第1章 5話 『悲しき現実』
1
「私をこれから
意味が分からない。
どういうことだ。
「私はもう少しで
ついに彼女の顔は泣き
「
「それは無理よ」
後ろで黙っていたココロが
「まさか、生きた人間を『ヌル』にする
「どういうことだ‼」
「
「白い女の人に出会ったわ。その時に何かされたかも」
「そいつが
「例え倒せても、止める手段が無いわ。それを止めるのことの出来る
「つまりもう
そんなの嫌だ。
「そうだ、コウ君。これをあげるわ。私の使っていた『
灯さんが
これは灯さんのお守りだった。
そして俺を助けてくれた灯さんにとって大切なものだ。
「お願い受け取って! あなたにしか
俺は
「そんなもうすぐ死んでしまうみたいな言葉を出さないでください!」
「もう駄目なの。私には分かる。
「コウ、こっちに来て!」
ココロが手招きする。
「しっかりしなさい!」
またビンタが飛んで来た。
でもこれは怒りのビンタでは無く
「あなたが出来ないなら私がやるわ。どうするの?」
「…………」
何も答えられない。
俺の中にあるのは
「
俺は覚悟を決めらないまま灯さんの方に向かった。
「これを乗り越えないと、何も出来ないわよ。まぁ
その厳しくも優しい言葉が聞こえてきた。
何か
ただの灯さんの
俺はそんなことばかり考えていた。
2
俺は灯さんといつも通りの
また笑顔を見せてくれた。
「そういえば、大男とまた別の敵を
「まぁ
いつもと違うのはこれが最後ということだけだ。
「ねぇコウ君、私はあなたに出会えて楽しかったわ」
「俺もですよ。あなたに出会えて俺の考え方は変わりましたよ。外の世界に少しは希望を持つことが出来ました」
そうだ俺の考え方が変わったのはのはこの人のおかげだ。
この人が『ヌル』
何でこんな人がそういう目に合わなければならいんだ。
そんなのは俺の
この人は、この世界に
それに
世界の何の役にも立たない。
「また辛い顔をしているよ。しっかりしてよ! 君は世界を守るヒーローになるんだから。」
「ヒーロー……?」
「そうだよ。君は悪い奴らと戦うヒーローになるの。だから
「そんなことはやりたくない」
なんで
「じゃやこう考えて、君はこの
悪いのはこの世界だということか。
「過去に世界を相手に戦った人間がいたの。その人はこう言っていたわ。『これから生まれてくる子供たちが安心して暮らせる世界を作りたい』ってね」
でも結果はこの有り様だ。
俺たちは
「コウ君、これからの未来のために戦って。それが私の最後のお願い。最後にあなたと出会えて良かった。あなたと話せて良かった。そしてあなたを助け出せて良かった」
彼女は黒いモヤに包まれつつある。
「灯さん‼」
俺は手を伸ばす。
彼女はその手を振り払う。
「大丈夫。君ならやれる。後は任せたわよ……」
その一言を言い終えると彼女は黒い
俺ならやれる。
彼女の言葉を信じよう!
――「
今日で三回目の
でも気にしていられるか。
これは俺の
誰にも手出しはさせない。
自分でやらなきゃ駄目なんだ。
『ヌル』とへ変えた灯さんを
必ず終わらせて見せる。
3
灯って人は『ヌル』へと姿を変えた。
だが、いつも戦っている『ヌル』とは様子が違う。
生きている者が『ヌル』へと直接変化するのは初めてみる。
そしていつも暴れているだけの『ヌル』が冷静に見える。
これはただの
いつもとは違うそんな気がする。
でもこの戦いは彼に任せよう。
すると『ヌル』は彼に急速に接近し
彼は思いっ切り吹き飛ばされる。
何とか受け身をとる。
そして攻撃に
間違いない。
あの『ヌル』には持ち主の
助けに行こうかと迷ったが、自身の
これは彼の戦いだ。
この程度の
私はそんな彼を信じよう。
でもアドバイスぐらいはしてやってもいいかな。
「とにかくぶつかってきなさい!」
新入りに喝をいれる。
これが
4
灯さんは『ヌル』になっても強いな。
さっきの攻撃はまるで彼女そのものだった。
攻撃を
どっちにしろ、あの攻撃を
だったらこっちから攻撃を
この距離なら、出来るかも。
一気に踏み出し、『ヌル』へと近づく。
しっかりと助走をつけ、
何度か灯さんに見せつけらた
今の一撃は
しかし、その攻撃は受け止められた。
やっぱり強いなぁ……
だが対策はしている。
もう
それは
距離なんて取る必要は無い。
あとは
お互いに近づき、激しい殴り合いが始まる。
軽い痛みなど気にしない。
回避できるものは、
実力差のある相手に距離をとっても追い込まれるだけだ。
ならばリスクを覚悟しそれに立ち向かう。
どっちが倒れるか勝負だ。
攻め続けろ。
激しいインファイトの
だからといってそれで負けたわけでは無い。
すぐさま
『ヌル』はその
右の拳を受け流し、体勢を崩してそのまま投げ飛ばす。
まだだ、そのまま追いかけ飛び
追い打ちは成功しさらに『ヌル』は
次で終わらせる。
だが俺の体は動かない。
次の
いつの間にか、俺の頭は『ヌル』を灯さんだと
違うあれは『ヌル』だ。
だがそれを考えているうちに、体は固まりだす。
「何をやっているの⁉ 早く止めをさしなさい。チャンスは今よ!」
分かっているでも体が
「あなたが彼女のことを大切に思っているなら楽にしてあげなさい! それがその人に対してできる優しさよ」
その通りだ。
俺が何もしない間、彼女は苦しみ続けている。
早く終わらせてあげたい
どうして何もできない。
理由が分かった。
俺は生きている者を殺したことが無い。
だから怖くなったのだ。
命を奪うことに対して。
そして思い出される灯さんと過ごした記憶。
彼女の声や笑顔。
彼女は俺のために戦ってくれた。
そんな恩人を殺せるわけがないじゃないか‼
そして考えているうちに『鎧』が
時間切れだ。
もうここから逃げ出したい。
さっきの勢いはどこに消えた?
『本当にお前ははどうしようもないな』
俺の『鎧』アブソブが
『なぜ終わらせなかった?』
『彼女を殺したくないからだ』
『あれは『ヌル』だ。忘れたのか?』
分かっている。
だけどあれは灯さんでもある。
『俺はどうでもいいが、あれはそのままにしておけば他の誰かを傷つけるぞ。それでもいいのか?』
俺はそのことに気付かされた。
これ以上、彼女をそのままにしておけはいけない。
「でも俺にはもう力が残っていない、どうすれば……」
拳を強く握りしめる。
『もう忘れたのか? お前はあの女から何をもらった?』
俺はお守りをもらった。
俺と灯さんを助けてくれたお守りだ。
そう、『仮想鎧』だ。
黒い腕を手にし、右腕にはめる。
これがあれば終わらせることができる。
苦しみをここで
今度は俺に力を貸してくれ。
――『
5
光が身を包み、傷だけの黒い『鎧』が姿を現す。
「ようやくやる気になってくれたわね」
そして『ヌル』と化した灯さんに目を向ける。
どうやら立ち上がり、また戦うつもりのようだ。
『
頭の中で音声が流れる。
自身の状態が分かりやすい。
「さぁ、行くぞぁぉぉ‼」
気合を入れるために声を張り上げる。
同調したかのように『ヌル』も
そしてほぼ同時に走り出す。
距離が近づくと、互いに拳を繰り出す。
拳と拳がすれ違い、それが互いの
なんとか俺の方がそれに打ち勝つ。
ただし、ノーダメージとはいかなかった。
決して少なくないダメ―ジが残った。
『ヌル』はすぐに体勢を整え、拳を
だがそれを無視し、こちらも拳を腹部に叩き込む。
互いに痛み分けという結果になる。
だがそんな痛みは
殴り続けろ。
再びさっきよりも激しいインファイトが始まった。
結局はこれが正解だ。
経験の
アドレナリンを出し続け、相手を
そして
『同調率60%に上昇。
「実行」
これを待っていた。
これなら確実に終わらせることが出来る。
予定通り放熱モードに移行する。
『放熱モードに移行しました。稼働時間は1分です』
『鎧』の
灯さんである『ヌル』はこれを知っている。
だから警戒モードに入ったのが分かった。
このまま打ち込めば外れる。
だったら確実に打ち込める体勢を作る。
その
俺はただ立ち続けた。
時間が迫っているにも関わらず。
そしてついに
それをあえて受ける。
ノーガードで受ける。
心臓が止まりそうになった。
痛みというよりも命の
でも歯を食いしばれ、ここで倒れるな。
俺にはカウンターなんて
だったら攻撃を受けて、隙を作るしかない。
「今だぁぁぁ‼」
熱のこもった拳を叩き込む。
それが『ヌル』の体を貫いた。
「これで終わりです。灯さん……」
ようやく
これで良かったのだ。
俺がやらなければココロがやってくれたのかな?
でもそんなことはどうでもいい。
俺はちゃんと
そして『仮想鎧』を解除する。
これは大切に使わせてもらいます。
6
そして黒いモヤが消えていった。
だが、灯りさんの体がそこにあった。
俺はすぐさま
とても冷たい。
人間の体温では無い。
以前の
「ココロ! 手を貸してくれ!」
俺は助けを求める。
「どういうこと? なんで
ココロが駆け寄り心臓の音を確認する。
だが首を横に振る。
「大丈夫、その者は生きていますよ」
俺たちは警戒する。
戦うのは無理だが、
最後まで
「心配しないで。今の私は戦うつもりはありません」
その女は何もかも真っ白な体であった。
髪も肌もすべてだ。
まったく他の色を感じさせない、虚ろな女。
「あなたは誰?」
「私は世界の
「灯さんを『ヌル』に変えたのはお前か⁉」
俺は怒りをむき出しにする。
それをココロに手で
「そうです。この者は人間に収まる
「そんな勝手なことを」
「勝手ではありません。彼女はこの世界に必要です。でも人間では
「そんな
「私たちにはあります。私たちはこの世界の
なんだよ『全能者』って?
「ではまた会う機会があれば」
そして消え去った。
灯さんも一緒に。
俺たちは何も出来なかった。
残ったのは大きな謎。
そして新たな存在と計画。
そのまま俺たちは
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