7 色々拗らせたティムの本音3

前話のティム視点。

ティムVS煩悩 第2ラウンド。


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「あれ?」

 俺は見慣れない部屋で目を覚ましていた。のろのろと体を起こし、働かない頭に活を入れて状況を整理する。それでようやく助けた姫様をタランテラにあてがわれていた離宮へお運びしたのを思い出す。その後の記憶が曖昧だが、倒れたか無理に休まされたかのどちらかだろう。

「姫様、大丈夫かな……」

 時間は既に深夜。夕方からこの時間まで寝ていたことになるので、体は随分と楽になっていた。腕の傷は治療を終え、寝台の脇には真新しい服が一式用意されている。有り難いことに何から何まで至れり尽くせりだ。

 騎士団の宿舎に帰らなければならないが、姫様の御様子も気がかりだし夜明けまで待った方がいいだろう。だが、この寝台は快適すぎるので、これ以上ここで寝ていたら起きれなくなりそうだ。

 深夜とはいえ、まだ誰かは起きているに違いない。状況把握はしておきたくて、俺は身支度を整えると部屋を出る。するとなにやら離宮全体が騒がしい。疑問に思っていると、向かいの部屋から皇妃様がユリウス卿に手を引かれて出てきた。

「ティム、起きたのか?」

「具合はどう?」

 2人は俺の姿を見て話しかけてくる。皇妃様の肩に小竜がおらず、それでユリウス卿に手を引いてもらっているようだ。

「俺は大丈夫です。それよりも姫様は?」

「一度目を覚ましたけど、また眠っているわ。薬の後遺症は心配ないみたいだけど、心のケアは必要ね。それから、あなたの事を随分と心配していたわ」

「そうですか……」

 色々と聞きたいことはあったが、騒ぎが激しさを増してそれどころではなくなる。何事かと尋ねれば、ちょっと躊躇ためらったのちにユリウス卿が答えてくれた。

「君の身柄を寄越せと神殿騎士団が言って来ている」

「俺の?」

 かいつまんで説明してもらったところによると、エルニアの利権を虎視眈々と狙っている連中が、昼間の俺の行動にいちゃもんをつけてきたらしい。しかも事後処理で奔走しておられる陛下の留守を狙ってである。

 そこからアレス卿を失脚させ、利権を手に入れる心積もりなのだろう。こちらは逆に問いただせばならないことがあるので望むところなのだが、それは2人に止められた。

「使いを送ったからすぐにエドも帰ってくるわ」

「君に出て行かれると逆に話がややこしくなっちゃうからね。大人しくしておくんだよ」

 俺に釘を刺すと、2人は怒号が飛び交う玄関ホールへと向かっていった。何か考えがおありなのだろうと思い直し、俺は階下の様子を見渡せる暗がりで成り行きを見物することにした。




 それにしてもひどいな。俺を貶めるだけならまだいいが、アレス卿を無能呼ばわり、エドワルド陛下をしゅうとの威光を笠に着るしか能がないなどと言いたい放題だ。だが逆にそこまで強気な態度をとれる彼らに驚きだ。

 タランテラの竜騎士達は優秀で、皇妃様に危険が及ばないよう彼らを一歩たりとも離宮に入れていない。特にユリウス卿の采配は見事で勉強になった。こうして客観的に見るようにしていないと、すぐに怒りで飛び出してしまいそうだ。

 パタパタと羽音が聞こえて小竜が俺の肩に止まる。何故か妙に甘えてくるので俺は階下に意識を向けながら無造作に頭を撫でてやった。

「ティム」

 不意に声を掛けられて振り向くと、いつの間にか姫様が立っていた。透けてしまいそうな白い夜着にショールをかけただけ。その服装に衝撃を受けた俺が固まっていると、駆け寄った姫様は俺に抱き着いた。

「姫様、ご気分が優れないのでは?」

 意識しすぎないように気持ちを落ち着けてから小声で尋ねると、姫様は首を振って俺のシャツをギュッと握りしめた。皇妃様が危惧していた後遺症でもあるのか心配で俺はどうしていいかわからずにおろおろしながらもう一度訪ねる。

「部屋に戻られますか?」

 姫様はこれにも首を振る。そしてうるんだ瞳で俺を見上げた。

「会えて、良かった。会いたかったの」

 姫様の答えに俺はたまらず彼女を抱きしめた。ああ、もう、そんな目で見られたら俺の理性はどこかに吹っ飛んでしまう。しかもわざとかと疑いたくなるほど、その柔らかな体をぐいぐいと押し付けてくる。俺は傷口を掴み、その痛みでこみ上げてくる男の欲望をどうにか耐えた。

「俺もです」

「怪我は?」

「大丈夫です。あれくらいはいつもの事です」

 俺は姫様を安心させるためにやせ我慢して答える。そしてこれくらいなら許されるだろうと自分に言い訳して彼女の額に口づけた。

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