バトル開始――瞬殺だけは勘弁してください
「何をするって?寝ぼけてるのか、マモ。戦姫が2柱、向かい合ってすることは1つだろう……戦いだよ」
照彦が手に持つスマホの画面を護に向けた。
そこには、戦闘のボタンが現れ、輝いている。
護もハッとして、自分のスマホの画面を確認する。
こちらにも、戦闘のボタンが、同様の光を発している。
「では、戦闘開始だ」
照彦が、戦闘のボタンを押した。
その途端に、彼の傍らに立つヒミコ(アマテラス)の体を白く輝くオーラが覆った。
彼女が首にかけていた首飾りをふっと宙に投げると、首飾りを成していた無数の勾玉が分離し、彼女の周りを保護するかのように滞空しはじめた。
左手には、いつの間にか、丸い盾のようなものを携えている。
その表面は、済んだ水面のように周りの光景を映していて、今は、彼女の敵である、ミナと護の姿がそこに映っているようだ。
「どうした、ボタンを押さないのか?」
「だってこれを押したら、お前と戦うことになるんだろう……」
「お前、わかっていないな。戦わないということは一方的にやられるっていうことなんだだぞ……ヒミコ、
照彦がそう言うと、ヒミコの周りに浮かんでいる勾玉が一斉にミナの方に向かって飛んで行った。
ミナは、先ほどからのファイティングポーズは崩していなかったが、逆にそれを崩せないためなのか、雨あられと降り注ぐ勾玉の攻撃を無抵抗にそのまま全身に受け……そして、その場に倒れた。
護は、一瞬呆然としていたが、ハッと気づくとミナにかけより、その小さくか細い体を抱き起こす。
「ミナ、ミナっ!なんてことするんだよ、テル!」
護は、この時初めて、憎しみを込めた視線で、照彦を睨んだ。
こんなことは、当然だがこれまでの学生生活でもなかった。
「マモル……どうして?」
「えっ?」
手元でした声にふり向く。
護の手の中の女神は、血だらけのその顔で彼に弱々しい声で訴えてきた。
「マモル……オレは、アイツと戦いたい」
「仕掛けておいてなんだが、その戦姫の言うとおりだな、マモ。戦わない戦姫は戦姫じゃない」
「テル……お前……。ミナ、いけるのか?」
「い、いけるゾッ」
ミナは、やや震えながらもゆっくりと起き上がり、再びファイティングポーズをとった。
「ここまでされちゃ、親友といえども……もう許せん」
護は、戦闘のボタンを押した。
すると、青く輝くオーラがミナを包んだ。
両手、胴、両脚を保護する装甲がより強固なものとなり、背丈も少し伸びた気がする。
ここまでは先ほどのヒミコの時とあまり変わらないため、護は冷静であったが、次の瞬間、照彦の横の空間に突如として戦姫のステータスがはっきりとわかるように表示されたことには驚かざるを得なかった。
**********
ヒミコ(アマテラス)
★★★★★★
LV: 100
HP:21000
MP:26000
攻撃:18000
防御:23000
神攻:26000
神防:28000
素早:15000
**********
「なんだよ、元★5だから、どんなにステータス差があるか心配してたけど、これならミナもそんなに悪くないじゃんか」
昨日確認したステータスを思い出すと、紙装甲は、タケミナカタのウリであるから、いつもどおり仕方ないとして、ミナの攻撃、素早は完全にヒミコを上回っており、HP、MP、神防は同程度、同程度のはずであるが……。
「何!?なんでだよっ」
ヒミコのステータスを確認した後、自分の横にもミナのステータスが表示されているのに気づき、念のため見た際に、護は絶句した。
**********
ミナ(タケミナカタ+108)
★★★★★★
LV: 100
HP: 500
MP:25000
攻撃:32000
防御: 500
神攻: 5000
神防:25000
素早:23000
**********
間違い探しのようではあるが、おわかりだろう。
少ないところに注目してみてくれ。
えっ?なんだこの防御と神攻?
ちがうちがうそこじゃない。
HPが18000あったはずが、今や500となっているだろ。
「ようやくその気になったかと思えば、まだそんなものか……さっき、既に俺のヒミコの攻撃をくらったのをもう忘れたのか?」
護は、そうか、と得心した。
そして気がつく。
「さっきの一撃で17500も削られたってのか……」
「俺のヒミコの攻は★6にしては控えめだが、それでも2万近い。それに対し、お前のタケミナカタの防御は1000に満たない」
「ヒミコの攻撃18000-ミナの防御500で、17500のダメージか……ということは」
「そうだな、あと俺のヒミコの一撃で、お前は負ける」
何度計算し直しても結果は変わるまい、小学生レベルの算数なのだから。
「なんだよ、これじゃあ、どうしようもないじゃんか」
頭を抱えて、その場にうずくまる護。
ミナの攻撃力が恐ろしく高い3万超えとはいっても、ヒミコの防御も2万を超えている。
ヒミコのHPは2万超え。
素早有利で、次のターン先制できたとしても、与えられるダメージはおそらく1万程度。
それで削りきることはできないのだから、どうしようもない。
通常、攻撃がダメなら、神力攻撃だが、ミナの神攻は低く、ヒミコの高い神防の前に、MPの方はノーダメ確実だろう。
絶望。
その黒い闇が護の心を覆い始めたときに、どこかから女性の声が聞こえた。
「おいおい、マモル。せっかく俺が戦えるっていうのに、諦めるのが早くないか?」
顔を上げる、間違いない、ミナだ。
「ミナ?」
「そうだよ俺だよ。ったく情けない。これからたくさん血ぃみられる、血ぃ吸えるってはしゃいできたのによ。どうしてくれるんだよ?」
「ミナ……さん?」
「だから何度いわせるんだ?ミナだっつーてるだろうが!とろとろしてっと、お前から血祭りにすっぞ」
護が戸惑うのも無理はない。
俺のミナはこんな物騒なことを言う子じゃなかった……。
うん、完全に性格が変わっている。
そういえば、彼女の身長は護たちのクラスメートの女子と同じかそれ以上と思われるまで伸び、胸の大きさも目立つ程度に大きくなっているのに加え、丸みを帯びていた幼い体のラインが、なんというのだろう、大人っぽいものに変わっている。
護は、この時点でようやくそのことに気がついた。
「あーもうイライラするな。俺のスキル、忘れてるのか?お前は」
「スキル……そうか!」
大事なことを忘れていたとばかりに、急いで護はスマホの下部を改めて確認した。
戦姫といえばスキル、スキルといえば戦姫。
この物語の冒頭でも説明したが、いわゆるスマホRPGによくある戦闘中に通常攻撃などの代わりに使える必殺技のことである。
不利を有利に変え、戦いを逆転に導く、秘技。
戦姫によって攻撃系、弱体系、強化系、回復系と種類は様々であるが、タケミナカタのそれは――。
「あったあった、よし、ミナ、これでいくぞ」
「おっし、いっちょ、ぶちかますぜ!!」
「あの……も少し可愛い感じになりませんかね?」
「あーん。何いってんだ、お前は?」
「いえ……何でもないっす」
じろりと睨まれて、蛇の前の蛙となった彼はもうそれ以上何も言えなくなった。
「そろそろいいか?こっちは待ってるんだがな?」
しびれを切らしたのか、照彦が急かしてくる。
どうやらどちらも戦闘に入ると、行動を決めるまでは動きがないようだな、これは。
「よし、ミナ、
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