★6ゲッツした――あんなの飾りです。エロい人にはそれがわからんのです
「なるほど、ここで切り替えるのか……」
苦節2時間、ようやく護は答えにたどりついた。
答えって何かって?
書いてあるだろ。
『切り替え』だよ、『切り替え』。
えっ?
「何の切り替えだ?」って?
ゲームのモードだよ、モード。
ああ、そうか。ゲームのモードについて説明してなかったな。
この小説、説明ばっかじゃん、って思われると嫌なんで省略してみたが、これは説明必須だったか……。
ミナが現実に現れたのは、もういいよな。
流石に妹にあれだけ言われたんで、忘れてた我を取り戻しちまったから、護は、アレ以上のことは今日はもうする気にならなくてな。
妹のいないやつは、エロ動画を今まさに再生しようとしたらオカンがノックもせずに部屋に入ってきた直後を想像しろ……な、わかるだろ?
まあ、元々ヘタレなんだから許してやってくれ。
事を起こす前に賢者モードになったってことだな。
さっきの一瞬が護にとっては精一杯のバーサーカーモードだったんだよ……本当に惜しかったな護、涙拭けよ、って、コイツ的にはもういいのか。
それからは、とりあえずミナを部屋の片隅に座らせておくと、スマホを手にして、いろいろ調べたわけだ。
「何かいつもと違うと思ったら、メイン画面の神人戦姫のロゴの上に、SSRって金色の文字で書いてあるな……そうか、エスエスランカー、か?」
Rは英語
エスエスランカーで、SSR。
彼も、一応初歩的な英語くらいはできるのである。
「画面のボタン配置は変わらないみたいだけど、ライフとクリスタルの数が変わってるな……」
神人戦姫での『ライフ』とは、ストーリーやイベントストーリーを進めるために消費されるポイントにあたる。
他のゲームと同様に、時間経過で回復するようになっている。
もちろん、課金パワーで充填もできるが、アラブの大富豪でも無い限りそんなことはしないだろう。
また、ユーザ自身のレベルにあたる、神人レベルのレベルアップでも回復する。
これについては、レベルのあがりやすい最初のうちはガンガン回復できるのだが、神人レベルが上になるに従い、次のレベルまでの必要経験値の量が増えてゆくため、本当にオマケ程度の存在となる。
もっとも、ストーリーを少しでも早く進めるために、レベルアップ一歩手前まで稼いでおいて、そこで止めておき、メンテ後の新ストーリー解放時に即充填という、セコい無課金ユーザもいるがな。
護、テメーのことだ。
えっ?そんなの普通だろ、って……?
そうか普通なのか……悪かったよ、炎上だけはよしてくれ。
ええっと、それでだ……次はクリスタルか。
『クリスタル』は、ストーリーやイベントの報酬などでもらえるもので、10個ためると、ガチャチケと交換することができる。
ガチャチケを手に入れる一つの手段ってことだな。
無課金なやつらには……おっと、炎上を避けるため、以上。
「ライフが10、クリスタルが1か……ちょっと待て、昨日までに稼いだクリスタルはどこいったんだよ?」
今回も必死である。
何たって、クリスタルは、無課金ユーザの護にとって、ガチャチケを得るための貴重な手段だからな。
しかも、昨日まで8あったはずだから、そりゃもうね。
だが、スマホを振ってもかざしても、ミナに救いを求める視線を送って困った顔をさせても、数字が変わるわけはない。
護は、あきらめて、とりあえず他のボタンについても調べてみることにした。
ライフのほうはどうでもいいんだな、護よ……1/10以下になってるっていうのに。
「『ストーリー』、『イベント』、『修行』のボタンは押せないのか……それじゃあ『アルバム』だな」
ボタンはあっても、文字色も背景色も薄くなっており、押しても反応しないものがほとんどだった。
護は唯一文字色がいつもどおりの『アルバム』ボタンを押した。
「うおう、なんじゃこりゃ……」
そこに表示されたのは、見慣れた、いつもの、ミナ(タケミナカタ+108)の画像だった。
だったんだが、しかし!
その横に表示されたレベルとステータスの数字が昨日までとは段違いだったのだ。
**********
ミナ(タケミナカタ+108)
★★★★★★
LV: 100
HP:18000
MP:25000
攻撃:32000
防御: 500
神攻: 5000
神防:25000
素早:23000
**********
全てのステータスが元カードの倍以上になっている。
「LV:100?おかしいな★3の上限って70のはずなのに……そうか★6だからか!?」
念のため補足すると、各カードにはそのキャラのレベル上限という概念があり、★3の場合はLV70、★4はLV80、★5はLV99となっている。
★1、★2については……推して知るべし。
ガチャでゲットした最初はどのカードもレベル1で、そこから育てていく。
レベルが上がるにつれ、ステータスも上昇していく。
だが、どんなに頑張って経験値を稼いでも、このレベル上限以上には成長しない。頭打ちってやつだな。
必然的に、★5レアと他レアにはステータスに圧倒的な差ができる。
え?何かどっかでみたことあるって?
気のせいだよ。
神人戦姫は売れまくりだからな。同じ仕様なら、そっちがパクってるんだよ。
「あっはは、俺の考えた最強の戦姫ってかんじだな、ミナ。しかし……、『ストーリー』も『イベント』も『修行』もできないとなると……まあ、そうだよな、★6は記念品的なもんなのかな」
いくらステータスが最強でも、戦えない戦姫は飾りに過ぎない。
いや、普通の♂なら「飾りでもいいじゃん!」と思えなくもない状況なんだけどな。
今一度覚醒せよ、護!
読者は待っているぞ。
「大人しく、ミナといいことをしておけと、そういうことなのか……?」
今一度、ミナの方をふり向く護。
ミナはにっこりとして、こっちに手を振ってくる。
無邪気なその表情は、あらためて見てもとても可愛い。
「……まてよ、そういえばこれまだ押してなかったな」
残念なことに何か思いついたらしい。
「ヘルプ、ヘルプ。何忘れてるんだよな、俺。最初に見るとこだろ」
ヘルプのボタンを叩く。
するとそこには、いつもの、戦姫だのストーリーだの戦闘だのといった見慣れた説明は全て消えており、代わりにただ1行だけがあった。
「『エスエスモードについて』だって?」
他に選択肢が無いため、このヘルプを見るしかない。
開くとこう書いてあった。
**********
SSー01 エスエスモードについて
エスエスモードは、★6を手にいれた選ばれし者のみが、命を賭けてプレイするモードです。
一度参加したら勝者が出るまで戦いを止めることはできません。
なお、今までのモードで遊びたいときは、メイン画面のロゴから表示切り替えしてください。
エスエスモードに戻るときも、同様にロゴをタップすることで可能です。お忘れ無く。
**********
「なんだか不穏な文章だな」
護は最初の2段落を読んでそう思わざるを得なかった。
こういうデスゲーム的バトルロイヤルで出てきそうな文言、今まで他のゲームでも無くはなかったが、それはそういう類のテーマのゲームであるから許されるのであって、神人戦姫のようなキャラゲー、いわゆる嫁ゲーにはそぐわない。
こう脳内で変換しろということか?
『命』 → 『欲望の限界』
『勝者が出るまで』 → 『昇天するまで』
……高度すぎる比喩だよな。
それに明らかに林檎のレギュレーションに(ry
「大体『戦いを止めることはできません』っていわれても、そもそも戦えないじゃないかよ」
まともなやつだな護。でも、普通はそう考えるだろう。
「それともまだ実装されてないっていうのか……まあいいか、それならそれで。これでいつものゲームに戻れそうだしな」
メイン画面に戻り、ヘルプの言うとおりに、ロゴのSSRの当たりを押してみる。
「父上、兄上、オレはアイツらと戦うよ、たとえ最後のひとりになっても……」
その声にふり向くと、ミナの姿は、もうその向こうが透けて見えるほどに、薄くなっていた。そして、瞬く間に消えた。
「……」
「見てよこの紙装甲、神だけになっ」
スマホの画面にいつもの光景が戻っていた。
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