10話「妹たちと修学旅行」 前編

「ってことで兄さんは今日から3日間、修学旅行に行ってくる。 ちゃんと良い子にしてるんだぞお前たち」

「……陽兄ぃ」

「うう……兄さんも寂しいぞお前たち……この修学旅行が終わったら絶対まっすぐ帰ってくるからな」

「うう……陽兄ぃー!」

「おうおう、兄さんはいつでもお前たちの心中に生きてるからな」

「まったく、たかが修学旅行で大げさなのよ。 茜も兄さんも」


 しばしの別れのため、熱い抱擁を交わす俺と茜。 そしてその光景を見て呆れる智咲。


「ちーちゃんも寂しいくせに~」

「そ、そんなわけないじゃない! 兄さんがいなくてせいせいするわ!」


 相変わらずのツンっぷりを見せる智咲さん。 まあ、これが彼女の平常運転だ。


「じゃあ行ってくる。 智咲、茜を頼んだぞ。 茜、智咲の言う事ちゃんと聞くんだぞ」

「はーい!」

「行ってらっしゃい兄さん」


 妹たち二人に見送られ俺は二泊三日の修学旅行へと出発した。


 *


「あ、陽ちゃんこっちこっち!」


 集合場所である駅に着くと昔からの幼馴染である菜摘が既に待っていた。


「よう。みんなもう集まってるのか」

「うん、うちのクラスはもう全員集まってるよ。 陽ちゃんのクラスはこの間転入してきたレナちゃんが来ればみんな集まるらしいよ」

「ああ、レナか……」


 ていうか俺も大分ギリギリに到着したんだな。 腕時計で時間を確認すると集合時間を既に5分過ぎていた。 どうやら少しばかり遅れしまったらしい。


「レナお嬢様! くれぐれもお気をつけて! 何かあったらこのシゲ爺にいつでもご連絡を!」

「もう分かったってば! もう私行くから!」


 駅のロータリーがある北口からレナとシゲ爺の声が聞こえた。 レナはどうやらシゲ爺の運転する車に乗ってきたらしい。 駅の改札口前に集まっているクラスメイトたちは皆レナに注目していた。 注目といっても悪い意味ではなく良い意味で男子はもとより女子も「はぁ~レナちゃん今日もお人形さんみたい~、ほんと超可愛い~」なんて会話で盛り上がってた。

 お前ら……レナの本性を知ったら同じことが言えるのか……

 ……まあレナにもレナなりに色々あるみたいだし何も言わないけどな。 それにこいつは転入当初からクラスメイトから絶大な支持を受けてるし人望も厚い。 悔しいけど俺が太刀打ちできる相手ではないのだ。 


「あら陽太くんおはよう」

「お、おう。 おはようレナ」


 レナは何故かよそよそしい。 それもそうか。 近くにはクラスメイトがたくさんいるし何よりも目の前に菜摘がいるからな。


「レナちゃんおはよ~」

「おはよ~菜摘ちゃん」


 レナは菜摘をはじめクラスメイトたちに挨拶周りをして回った。 


「よう陽太」

「おう、翼。 二回目の登場だな」 

「前にも言ったけど、誰に説明してんだよお前」

「ふはは、気にすんな」


 そんなこんなで俺たちは新幹線に乗り込み修学旅行の幕を開けた。


 *


「……何であんたと隣の席なのよ」

「しょうがねえだろ。 まさか集合場所に着いた人から先着順なんて思わねえだろ」

「まったく早く起きなさいよね。 どうせ寝坊でもしたんでしょ」

「いいや、朝の4時に起きたね」

「はあ? それで集合時間の6時半に遅れるとかどうやったらできるわけ」

「いや、同じく遅れてきたお前に言われたくねえよ! 可愛い我が妹たちとの別れを惜しんでたんだよ……」

「……なにそれ詳しく」


 この後我が愛しの妹についてレナを相手に語りつくした。 九州へと向かう新幹線の中、俺とレナは隣の席に座っていた。 レナは俺の妹たち、いや可愛いものや人に目がない。 それを目にすると言い方は悪いかもしれないが正直言って気持ち悪いほど興奮し対象物へと近づく。 この間も我が愛しの妹たちも被害にあったが、あの後俺がフォローしまくったから妹たちはそんなに気にしていない(茜は除く)。


「はぁ~、話聞いてるだけでもあんたの妹ちゃん可愛いわねぇ~。 もう食べちゃいたい」

「おい、やめろ。 うちの天使たちには一本も触れさせないぞ」

「うー、お義兄さん。 お願いしますこの通りです」

「……お前態度変わりすぎだろ……」


 と、そんな会話を続けているといつの間にか博多駅へと到着した。





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