4話「妹たちとデート」

 あの告白から二週間が経ち、俺と妹たちは夏休みへと突入していた。

 暑い。めちゃくちゃ暑い。

 これだけ暑いとアスファルトで目玉焼きが焼けるのではないかと思ってしまう。 高校生になってまでこんなことを考えるのは馬鹿みたいだが、皆一度は考えることがあるのではないだろうか。

 外に出ると日光と蒸し暑さで一瞬にして汗をかいてしまう。

 そして汗で体がベタついてしまう。 不快だ。

 まったくこれだから夏はあまり好きじゃない。

 小さい頃、小学生の時は違った。

 暑いには暑かったのだが、暑いと思うのよりも先に外で遊びたいと思うのが先だった。

 夏休みはよく妹たちと遊んでたっけ。 あとついでにアホな幼馴染、菜摘とも。

 ここ二、三年はそういったことはなく夏嫌いな俺は家にこもっていた。

 もちろん現在進行形でだ。


「陽兄〜」


 廊下でうつ伏せに寝てる俺の上に茜が重なってきた。


「……茜。 兄さんの涼みを邪魔しないでくれ。 暑いし重い」

「陽兄、茜の体と触れ合って体熱くなっちゃうの〜?」

「あほか。 いいから兄さんから離れなさい」

「陽兄が遊びに連れてってくれたらいいよ〜」

「暑いからやだ」

「もー。 夏の陽兄は嫌い。 だらだら陽兄嫌い」

「嫌いでケッコーコケコッコー」


 俺がそう言うと茜は俺の上から降りて、俺の顔まで回り込み俺を見つめた。


「ほんとに嫌いになっちゃうよ〜?」


 珍しく真顔でそんなことを言うものだから一瞬ドキッとしてしまう。 思わず息を呑む。

 しばらくの沈黙の後、茜はニヒヒと笑い、


「うっそー」


 といたずらな笑顔で言った。


「か、からかうなよ」


 年下の妹にこんなからかい方をされて情けない気持ちとからかってくる茜、くっそ可愛いなという気持ちが入り混じった。 もちろん、妹としてだ。

 ……そういえばここ最近の夏休みは妹サービスをしてないな。

 暑いのは嫌だが……ないとは思うが妹とには嫌われたくないからな……仕方ない。


「どっか行くか?」


 俺がそう言うと茜はとびっきりの笑顔になった。


「やったー! 行く行く〜! ちーちゃん作戦せいこーう!」


 茜はそう言ってリビングへと繋がる扉に向かってピースサインをした。

 そこには扉の隙間から俺たちを覗いている智咲の姿があった。

 俺が視線を向けると智咲は恥ずかしそうにすぐ姿を消した。


「お前たち最初から企んでたのかよ!」


 ……まあいいけどさ。 おかげで嫌でも外に出る機会ができたからな。



 ……おかしいな。 せっかく遊びに連れてきてやったのに二人ともすっげー不機嫌なんだが。


「あ、茜さん、智咲さん? どうかしましたか?」


 二人があまりにも不機嫌な顔をしているので思わず敬語になってしまう。


「陽兄、センス悪すぎ」

「兄さんがモテない理由がわかった気がするわ」

「な、何だよそれ! せっかく連れてきてやっただろ? 遊びに!」

「陽兄〜、だからって……商店街はないよ!」

「中学生のデートでも行かないわよ。 兄さんってほんとセンスないわね」

「うん、ちーちゃんの言う通り。 陽兄やばいよ」


 ちょっと二人とも言いすぎじゃないですかね?

 そう、俺たちは家から歩いて5分のところにある商店街へと来たのだ。 と言ってもこの商店街、かなり寂れている。 俺が小学生の時は人でいっぱいだったのだが、今はまったくいないと言ってもいいほどだ。


「いや、お前たちが小さい頃はここでよく遊んでたろ? よく食べ歩きしてさ。 駄菓子屋もあるしいいじゃないか」


 俺がそう言うと妹たちはジト目で俺を見つめて来た。 その目はやめろ! 兄さん悲しい! ……いやでもなんか悪くないな。 いいぞ! 続けてくれ!


「はぁー、兄さんのことだからそんな期待してなかったけどね。 まあいいわ許す」

「茜も陽兄だからしょうがないから許す」


 兄さん泣くよ?

 センスがないと言われしばし落ち込んでいると、妹たちに両手を握られた。

 左手は智咲。 右手は茜。


「しょ、しょうがないから、ここで我慢してあげる……別に兄さんがあまりにも哀れでかわいそうだからしてあげるだけだからね!」

「陽兄の手、ぎゅー。 これで陽兄の手は私たちによって塞がれました。 他の女の人には触れられないね陽兄?」


 あっという間に両手に華である。

 べ、別に嬉しくなんかないんだからね!


「陽兄嬉しそう〜」

「うるせ!」


 そんなこんなで俺たちは商店街デートを満喫した。 久しぶりの夏休みの思い出だ。

 ……両手に華で運気が上がったのか、福引きで温泉旅行を当ててしまった。

 これからまた夏休みの思い出が増えそうだ……

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