最後のほたる

東風

プロローグ

ホタルを見に行こう、と彼女ー川上蛍ーが言ったのは確か5月に入ってすぐのことだったと思う。

「なんでまたホタル?」

「いや、ホラ私名前が蛍だからそれで。」

「それだけ?」

「うん、それだけだよ?」

蛍は首をかしげた。蛍のこの仕草はかわいらしいと評判だ。

「なにそれ。」

「いいじゃんいいじゃん。どうせ来年は受験で忙しくなるんだし。どこにも行けなくなるよ?しかも今年は『平成最後』の年ですよ?」

机をバンバンたたく蛍。やめなさい。びっくりしてる人もいるよ。

「あんまり関係ないと思うけど。」

「もう!すぐに否定から入るんだから清乃は。そんなに行きたくないの?」

そう言われると私ー山上清乃ーは弱くなってしまう。彼女の誘いは大抵受けてきたのだ。今回も拒む理由は特にないのに、悪い癖が出てしまったらしい。

「分かった。行くよ。」

「やった。約束ね♪」


会話の内容はこんな感じだったはずだ。だからというか、今日は約束通り、ホタルを見に行くのだ。

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