Mystic Sky
カゲトモ
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深い息が静かな空間に響いた。ジャズを止めた店内はビックリするほど静かになる。そらそうだ、今はもう深夜の三時だもの。
斉藤君の言っていた通り、今夜の空は雨を降らさなかった。さっき外へ見送りに行った時、空には雨のように星が輝いていた。
おまけに街灯もポツンポツンとしか点いていなくて、他の店の明かりもないしとても暗くて静かだった。
両手をタオルで拭いてフロアに出る。誰も居ない店内はどことなく広く感じる。
整然と並ぶスツールと足の長いテーブル。磨かれた床に、ライトの下で輝く生花。振り返るとお気に入りのバックバーにグラスたち。少しずつ味の出るカウンター。マスターの店を真似て選んだ扉と一目見て決めたベル。
「ふっ」
胸の中が温かくなった。
いつも傍にあったはずなのに、どうしてかとても特別で大切なものに思えてくる。
斉藤君と飲み過ぎたのか? 俺はもっとドライだと自分では思っていたけれど、こんな些細なことで胸が一杯になるような奴だったっけ。それとも単に歳を取って涙腺が緩んだのか。
そんなのどっちだっていいか。
「成長ねぇ」
近くにあったスツールに腰かけて天井を見上げた。この照明は最後までどっちにするか悩んで選んだものだ。レトロな中に現代っぽさを取り入れて、気軽に一杯を楽しんでもらえるような店にしたいと意気込んでいたあの頃。選んだあと、本当にこれでよかったのかよく悩んだものだ。
バックバーがごちゃついていないかとか、カウンターは高すぎやしなかったかとか、トイレはこれでよかったのかとか、壁紙は、インテリアは、なんて。客の来ない時にはこの立地で良かったのかとか、選んだ全てが間違っていたんじゃないかと悩んでいた。
けれど、それって過ごすうちにどうでもよくなっていくんだな。
「これも成長か」
今では選んだ全てがこれで良かったと思う。と言うよりはこれが俺の店なのだって感じ。だから、この照明も、レトロさを追求して良かったって思う。
「さすが値段だけのことはある」
だってこの照明の為に一ヶ月超節約生活したんだもの。
「懐かしいな」
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