天を待つ

千堂 澄直

プロローグ

 スマホの通知が止まらない。

 そりゃそうだ。ありとあらゆるSNSに、お知らせを載せたのだから。

「明日入籍します!」

「入籍」とは、アラサー女子にとって、原子爆弾にも等しいメッセージである。しかも、相手のことをほとんどの友人は知らない。私が3年「も」同じ相手と交際していることすら知らない人も多いだろう。更に、結婚式は身内と本当に親しい人しか招待しないつもりである。

 酔った勢いで投下してしまったタイムラインがいい具合に燃えているのを、理佳りかは酒の肴にしていた。

「理佳、スマホ鳴りまくってるけど」

「ほっといて。それ、フェイスブックとかのせい」

 正隆まさたかは家賃6万円の自分の城に大満足のようで、パンツ一枚で新品のソファーに寝転がっている。明日からは絶対こんな夫の姿、認めない。

 正隆と理佳は社内恋愛であるが、理佳が3年おきに全国転勤の部署にいるのに対し、正隆は1度転勤の機会があるかないかの部署にいる。理佳は運良く新婚生活3年チケットを手に入れ、正隆の家を自分仕様に仕立て上げたのだ。理佳としてはもう少し広い部屋が良いのだが、自分がそのうち単身赴任になる事を考えると、強く言えなかった。

 正隆はそのまま眠ってしまったようで、規則正しく身体が伸び縮みしている。理佳はソファーの背もたれに掛けていたタオルケットをかけた。

 理佳はついでに冷蔵庫から茶をとり、一息ついた。


 -長かった。この生活に至るまでが、超絶ハイパー長かった!

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