3-20

 さらに通路を進み階段のあるほうへとハリーは歩んでいく。ところが、通路が三叉路に別れていた。案内板はあるものの文字が掠れているために読めない。

「リン、この案内板をキューブデバイスで識別できないか?」

 リンを呼び寄せた。彼女は案内板をみると手で触り、文字があるかどうかを探っている。

「うん、でも時間がかかるかも」

 懐から黒い多面体の箱らしきものを取り出した。

「これがっていうのか?」

 眼を輝かせサムが箱をながめていた。

 箱が展開されミクロドローンが案内板へと向かっていく。通路の奥の方から地鳴りと雄たけびが聴こえてきた。

「ハリー」

「分かってるさ。案内板の識別が完了するまで俺がなんとか引きつけておく」

「あなたひとりで大丈夫なのか?」

「お前はミクロドローンにつきっきりでいなきゃいけないんだろ」

 戸惑いを隠せずサムがおどおどしはじめる。

「お、おい」

「サム、トグルたちを食い止めるぞ!」

「じょ、冗談だろっ!」

「お前だって生き延びたいだろがっ! いくぞ」

 歯を食いしばり威勢のいい声をハリーは叫んだ。

 


 雄たけびとともに三体のトグルがあらわれた。一体はガンマシェルターでハリーに矢を放ったトグルであった。後ろには控えるように二体のトグルが、手作りで作られたとみられる斧を握りしめている。手前にいたトグルが指示するようにハリーに向かってきた。

「おい、くるぞ! 迫ってくるぞ!」

「お前は動き回ってろ!」

 すばやくトグルの攻撃を避けると間合いをあけた。ハリーは、両脚にねらいをさだめ転ばせようと考えた。スライディングで脚をとらえ急所をつかんだ。だが、転ぶどころかトグルは直立したままびくとも動こうとしない。

 サムの動きはすばやく狭い空間を巧みに利用し、トグルの掴み攻撃をかわしている。動きに無駄がなく計算高くトグルを翻弄しているようであった。二体を相手にギリギリで引きつけ、うまい具合に気絶させた。

 ハリーはリーダーともいえるトグルにパンチやキックを繰り返す。だが、確実に効いている様子はなく、薄笑いを浮かべ余裕である。訳の分からない吃音きつおんの言葉を気絶した仲間にしゃべっているようであった。

「……?」

 なおもトグルはハリーを掴もうと襲ってくる。


 ハリーは焦っていた。リーダーのトグルに体術が全く効いておらず、跳ね返ってくる。以前に戦った時には感じなかったことであった。サバイバルナイフで攻撃するもトグルの体に傷ひとつつかななかった。

「どういうことだ!」

「ハリー、おまえ何やってるんだ! はやくそいつを気絶させろ!」

「できるものなら、やってるさ!」

 サムがハリーに向かっているトグルに瓦礫の石をぶつける。だが、トグルの前にできた何かの膜で弾き飛ばされ石が跳ね返った。

「な……、まさか?」

 逃げ延びながらハリーは腰から銃を取り出すと弾倉をこめた。リンの作業が終了したのかミクロドローンがキューブデバイスへと帰ってくる。

「リン、まだか?」

 トグルに照準をあわせた。

「おい、ハリー。いったい何するつもりだ!」

「頭を打つ!」

 トリガーに手をかけた。

「やめろっ!」

 叫んだのは意外にもサムであった。

「そいつはなにかの実験材料にされている。中途半端な銃の弾丸なんて撃っても無駄だ!」

「やってみなけりゃ、わからないさ」

 ハリーは銃のトリガーを引いた。だが、弾が出るどころか何の音もしない。

「……? どうなってるんだ、この銃は?」

 トグルがハリーに掴みかかろうと間隔を詰めてくる

「諦メロ、オレノ血肉トナレ!」

 トグルの腕がハリーの首元を掴もうとものすごい勢いで襲い掛かってくる。彼は一瞬ひるんでしまい身動きが取れずにいた。

「ハリー!」

 不気味にわらうトグルの顔に異様な自信がみえた。


(なんだ、こいつの自信は?)


 刹那、後ろからオレンジ色のレーザー光線がトグルの脳天に直撃する。そのまま地面へと沈み込んだ。リンであった。手には改良した銃を握りしめている。

「リン!」

「危なかったな! あいつには特殊な膜が覆われていたみたいだ!」

「特殊な膜だって? どおりで、攻撃しても感触が伝わらなかったわけだ」

「ああ、ボクは前にも一度だけ見たことがあったんだ!」

「助かったよ。ありがとう」

 近くから興味深そうにサムがリンの行動をみていた。

「……」

 脳天を貫かれたトグルは起き上がることはなかった。

「サム! もう大丈夫だ!」

 リンがミクロドローンから集めた看板の解読が終了した。三叉路さんさろの左端を指さす。



「左側が地上に通じる通路みたい。だいぶ遅れをとったから早いところこのシェルターから脱出しないと」

「ああ、行こう」

 ハリーの掛け声でサムを呼び寄せた。

 通路を五十メートルほど進むと上に向かって伸びる階段があらわれる。三人は安どの表情をうかべた。アームデバイスからの無線通信が通るようになる。

『ハリー、ハリー、応答せよ。応答せよ』

 ハリーはデバイスの無線スイッチを【オン】にする。

「こちら、ハリー。応答してください。ロウさん」

 しばらくの間があり雑音の混ざる中、男の声が聴こえてくる。

『ハリー、ハリーか? 今ρローシェルターに雪上車を向かわせている』

「了解。地上に出る階段に差し掛かった」

『わかった。天候が急に荒れだした。気をつけて待っていろ!』

「了解」

 無線通信を【オフ】に切り替える。

「リン、サム、俺たちを迎えに来る雪上車が来るらしい! 地上近くまで登ったら外に出ず待っていよう」

 ハリーたちは無事地上近くまで上がってきた。外は、強風が吹き荒れ雪が降り続いている。遠くに黒く小さい物体が近づいてくることが確認できる。雪上車であった。ハリーたちはケミカルライトと懐中電灯を振って雪上車を待った。あたりが夕闇を迎えようとしていた。


                 21へつづく

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