第1章 4話 『生への渇望』
1
「さっきは楽しかったぞ‼ 俺を殺すまでもう一歩というとこだった。だが
もう無理だ。
戦う気力は残っていない。
体は動かない。
これ以上、
「こんどはそこの
「コウ君逃げて!」
「でも……」
「早く‼」
良かった逃げてくれて……
「『
『鎧』の状態を維持するには制限時間がある。
つまり奴は今、
私も鎧化できないからお互い
体力や能力的な差はあるが、ここで足止めをする。
壁にもたれかかり、
多分、反動にも耐えられない。
よりによって
多分マシンガンとかいうやつだろ。
さっき念のためと思って敵の死体から拾っておいた銃だ。
倒せないのは知っている。
でもここで何もしない訳にはいかない。
「それには
敵はため息を漏らす。
分かっている。
でも少しでも時間を
「残念だけど、ちょっとだけ付き合ってもらうわよ」
敵は私を無視して、コウ君を追う。
私は迷わず引き金を引く。
敵の体に命中はするが気にも止めていない。
ならば天井だ。
天井の照明を狙う。
マシンガンの反動で体が
だがそれを耐え、照明に命中させる。
そしてその破片が落ちて、敵の体に突き刺さる。
「痛ぇ!」
その一言。
足が止まる。
少しでも足止めできれば十分だ。
「お前! せこいことするなぁ。だが少し面白かったぞ! でももう終わりだあの坊やを追いかけなくては!」
させるか!
敵の近くにあるドアをマシンガンでドアを撃つ。
しかもフルオートでだ。
銃の反動でダメージを
だが気にしていられるか。
ドアは
そんなものを撃ってもびくともしない。
でも、もし命中すればどうなる。
ドアに命中し銃弾は跳ね返り、
そしてそのいくつかが、敵に命中する。
こっちにも飛び散るが気に留めている暇は無い。
「ぐっ……しつこいぞ! 俺を先に行かせろ‼」
こいつの弱点は
素手ではある程度の限界があるが、物であれば細かく形を変えることができる。
さっきの跳弾もドアに跳ね返り、形の変わった銃弾が命中してダメージを与えることが出来た。
まぁでも、マシンガンも玉切れだ。
もう何も出来そうにない。
駄目だ。
意識を失いそうだ。
度重なるダメージで意識が飛びそうだった。
必死に生きてねコウ君。
あとは頼んだわよ。
2
俺はずっと走っている。
でも今すぐにでも彼女のもとに向かいたい。
彼女が心配だ。
殺されてしまうのではないかと考えてしまう。
でもそれでは彼女がしてくれたことは何だったのだ。
彼女の期待に応えること、それは生きて外に出ること。
でもそれは彼女がいないと意味が無い。
俺だけ助かっても意味が無い。
戻ろう。
怖い。
とても怖い。
でも失うのはもっと怖い。
だから俺は灯りさんを助けに行く。
彼女がそうであったように。
俺は戻るために足の向きを変える。
震える足を
ここから先は危険な道のりだ。
でも、これは俺が決めた。
リスクを冒して何かを決めたのはおそらく初めてのことだ。
俺はいつも誰かに生かされ続けていた。
もし、あいつと出会ったらどうしよう?
それは考えない。
今は彼女の救出が最優先だ。
行くぞ!
走り出した足は止まらない。
余計なことを考えずに走る。
一歩、また一歩と走り続ける。
頭の中からもう恐怖は消えていた。
急ごう!
運動をしていないせいか、すぐに息があがる。
それでも早歩きで向かう。
体を思いっきり動かすのは意外と心地が良い。
だが次の瞬間、恐怖は浮かび上がった。
さっきの大男だ。
「見つけたぁ!」
俺の足は止まってしまった。
また恐怖に支配されてしまったのだ。
どうした。
何かしろよ。
俺の体。
何故、動かない。
ただの恐怖によって動かなくなる。
「坊や! 何かないのか⁉ 俺を楽しませろ‼」
敵によって体が持ち上げられる。
そして、そのまま壁にぶつけられ、壁が破壊される。
やっぱり駄目なのか……
俺なんかじゃ……
3
ここは
いや、もう管理されていない。
ここは死体だらけの場所となっていた。
破壊された壁。
銃弾の後。
そして死体と血。
『ヌル』の反応を感知して到着したのだが、もう消えてしまった。
普段ならそれで都合がいいのだが、今、見ている光景はとても無視することが出来ない。
一体ここでは何が起きたのだ。
『ココロ、現場はどうなっている?』
「悲惨な状況ですよ。死体の山が出来上がっています。恐らく死体集めに来た連中がいたみたいです」
『で、死体集めの連中は?』
「みんな気絶している、もしくは殺されていますよ」
これだけの人数をどうやって?
そしてその者はどこにいったのか?
『周辺の捜索を行え、生きている者にとりあえず話を聞け』
「了解」
『あと、注意しておくことがある。周辺に能力保持者が二人いる。気を付けろよ』
淡々と重要なことを伝えてくるオペレーター。
この場所はまだ危険ということね。
周辺にいることは分かっても、正確な場所は分からない。
さっさと技術が進歩してほしいものね。
早く終わらせよう。
アニメに間に合うかな。
まったく深夜に迷惑な話だ。
私一人じゃ大変なんだよね。
早く誰か
まぁ
余計なことを考えていると、大きな音がした。
何かが破壊されるような音。
「音が聞えたのでそこに向かいます」
さて、仕事開始かな。
この時だけは仕事モードに入る。
いつものオタクっぷりを
当然、敵を見つけたら排除する。
それがココロの所属する『
4
壁に叩き付けられた俺は一瞬、気を失っていた。
そして目の前には叩き付けた
「何か出せ‼」
そんなことを言われても何も出ない。
出せるなら出しているさ。
「つまらん……だったら死ね」
大男が腕を振り上げる。
多分、これで俺は死ぬ。
外に出たのは、ほんの一瞬。
ドアの外に出ただけだ。
長いようで短いような人生だった。
そして振り下される。
これが死か。
俺は目をつむり思考を始めた。
灯さんのところに
だがいつになっても死は訪れない。
目を開けるとそこは真っ白な世界だった。
「ここは天国?」
『そんなわけないだろ』
見知らぬ声がした。
『ここは死を認識した者が辿り着く場所。まぁ今は『忌能者』限定だがな』
「俺は死んでないのか?」
『さっきもそういっただろ。同じことを何回も言わせるな。でどうする? 受け入れるか? それとも
こいつは何を言っている?
受け入れる?
抗う?
『理解してないみたいだから説明してやる。受け入れたら死を与えてやる。そのまま安らかにな。抗ったら元の場所に戻し、俺が力を与えてやるよ』
「力ってなんだ?」
『お前たちの世界で言われている通称『鎧』それを与える。それを使ってどうするかはお前次第だ。さてどうする』
もしもやり直せるなら、抗ってみせるよ。
現状を変える力。
そして彼女を助け出して見せる‼
『決まったようだな。だったら抗って見せろ!
さっきの場所に戻される。
腕が振り下ろされる。
やり方は分かっている。
――「
光が包み、体内からあふれ出すものを感じる。
そして、戦うための肉体を作り上げる。
真っ白なカラーリング。
シンプルなデザイン。
その色は変わることを恐れないための
振り下された腕を
これで戦える。
でもどうやって戦う?
あれだけ灯さんが苦戦した相手に……
「やればできるじゃないか! 今、俺は
本当にうるさいなぁ。
――『解放』
大男を光が包む。
そして鉄色の『鎧』が現れた。
今度は目の前にいる。
だが恐れることはない。
心に余裕が生まれた。
俺は戦える。
そう自分に言い聞かせた。
とりあえず、灯さんのようにポーズをとる。
腰を落とし、両腕を構える。
とりあえず目の前に向かって走る。
そして殴る。
だがびくともしない。
そりゃそうだ。
戦うのは初めてだし、殴るのも初めてだ。
へなちょこパンチではどうしようもない。
戦う体は手に入れたが、経験不足の俺にはどうしようもない。
「なんだその攻撃は? がっかりだ!」
俺は弾き飛ばされる。
生身の状態ほど痛くは無い。
だが、弾き飛ばされた時とは違う痛みを感じた。
体が少し熱い。
少し気持ちが悪い。
そして体内に異物が入ってくるような感触がした。
だが我慢できないほどでは無い。
再び立ち上がる。
そして今度は走りこんでキックというものを試してみた。
だが全く効いてない。
そして今度も弾き飛ばされる。
はずだった。
だが体は空中を舞っていない。
その代わりに体内に鋭い痛みを感じた。
相手の能力は大体理解している。
しっかりと灯さんと大男の戦闘は見ていたから。
だが俺は自分の能力を認識していない。
何が起こったのかも分からない。
もしかしたら自分の能力が発動しているのかもしれない。
『おい『アブソブ』!俺の能力を教えろ!』
『俺は知らんぞ。お前に力を与えるだけの存在だ。能力なんてものは自分で知っていて当然だ。力は貸すが、それはお前次第だ。それに俺はお前の中に宿った命みたいなものだ。道案内の最低限の知識は持っているが、お前が知らないことは、俺も知らない。自分で乗り切れ』
とはいってもどうすればいいのか?
このままでは拉致があかない。
攻撃手段が無いし、あっちも戸惑っているようだ。
いや楽しんでいるみたいだ。
「今のは何だ⁉ とても面白かった! こんなのは初めてだ‼ 次は何を見せてくれる?」
さてどうする。
とりあえず武器を探す。
『鎧』には何も武器になるようなものは装備されていない。
つまり素手で戦わなければならない。
でも奴にはへなちょこな攻撃は通じない。
落ちているものを探す。
とりあえず破壊されている壁の残骸を手に持つ。
本来ならば持ち上げるのは困難だが、今ならいける。
野球選手の動きを本で読んだことがある。
そのフォームを真似て全力で投げる。
すると体に命中。
本で読んだ知識は意外と役に立つ。
知識を増やしておいて良かったぁ……
「ほめてやろう。ちゃんと戦えるじゃないか! こっちの残り時間は少ない。だからこっちからも行くぞ!」
大男は突撃を開始してきた。
だが遅い。
簡単に見切ることが出来る。
攻撃が効かないことを見せつけ、相手の動揺を誘い、結局は力任せに戦う。
確かに相手の能力は
だが灯さんのおかげで鎧化の時間を削ってくれたおかげで、こちらにも
俺は時間切れまで粘ればいいのだ。
『なぁ『アブソブ』鎧化を維持できる時間帯はどの程度だ?』
『大体1日に20分から30分ぐらいだ。鎧化は1日に1回程度にしておけ、結構体力を消耗するからな』
だったら大男は5分そこらで切れることになる。
それまで粘り、少ないダメージを与える。
あとは絶対に攻撃を食らわないことだ。
そして落ち着いて対処すればいい。
「ちょっと待ったぁぁぁぁ!」
突然、見覚えの無い女の子が飛び出してきた。
髪は
そして特徴的なのは綺麗な長い足。
さらに見とれるほど美しい顔立ちをしていた。
俺との年齢は近いぐらいだろうか?
「なんだお前! 邪魔をするな!」
先に反応したのは大男の方だった。
「ちょっと黙ってくれるかなぁ⁉」
「邪魔だ!」
大男が女の子に向かって腕を振り回す。
しかし、それを回避する。
ただ回避したわけではない、
俺はそれに思わず見とれてしまった。
「で、どっちが危険な奴?」
俺は迷わず大男に指を指した。
「まぁ、そうよね。今からあなたを
「あ、はい」
今日は良く見学をさせられる日だ。
「今度はお前が俺の相手か! 時間が無い。早くしろ!」
「はいはい、こっちも早く終わらせたいしね」
女の子は一呼吸し唱える。
――「解放」
体が光に包まれ、戦うために身に纏う。
その姿は真紅の『鎧』。
その姿はとても美しい。
初めて見る美しさだ。
特に足なんてすらっとしている。
だが、俺は気付いてしまった。
足りない部分があったのだ。
その体には存在するはずの腕が無かった。
それも
「君、腕はどうしたの……」
「あぁ気にしないで、いつものことだから」
彼女はそう告げる。
「さてと始めますか」
5
まさか『鎧』と戦う
『ヌル』なら楽勝なのに。
「ただ今から『鎧』と戦闘を開始します」
『了解。今度は気を抜くなよ』
「分かっていますとも」
「お前も鎧化できるとは今日はなんて良い一日だ! でも時間が無いぞ早く
「言われなくたって、じゃあ早くかかって来なさいよ!」
「俺を挑発するか! 面白いぞ気に入った! こっちからいってやる! さぁ第三ラウンドだ‼」
大男は突撃を開始する。
それを飛び越え、そして大男の頭上に着地。
そのまま蹴り潰す。
「うぐっ!」
大男は声をあげるが倒れはしない。
見た目通り、やっぱりタフね。
そしてすぐに地面に着地し、次に備える。
こいつは対して強くは無い。
恐らく私の前に戦った少年のせいもあるが、攻撃事態は対したことは無い。
次に大振りが飛んで来た。
だが遅すぎる。
それを足で
大振りに合わせ、左蹴りで
そして反動を利用し、右足で飛び蹴りをお見舞いし、その威力で大男を吹き飛ばす。
綺麗に決まると気分がいい。
「お前強いな! 楽しくなってきたぞ‼」
「早く倒れてくれないかなぁ? もう深夜よ。そろそろ帰って寝たいんだけど。」
「まだだ! 時間が来るまで戦うぞ‼」
「本当にしつこいなぁ……」
「離れていて!」と
「そこのあなた、少し手を貸して!」
「え……」
急に言われて、困っているみたいだ。
「とりあえず敵の体勢を崩して。任せたわよ」
「なんとかやってみます!」
「行くわよ‼」
白の『鎧』は走りこみ大男を全力で押す。
大男の体が少し
「
その隙に走り込み相手の後頭部めがけトルネードキックをお見舞いする。
「さっさと倒れなさい‼」
強烈な蹴りを浴びて、立ち尽くす大男。
決して
「やったのか⁉」
「そこ、余計なフラグを立てない!」
まったく余計なことを言うと口に出すとロクなことにならない。
だが本当に今のは決まったみたいだ。
そのまま大男の『鎧』が解除される。
そして倒れる。
私も「ふぅ」と一息。
ようやくといったところだ。
恐らく時間制限と体力の限界が同時に来たみたいだ。
いったいどれほどのダメージを負っていたのだろうか?
まったく化物みたいなやつね。
「終わりました」
『ご苦労。では生存者から情報を聞き出せ』
「了解です」
私も『鎧』を解く。
「あなたも解除して。それとも私と戦う?」
白の『鎧』は首を横に全力で振り続ける。
そして白の『鎧』も解除され、細身の男の子が現れた。
「さぁ話を聞かせてもらいましょうか」
6
「なるほどここで起こったことは理解したわ。で、あなたはただ一人この施設で生き残ったというわけね。その灯って人に感謝しなさいよ」
俺はここで起こったこと、灯さんに助けてもらったことを説明する。
「で、どうするの?」
「灯さんを助けに戻る」
「それもだけど、あなたはもう安全な『
死に抗った結果がこれか。
別に後悔しているわけでは無い。
でも俺はこれから危険な者として判断されるわけか。
「じゃあどうすれば……」
「あなたはこれから生きるために戦い続ける覚悟はある?」
「……」
「黙ってないで早く答えて⁉ どっちなの⁉」
「俺は生きていきたい。その可能性があるのなら戦い続ける」
女の子は黙ってうなずく。
「分かった。良いところを紹介してあげる。」
「頼む」
「自己紹介をしていなかったわね。私の名前はココロ。見てのとおり『忌能者』よ」
首輪を見せつけられる。
これは社会に管理されている『忌能者』の証。
俺はこれからそれを付けることになる。
生きていくために。
「で、あなたの名前は?」
「えーと、俺の名前は……」
誰かに名前を伝えるのは緊張する。
それが同じ『忌能者』であっても。
「俺の名前はコウ。俺も『忌能者』だ」
「じゃあ、よろしくね」
ココロが手を差し出してきた。
これは握手という合図なのだろう。
俺はココロの手を握る。
だが違和感に気付いた。
いやそれだけでは無い。
灯さんと握手を交わした時には温かさを感じたのだ。
だがココロの手は何も感じなかった。
これは普通の手では無い。
「あ、気付いた? これは義手なの」
「どうしてそうなった?」
多分、聞いてはいけないことだ思った。
でも遅かった。
「さぁ? 気付いたら腕が無かった。痛みも無く、いつの間にか無くなっていたわ」
意外と反応はあっさりとしていた。
「まぁ、あなたは気にしないで」
そんなのは無理だ。
だから鎧化した時に腕が無かったのか……
「で、これからあなたには『DE』に所属してもらうわ」
『DE』?
初めて聞く名前だ。
「分っていないみたいね。説明するからよく聞いて。『DE』というのは『鎧』に目覚めた『忌能者』を利用し、危険な者を排除する組織のこと。さっきの危険な『忌能者』や『ヌル』と主に戦うことになるわ。そこで所属すればお金ももらえるし、ある程度の自由も与えられる。そのかわりに戦い続けなければならない。常に死と隣り合わせの生活になると思うわ」
「でも俺は戦い方を知らないし、自分の能力も分からないぞ。それで大丈夫なのか?」
「経験を積めば戦えるようになるわ。それに新人に教えるのも私の仕事。今は私一人しか鎧化できないわ。だから一人でも多くの人材が欲しいところよ」
戦い。
これも俺が望んでいたものでは無い。
でもこれは生き方を変えるチャンスだ。
『DE』……そこに所属すれば何かが変わるのか?
「なぁ、そこに所属すれば俺は変わることができるのか?」
俺は問いかける。
外に出て、再び死と抗う運命にあるのだ。
聞いても悪くは無い。
「ただ生きているだけよりかはマシなんじゃないの? 何か目的を持って生きる。それって大事なことだと思うけど」
「目的……」
「そう目的。あなただけじゃなくみんなどこかで心の中で生きたいと思っているはずよ。ただそれに気付いていないだけ。生きるってことは確かに大事よ。でもそれは当たり前の生き方。誰しもがこの世に命を送られる、だったら必死に生きなくちゃ。でも生きるだけではいつしか壁にぶつかって何も出来なくなる。だからそれを乗り越えるための目的は必要なのよ」
ココロはそうやって言い切る。
自分が経験したかのように。
「まぁそんなに急がなくてもいいわ。とりあえず今は戦いになっても死なないことを考えなさい」
「良い話ですねぇ。私も加わりたい」
さっきの大男では無い、別の誰かだ。
「あんた誰よ⁉」
「私ですか、このデカブツを連れ戻しに来たものです。まさか失敗してしまうとは、実に
そいつは長髪で目は隠れており、猫背の男だった。
ボロボロに破れきった服を着ている。
だが、注目するところはそこでは無い。
その服は所々に乾ききった血がこびりついていた。
そして歩き方がゆっくりで実に
「じゃあさっさと帰ってくれない? 私たちも帰るから」
「もう少しお話を続けましょうよ? さっきの生きる目的。実に感動しましたぁ。私も生きる目的がありましてねぇ。聞いてくれませんかぁ?」
いや|奇妙じゃない。
単純に気持ち悪い。
そして不快だ。
「聞いたら帰ってくれる? 私はこれでも忙しい身なんだけど」
「どうするつもりだ?」
ココロの考えを聞いてみる。
「今は出来るだけ戦いたく無い。何度も鎧化は出来るだけ避けたいところよ」
同感だ。
「私、生きているうちにやってみたいことがありましてね」
「へぇ、何なの?」
適当な相槌を打つココロ。
「色んな方の血を見たいのです。だからあなた達も血を見せてくれませんか?」
「お断りよ」「断る」
同時に断った。
交渉は
「私も血を見せるので、駄目ですかぁ?」
もはや
会話が成立しているかも分からない。
「見せ合いっこしましょうよぉ」
まったく話にならない。
ココロの顔を見ると、あからさまに気持ち悪そうにしているのが分かる。
「じゃあ無理矢理、見ちゃいますね」
まずい、結局は戦うことになるか。
「鎧化して‼」
俺はココロの指示に従う。
――『『解放』』
お互いに叫ぶと同時に、鎧へと切り替わる。
相手は何をしている?
自分の腕をどこからか取り出したかも分からない、ハサミで刺している。
当然、血があふれ出す。
「これが私の血です綺麗でしょ? うん? 何をしているのですか? 鎧化していますが戦うのですか? そのつもりは無かったのですが仕方がないですね」
「こいつ戦うつもりが無かったのか?」
「いや、一方的に押し付けるつもりだったのよ。あいつの要求をね。こんな気味の悪い、生きる目的に目覚めないでよね。あれが悪い例よ」
――『
今のは鎧化のキーワードじゃない⁉
その瞬間、あふれ出す血が男の体中に纏わりついた。
液体の血がどんどん固まっていく。
やがてそれが完全に男を覆った。
「なんだあれは? あれも『鎧』なのか⁉」
「分からない。でも何らかの能力であることに間違いないわ」
「勝てそうか?」
「分からないわ。でもすぐに死ぬつもりはないから安心していいわ」
「あとアドバイスをもらえないかな?」
「しっかりと相手を観察すること。こっちは相手の出方が分からないうちは下手に突っ走らないことね。それとこっちは二人。数では勝っているから、もしものときはさっきみたいにお願いね」
アドバイスと期待を受け取り、俺は戦闘態勢に入る。
「では始めましょうぉぉぉぉぉ‼」
血塗られたハサミを持って叫び出す。
俺たちは再び戦いに巻き込まれた。
7
持っているハサミで突撃してくる。
遅くはないが、冷静に対処できる。
二人でそれを左右に回避し、アイコンタクトを
攻撃の合図だ。
お互いに同時に仕掛ける。
ココロは力のこもった蹴り。
そして俺は出来る限りの拳。
初めてにしては上出来のコンビネーションだった。
これは俺の力では無く、ココロの合わせてくれたおかげだった。
「ナイス!」
ココロが褒めてくれた。
純粋に嬉しい。
「今のはいいですねぇ」
敵からも褒めてもらった気に食わないが取りあえず
「でも血が足りません! 全く持って足りていません! 今すぐに血を見たいぃぃぃぃぃぃぃぃ‼」
やっぱりこいつの賞賛はいらない。
気持ち悪いなぁ。
それに尽きる。
「ではこれはどうでしょう」
急に落ち着いた声で喋り始める。
すると敵の腕から何かが伸びてくる。
それは血の触手としか例えられない。
そしてそれを振り回す。
俺は反射的にかがむ。
その赤い触手はかなりの早さだった。
だがココロにとっては遅いものだったらしく、それを飛び
敵はそれに対応するかのようにもう一度、触手を振るう。
しかしココロはそれを蹴り飛ばし、頭上に向かう。
そしてそのまま
綺麗に決まった。
だが、敵は倒れていない。
よく見ると振り下ろされた足は血の
血の盾だ。
そして血の盾が足を絡め取り、そのまま投げ飛ばされる。
危ない。
俺はとっさに判断し、受け止めるために動く。
だが彼女は、受け止めようとした俺を足場にし、そのまま加速して行き飛び蹴りの体勢に入った。
カタパルト扱いにされた俺は軽くのけぞる。
これもコンビネーションか?
だが彼女のためになったことは確かだ。
すると敵は血のつぶてを飛ばしてくる。
ココロはそれをものともせず、突っ込んでいく。
恐らく無事ではすまないだろう。
それでも攻撃を優先するのはなりふり構っていられないからだ。
ついに飛び蹴りが到達し、敵が吹き飛ばされる光景を見た。
今度は防げなかったようだ。
やっぱりココロは俺より遥かに強い。
いつかこんな
彼女は経験を積むことだと言った。
一体、どれほど経験をすればここまで強くなれるのだろうか?
彼女の動きはとても綺麗だ。
まだ会ったばかりだが、そして強くてとても美しい。
つい、見惚れてしまうほどの華麗な動きだ。
腕が無いことのへのハンデ全く感じさせない。
見ていると腕が無いことの方が自然体に見える。
とても
だが俺はそれに
見惚れていると、彼女は
ものすごいスピードの蹴り。
力強い蹴り。
そして鋭い蹴り。
彼女の足への信頼は凄まじい。
俺は手を出さない方が良さそうだ。
だが、いつでも手を貸せるように集中力は切らさない。
彼女がこちらに目を向けた。
何も聞かされていないが手を貸す合図だろう。
状況を見極め必要な行動をとる。
俺は出来るだけ敵に
ココロの邪魔にならないように注意を払い動く。
そしてココロが動き出す。
ココロは相手の頭を踏み越え高く飛び上がる。
踏みつけられた敵は
俺はその隙を狙って、敵の頭に蹴りをいれる。
ココロの
ただの
俺も強くなりたい。
そういう思いで真似をしてみた。
空中に飛んでいたココロが天井を蹴ってさらに勢いよく、落下しながら、蹴りを後頭部に食らわせる。
これが本当の蹴りだ。
俺が目標とするべき姿だ。
敵は
なら攻撃はまだ終わらない、
自分だけの力で敵を初めて吹き飛ばす。
これは灯さんの真似だ。
今日が初めての戦闘だ。
だが弱音を吐いてはいられない。
だから他人の動きを
まだ慣れないが手探りでやっていくしかない。
上手く決まると達成感のようなものが
「お見事!」
ココロが褒めてくれた。
正直言って嬉しい。
「初めてにしては中々やるじゃない! でもさっきの蹴りは何? 誰の真似をしているつもり?」
だがさっきの蹴りにはご不満のようだ。
俺も満足はしていないが、彼女にもプライドはある。
「もぉこれで終わりにしましょうよ。私も限界です。そろそろ補給しないと血が足りないのですよ。それに2体1ってずるくないですかぁ?」
「自分から喧嘩を吹っかけといて何を言っているの? でもこっちも終わりにしてもいいわよ。あなたが帰ってくれるならね!」
「倒さなくていいのか?」
「こっちも制限時間が迫っているから無理は出来ないわ」
「ありがとうございます。ではこれで終わりにしましょう‼」
敵は「クヒヒヒヒ」と気持ちの悪い声を上げている。
敵が何かするのにに俺は気付いた。
それは、ココロに向けらている。
その瞬間、敵の腕から血の
8
痛い。
熱い。
体が焼けている気がする。
そして
気持ち悪い。
気持ち悪い。
さっきの大男と戦った時に似たようなものを感じた。
だが今はそれとは大違いだ。
俺は血の刃が出現した瞬間に、反射的にココロの前に出た。
その結果、俺が切り裂かれてココロは無傷ですんだ。
「今ので
敵は血の『鎧』を解除し、血液パックを取り出しそれを飲んでいた。
「コウ! しっかりして‼」
俺を必死に呼びかけるココロ。
さっきの攻撃で倒れこんでしまった俺を必要以上に心配している。
大丈夫だよ。
声は出ないけどね。
痛いし、気持ち悪いけど、死にそうではない。
痛みや気持ちの悪さのせいで何かが見えた。
そこは現実でも無く、夢でも無い景色。
そこに見えたのは何もかもを吸い込んでいく穴。
飛び込んでくるものを拒まずに吸い込んでいく穴だ。
これは俺の力の
俺の
そこでようやく、自分の力をしっかりと感じることが出来た。
景色が消えていく。
どうやら気持ち悪さは収まったようだ。
痛みはあるが、意識ははっきりしている。
俺は再び立ち上がった。
奴の能力は自分の血液だ。
それを武器にしている。
傷は深くはなかったのは奴の体内の血液が足りていなかったせいだろう。
痛みはあまり問題ない。
そして俺の能力も何となく分かった。
さっきの大男の戦闘でも似たようなものを感じた。
体に走る痛みと気持ちの悪さ。
そして異物が入り込む感覚。
俺の体が無理矢理、何かを取り入れているのだ。
さっきの攻撃で俺は出血している。
次に血の噴き出た場所を指でなぞる。
そして血を鋭くするイメージで腕を振るう。
その結果、俺の小さな血の刃が敵の血液パックを切りさいた。
小さな刃だが、自分の能力を理解するのに十分だった。
そうだ、俺に宿っているのは受けて取り入れる力。
ただし、痛みやダメージが伴うがな。
全身に痛みが走る。
だが自身の力を知ることが出来たことに達成感を覚えたのか、その痛みは無視することが出来た。
「何ですか今のは? 私と同じ能力? いや違う? それにしては弱すぎる?」
さっきまで奇声を上げていた男が急に
「まぁ約束通り帰りましょう。コウ君でしたっけ?」
無言で
声を出すのが苦しい。
「あなたは珍しい能力を持っていますね。せいぜい張り切りすぎないようにしてくださいね。ではまた会う日まで。おっとこのデカカブツを忘れるところでした。ではさようなら」
自分の血で大男を簡単に持ち上げる。
もう二度と会いたくないよ。
ようやく痛みと気持ちの悪さから解放される。
この能力は使いどころが難しいな。
自分の力に気付き始めたが、まだ分からない部分が山ほどあるな。
もう危険はないと判断して、ココロは『鎧』を解く。
俺も解除する。
「もう大丈夫?」
心配そうに声をかけてくれる。
「あぁ大丈夫だよ。心配かけて悪か……
言い終わる前にビンタを受けた。
「なんで私をかばったの?」
どうやらココロは本気で怒っている。
「…………」
俺は沈黙する。
「ちゃんと説明をして!」
再びビンタが振るわれる。
「分かったよ! だからビンタはやめてくれ!」
ようやくビンタは止めてくれた。
「ココロが傷つくより、俺が
「そんなこと……」
ココロは
「そんなこと言わないでよ。私はもう仲間の死は見たくない。だから勝手に死なないでよ。あなたはもう私の仲間でしょ」
ココロは涙を流して、俺がどれだけ
「ごめん。もう無茶はしない」
彼女は普通の女の子だ。
確かに強い。
でもそれは外側だけだ。
内面はそんなに強くない。
彼女を悲しませることないよう心の中で俺は
誰かに怒られたのは初めてのことだった。
自分のために怒ってくれる。
そんな者は今まではいなかった。
9
ココロはようやく泣き止んだ。
ココロを泣かせたのは俺のせいだ。
誰かを悲しませたくない。
それは確かだ。
でも、それでも俺が無理をしないといけないならどうする。
答えは決まっている。
可能な限りの無理をする。
でも
それが出した
「そろそろ行きましょう。灯って人を助けるんでしょ? 早くしないと夜が明けそうよ」
「夜か見たこと無いな」
「施設だったら見ることが出来ないわね。もうそろそろしたら朝も見ることが出来ると思うわよ」
夜と朝、どちらも見たことが無い。
外の世界は時間帯で景色が変わるみたいだな。
ようやく灯さんのところに向かえる。
長かった。
結局二回も戦う羽目になった。
強制外出、初日からクタクタだ。
それに戦うことになるとは思ってもいなかった。
お互いに疲れが見え始めた。
ココロは夜遅くの仕事でここに来た。
いわゆる残業だ。
もう眠りにつきたいところだろ。
そして俺は戦闘によるダメージ。
血の刃を受けて、傷は深くは無いが多少は痛む。
早く灯さんの元へ急ごう。
しばらく、歩いていると、また足音が聞えてきた。
今度は遅い足取りだ。
足を引きずっているような姿が見えた。
そして完全に姿が見えた。
その姿は日向灯、ご本人だった。
相変わらずの笑顔だ。
「早く行ってあげなさいよ。」
ココロに
そして俺は灯さんの元へ向かう。
「灯さんよかった無事で……」
「コウ君も無事で良かった」
灯りさんは笑顔のまま喜んでくれた。
「一刻も早く灯さんの元に向かいたかったんです! でも戦いに巻き込まれてしまって、『鎧』に目覚めてしまいました。すみません。これじゃ一緒に働けないですよね。俺『DE』に所属することにします」
思いを勢いのまま伝えた。
「そっか……結局はそうなったのね。」
彼女は悲しい笑顔を俺に向けた。
「そんなに悲しまないでください。俺はこれから外に出ることがきるんですよ。そこでは自由も与えてもらえます。だからまた会えますよ」
「コウ君、お願いがあるの聞いてくれるかな?」
「はい何ですか?」
俺は笑顔なのに、彼女顔は悲しい顔に変化した。
「私をこれから殺して欲しい」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます