おじタン、ほぼムス。

流々(るる)

プロローグ

 スカイツリーを背にして、川沿いの道を自転車で駆ける。

 この季節、空は澄んで気分も爽やか、朝の冷たい空気は眠気覚ましにもってこいだ。


 おっ、あの後ろ姿は朋華ともかだな。

 スピードを緩めて、歩いている彼女の横へ自転車を寄せる。

「おはよう」

「あ、おはよう。仕事?」

「うん、これから事務所に。朋華は土曜日で学校休みでしょ。ひょっとしてデート?」

 うごぉっ!

 無言のままこちらを向いた彼女の右拳が、俺の左脇腹にめり込む。

「んなわきゃ、ないでしょ! バイト始めたの」

「もぉ、いきなり腹パンは止めろよぉ」

 と言ったところで、朋華は謝る気などさらさらなく、なぜか勝ち誇ったようにニヤリとしている。

 まったくしょうがねぇなぁ。ま、こっちも端から怒る気なんてないのがバレバレだからな。

「帰りに事務所へ寄っていい?」

「いいよ。じゃ、気をつけていってらっしゃい」

 笑顔で手を振る彼女を見送り、再び自転車を走らせた。


          *


 親が遺した事務所ビルの一階に、管理人を兼ねた「水城探偵事務所」を開設して早七年。

 初仕事の依頼主は顔見知りの町会長ジジイで、近くの小学校へ行く登校班の付き添いをしろ、とのお達し。何かと物騒な世の中、上背があって強面こわもて、しかも時間に融通の利く俺は用心棒に持って来いと思われたらしい。


 初めての付き添いの日に、最初に話しかけてくれたのが朋華だった。

 ネザーランドドうさぎワーフの蘭と一緒に暮らしている俺と、お母さんと二人で暮らしている朋華とはなぜか気が合い、運動会に誘われたり、夏祭りへ連れて行ったり、ボーリングをして遊んだり、事務所へ立ち寄るように。

 そんな事情を知らない人たちから親子だと間違われると、二人して否定しながら一々説明していたけれど、いつしかそれも面倒くせぇなぁとやり過ごすようになった。

 

 そんなこんなで今では高校一年生になった彼女も、相変わらず仲良くしてくれている。

 コミュニケーションというか、ボディランゲージに少し難があるけどね。


 そんな彼女が持ち込んだ今回の話。

 さて、どんな謎なのか、まずは聞いてみるとするか。

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