私は一人涙を流していた。この三か月の間でどれだけ泣いたことだろう。もう全部泣いたから平気と思ってたけれど、また不覚にも泣いてしまうなんて。いけない、いけないそう思って、私は竿につるしたこんにゃくを、自分の手元にたぐりよせて、次なる客に備えようとしたその時、目の前に白いものがふっと現れた。
『えっ、なになに! ひょっとしてこれってほんとに幽霊が現れたの?!』
怖さで目の前ものものを直視できないでいると、私の手に白い手が重なってきた。でも重さも温かさも何も感じない。
「あさみ」
いきなり呼ばれて、とっさに見るとそこにいたのは直人だった。死んだはずの直人が白い透けた身体でそこに立っていた。
『ゆ、幽霊! 直人の幽霊』
びっくりして竿が手から離れた。竿はからんと鳴って床に落ちていったけど、私の身体は驚愕のあまりしばらく動けなかった。
「あさみ、暗いところ苦手だろ。心配だからでてきちゃった」
直人は、見慣れた笑顔をふりまきながら、照れくさそうにつぶやいた。
「でてきちゃったって、それって成仏できてないってことだよね」
私はなんだか心配になってきた。直人は昔からお人好しのところがあるのだ。自分は犠牲になっても、他の人がいいならそれでいいっていう面がだいぶあった。ひょっとしてそれが、こんな事態を引き起こしているんじゃないだろうか。
「うん、たぶんまだ心残りがあるんだと思うんだ」
なんともないといった顔をしながら、直人は私のそばに寄って来た。身体は透けてはいるけど、直人は通学の時と同じ学生服のブレザーを着ていた。私の隣まで来ると、直人は落ちた竿を指さした。
「それ、拾わなくていいの」
「う、うん」
慌てて、竿を拾うと、こんにゃくをたぐり寄せた。
「それにしても暗いの苦手なあさみが、幽霊役をやるとは思わなかったよ」
茶化すように直人が言うと、私はぎくりとした。
「知ってるの?」
「そりゃ、知ってるよ。俺幽霊になってから、あさみのそばにずっといたから」
「え、ええ? えーーっ!」
私が絶叫すると、暗幕の向こう側で怖っがっている声が聞こえてきた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます