2ページ

 バーテンダーになろうと思ったのが高校三年生の時、バーテンダーって格好いいって思ったのはそれよりも前のことだ。俺はその時からこの仕事に心を奪われているらしい。

「あの時想像していた大人に、俺はなれているかな」

 物静かで、どこか冷めていて、それでいて格好よくシェイカーを振ってスマートに仕事をこなして、綺麗な嫁さんをもらって子供もいて・・・

「人生は甘くないね」

 ケーキのように甘くはない。きっと俺の人生はカクテルのように、時には苦く、時には甘く、時には喉を焼くように熱く、時には包み込むように優しく。俺の心を酔わしていくんだろう。

「なんてね。どこのポエマーだっての」

 そんなことが簡単に浮かんでくるくらい、俺はこの仕事が、今の生活が楽しくて大切なんだと思う。

 一分、一時間、一日。一週間はとても速くて、一ヶ月はとても短い。一年なんてあっという間だ。カレンダーだって十二枚しかないんだから。

「一日一日を大切に生きなきゃ」

 なんて使い古された言葉が口を吐く。あんまり自然と出るもんだから自分でも笑ってしまう。

「さ、明日も仕事だ。帰って寝よ」

 終電はもうない。隣に人もいない。帰っても寝る時間は少ない。それでも明日はやってて来る。俺の新しい一日を連れて。

「お疲れ」

――パチン。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る